2‐④ 狂星“ペガ”
サンタとシンラは第三層を歩きながら話をしていた。
「これがポセイドンを動かすのに必要な労力か……」
三層ではせっせと働く敗戦国の人間で溢れていた。淡々と無感情に体を動かしている。
「ミソロジアの人間が敗戦国の人間を拉致することは罪じゃない。ここにいる人間は拉致された人間半分、不法入国者半分ってとこかな」
「お主はなぜここにいる?」
「特に意味はない、ただ流れ着いた場所がここだっただけだ。少年は?」
「少年ではない、サンタじゃ。サンタ・クラ・スーデン」
シンラは“サンタ”と聞いて眉をひそめる。
「サンタ・クラ・スーデン。千年前の英雄と同じ名前だな」
「たまたまじゃ」
「それでさっきの質問には答えて貰えるのか」
「ワシらはアンドロマリウスのパーツを集めるためにオーランを目指している。だからオーラン行きの船があるこの街に来たのじゃ」
シンラは足を止め、サンタを睨む。
「賛成しかねるな。アレは世界を滅ぼせる力だ」
シンラは間近で見たことがあるからこそ言い切る。
アンドロマリウスの真の力。それを目撃した者はシンラの今の台詞を何の誇張とも思わないだろう。
「だけどお主らの副団長はワシらに賛同していたぞ?」
「副団長……グエンさんに会ったのか!?」
「ワシは会ってないが仲間の一人にグエン・センフルを恩師と崇める少年がいる。そしてグエン・センフルはその少年に“アンドロマリウスの右腕”を託し――死亡した」
シンラの表情が濁る。
そうか。と呟き、シンラは目に見えるぐらい落ち込んだ。
「サーカス団の団長をやっていると聞いたが、あの人はまだ闘志を失っていなかったか」
サンタはシンラの悔しそうな表情を見て“まだ腐りきっていない”と思い直す。
「シンラ・バード。もう一度義竜軍と……」
サンタが誘い文句を口にしようとした時、
「シンラ」
おしゃぶりを付けた少女が曲がり角から現れた。
「こやつは?」
「仲間のマリンだ。――どうした?」
「今、ピスケスから連絡があった。――この街に三秦星のペガが来ている」
サンタとシンラは同時に『何!?』と体を震わせた。
「悪いことは言わないぞサンタ。この街では何もしない方がいい、ペガが帰るまで大人しくしているんだ。あの女は冷静に狂っている!」
「わかっておる。狂星ペガ、奴の醜い武勇伝は数えきれんほど聞いている。――ワシは何も起こさない」
サンタは額に汗を浮かべ、「だが」と言葉を紡ぐ。
「二人ほど、起こしそうな奴がおる」
サンタが想像する二人の内一人はマリンを追ってサンタの前に現れた。
「待てって言ってんでしょうが! ――ってアレ? サンタ?」
「一人は大丈夫のようじゃ。となれば、心配なのは……」
* * *
ツミキは魚の干物が入った紙袋を左手に財布を右手に持って第二層を歩いていた。
「うーん。まだ少し足りないかなぁ」
水路のない少し落ち着いた店が並ぶ道をツミキは通る。
(やっぱり、気になるな)
気になるのは他国の人間。特に先ほどの少年が頭から離れなかった。
(あの子、すごく細身だったな……皮と骨しかなかった)
ツミキが考えを巡らせ、右足を前に出した時、一人の女性がツミキと同じ道に足を踏み入れた。
――瞬間。
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「え?」
――景色全てに殺意が浮かび上がった。
建物、人、ペット全てに×印が浮かんでいる。それも禍々しい紫色の×印だ。
ツミキはあまりの異常事態に膝を笑わせ財布を手から滑り落とした。
(な、なんだコレは!? 危険信号が暴走している!? いや、違う。これは、“危険信号”は間違っていない……)
ツミキはわかる。わかってしまう。信じたくない事実を……
(いるんだ、近くに! 目に映る全てに殺意を抱いている人間が!!!!)
初めて見る色。
強く純粋な色だ。ツミキは心外にもこの色を美しいと思ってしまった。それが逆に恐ろしかった。
「あれぇ?」
その殺意の主はツミキが落とした財布に気づき拾う。
そしてツミキの背後から笑顔で話しかける。
「きみぃ。財布、落としたよ♡」
レビュー感謝! 次回更新は少し遅れそうです! なので今日は二つ投稿しました!!




