1-⑲ “Andromalius” その3
――『ツミキ。俺がいない間、母さんを頼むぞ』
――『ツミキ。お父さんがきっと戦争を終わらせてくれるからね』
――『俺らはここで金を溜めて、その金を使って士官学校に入るッ! そんでいつか英雄になるんだッ!』
――『嬉しい時は素直に喜べ、悲しい時は素直に泣け、そういう素直さこそ若者の強さだ』
(父さん、任せてよ。母さんは僕が守るから)
憎い。
(母さん、戦争は終わったよ。だからきっと、父さんもすぐに帰ってくる)
憎い……
(カミラ。そうだよ、君なら英雄になれる。僕も最大限助けるからさ……)
憎い――
(団長。素直さこそ強さだって言うなら、この気持ちにも素直になっていいんですよね?)
――憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ!!!!!!
(駄目だ! この人はここで駆除しないと、もっと多くの人間に迷惑をかける。倒さなくてはいけない。僕の手で、僕の意思で! だから、誰でもいい……僕に力を――)
体中が黒い霧に包まれた時、声が聞こえた。
――“望むか? 少年”
重い、男の声。
威圧的だがどこか心地いい。ツミキは妙な懐かしさを感じていた。
――“世界を変える力が欲しいか?”
それが誰なのかわからない。だが、ツミキはこの謎の声に反応する。
「そんなものは――いらない」
世界を変える力。いつかは望んだ力だ。しかし、今は必要ない。今は、もっと大切なことがある。世界よりも大切な事柄がある。
ツミキの右目から真っ黒な血が流れる。赤い血筋が右目の瞳孔に向けて浮かび上がってくる。
ツミキは怒りと憎悪を滲ませた声で言う。
「今はただ――」
“シーザーをぶっ殺す力が欲しい……!!!!”
声の主は静かにツミキの言葉を聞き届け、言い放つ。
【いいだろう。ならば呼べ、我が名を――】
時間が元に戻る。
シーザーは悪寒を感じ、動きを止めた。
(なんだ、このプレッシャーは!?)
アズゥの全身から黒い霧が湧き上がる。禍々しく、狂った霧だ。その様子をサンタは遠くの一軒家の屋根の上から眺めていた。サンタは喜びを帯びた驚きの表情をしている。
「あれは……まさしく――」
湧き上がった黒い霧はある存在を象る。
ツミキは小さく、だけどハッキリと彼の英雄の起動式を呼ぶ。
「灯せ。“Andromalius”」
ここでプールvsアーノルドの最後に繋がります(わかりにくくてすみません)。




