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1-⑮ 砦攻防戦

 ミソロジア辺境の地であるこの砂漠地帯“スレイク地帯”を越えるための方法は四つ。


 一つ、砦を越える

 二つ、海や湖を越える。

 三つ、山を越える。

 四つ、空から抜ける。


 まず二つ目、これを選ぶことはまずない。海も湖も義竜軍の監視がある上、海対陸での戦いになれば地上兵器として完成されているチェイスがいる陸が強いのは当然である。射撃戦の後に船や戦艦はあっさり沈むだろう。(それ以前にサンタやプールの手持ちに船や戦艦などない)。


 三つ目。これはほとんど不可能だ。砦の(そば)にある山は高く、斜面がキツイ。登ろうとすれば大仰な準備が必要で、そんなことをしていたら義竜軍の監視にかかるだろう。


 四つ目。空を飛べる兵器など限られている。無論、ツミキ達は空を飛ぶ兵器を持っていないため不可能。それはアーノルドもシーザーも理解していた。使えるのならばすでにこの地帯から離れているはずだ。


――なら、彼らが“スレイク地帯”を抜けるために通る道は一つ。砦だ。


「ですがアーノルド様。なぜ近日中にこの地帯を出るとわかるのですか?」


 部下の一人が砦の管制室で腕を組むアーノルドに問う。


「ここは閉鎖的な区域だ。ここから出る(すべ)は一つと言っていいだろう。ゆえに時間を掛ければ掛けるほど我々は砦の戦力を固めることが出来る。ならば――」


 賊にとっては早めに退散するのが吉である。


 アンドロマリウスの右腕のある可能性が高い場所は他にも三か所ほどあった。だが、先日の一件でここら一帯に絞られたのだ。


 刻一刻と集まってくる義竜軍の猛者(もさ)たち。その中には高性能型(ビショップ級)を持つ者や特化型(ルーク級)を持つ者もいるだろう。彼らがくればアンドロマリウスの右腕を持っていても太刀打ちできない。


 アーノルドの部下と同様の質問を子分(こぶん)からされたシーザーは、砦の近くの木の影から砦を双眼鏡で監視しながらアーノルドに続くように言葉を紡ぐ。


「アイツらもそれは理解している。時間はねぇ、明日には“星守(ほしもり)”が来るだろう。そうなれば勝ち目は万に一つも無くなる。今日から明日の朝にかけて、ここがデッドライン――」


 “星守”、それは義竜軍の――いや、世界で三指に入るパイロット三人のことを言う。彼らの内一人でもくればこの地帯すべてを滅ぼすことができるだろう。交戦は無謀である。


 現時刻、午後の十時前。


 ジリ、ジリ、と戦場には独特な緊張感が漂っていた。


――道は一つ。しかし、突破する方法は無数。


 ここばかりは予想は軽く立てるだけで柔軟に対応するしかない。


 砦は大門が一つ。そしてそこから左右に背の高い壁が広がっており、壁の切れ目には山がある。門の前には義竜軍のチェイスが十機ほど並んでいる。


 壁の上にはチェイスが暴れられるだけのスペースがある。アーノルドがいる管制室は門の真上、賊を見つければすぐに出動できる。


 義竜軍。兵力:量産型(ポーン級)二十一機、発展型(ナイト級)一機。砦の防衛兵器多数。


 ハングゥコルン。兵力:量産型十機、発展型一機。


 双方互いの気配を感じつつも、優先順位は後回しだ。今はもうすぐ来るであろう賊に意識を集中させる。


 アーノルドは思考を巡らせる。




――どうくる?





 シーザーは策を巡らせる。




――どうくる?



 


 だが二人の思慮は無駄となる。相手が選んだ戦法はあまりにも無様で、あまりにも突飛だったからだ。


「兄貴。なんか、変な音しやせんか?」


「変な音?」


 シーザーは子分に言われて気が付く。地面を削って目に見えない何かが大門に迫っていることを。


「アーノルド様! なにかがこちらに向かっております!」


「なにかって何だ!?」


「わ、わかりませんッ! ――これは“トランスペアレンシー”を搭載した物体……透明兵器ですッ!」


 シーザーとアーノルドは同時に解を得る。


 透明で移動できる要塞――それは、あのピラミッドしかないと。そして敵の思惑をようやく理解し、両者は汗を浮かべた。


「アイツらまさか――」


「や・め・ろ――!! 愚か者がああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」


 愚か者(サンタ)は声高に言う。


「突撃じゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」



 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオォオオオオンッッ!!!!!!!! というすさまじい轟音。


 何トンもある巨体が義竜軍のチェイスを踏みつぶし、砦の大門を相討ちの形で破壊した。






 * * *





 動き出す全陣営。


 ツミキ、サンタ、プールはピラミッドの中から改造した軽トラックで飛び出し、疾走する。荷台にはアンドロマリウスの右腕が布を被せて乗せてあった。


 いつもはプールが運転しているが作戦上サンタが運転している。慣れてないゆえに荒く、不安定な運転だ。なのに、人一番速度は出している。


「バカッ! もっと安全運転できないのか!?」


 荷台からプールは文句を垂れる。


 同じく荷台に乗っているツミキはアンドロマリウスの右腕にしがみつきながら震えている。


「な、なんですかこのトラックは!? 200キロは出てますよッ!!」


「え!? なんか言った? 全然聞こえないっての!」


 現在砦の付近は義竜軍のチェイスとハングゥコルンのチェイスでぐちゃぐちゃに混みあっていた。


 お互い敵だ。ハングゥコルンは特別義竜軍を倒す必要はないが義竜軍は目の前の賊を逃がすわけにはいかない。潰し合う量産型、そんな中、たった二機だけ卓越した操縦技術と他を寄せ付けない機体性能で密集地帯を乗り越え、ツミキ達を追っていた。


『逃がさん! ここを逃せば私の立場はない!!」


『好都合だ! ここで右腕を奪えばその足で安全地帯まで逃げれる!」


 両方とも発展型。パイロット二人はやるべきことが見えており、互いに互いを倒す意思はない。最優先は――


『『アンドロマリウスだッ!』』


 発展型の速度は魔改造されたトラックを超える。


 ジワジワと追いつかれていく。だが、ここまでは計算通り。森林を抜け、昔戦場だったゆえに焼け焦げた都市の跡地に出た時、プールは動き出す。


「――ツミキ。アーノルド(邪魔な方)は私が引き受ける。アンタはあと二キロ引き付けたらアンドロマリウスの右腕を使ってシーザーをぶっ倒せッ!!」


「了解です!」


 軽トラが瓦礫に乗り上げ空へ跳ねる、同時にプールは軽トラから勢いよく飛び出した。


 そしてトリゴ(ポーン)の駒を握り、起動式を叫ぶ。


「起きろッ! “トリゴ”ッ!!」


 白光と共に空中で展開される旧式の量産型チェイス“トリゴ”。


 トリゴはその勢いのままアーノルドが乗る発展型(ウィリディス)の胸部を蹴り飛ばした。重量級のトリゴでなかったら足は壊れていただろう。 


 ガシャンッ! と倒れるウィリディス。アーノルドは乾いた笑い声と共にウィリディスの体を起こす。


『――下民。貴様の死は確定したぞ?』


「下民の戦い方ってやつを見せてやるよナイト様」


 トリゴとウィリディスを尻目にシーザーはトラックを追う。


「来ましたね。ピーターさん」


『ハハハハハッ! テメェにそれが守れるか? ツミキ』


 “アンドロマリウスの右腕”争奪戦はクライマックスを迎えようとしていた。



次回、プールvsアーノルド! デュエルスタンバイ!!

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