6‐⑱ ルール・マクチス
目の前の女性が嘘をついているようには見えない。
だが世界が滅ぶと言うのは突飛すぎる。
ツミキは冷静に、問いかける。
「力になれるのならなります。だからまずは、あなたの知っていることを教えてください」
「――あ。あぁ、そうだね。少し、冷静さを欠けていたようだ。すまない……場所を変えよう。またいつ奴らが来るかわからない」
ルールはマスクとサングラスを装着し、全体的に服装を変えて、家を出た。
ツミキとルールはそのまま街はずれの小さな酒場へ行く。
ルールはツミキと自分の分の飲み物を頼むと、煙草に火を点け、机を指で鳴らしながら必死に自分を落ち着かせた。
「……少し待ってくれたまえ。整理する」
ルールはツミキを見て、一枚の写真を取り出した。
「君は、『死を拒絶する者達』という名を知っているか?」
「エレウシス? いいえ、聞いたことありません」
「そうか。――そうか……」
ルールは写真を懐にしまい、ガタッと鞄を持って立ち上がった。
「や、やっぱり駄目だ! 君のような少年には荷が重すぎる!」
「えぇ!? ここまで来てそれはないですよ……!」
「いや駄目だ! 無駄に被害を増やすだけになる。やはり……なんとかして私が脱出するしかない……」
ツミキは目の前の女性を冷たい目で見る。
(なんだか、凄い大事みたいだな……今は僕も緊急事態だから話したくないならそれでも――)
ぱら。とルールの懐から写真がテーブルに舞い落ちる。ルールは慌てて拾おうとするが、それより速くツミキは写真を掴み、その画像を見てしまった。
「これは――」
通常のチェイスよりサイズが一回り大きい機兵、その中央にはめ込まれる白銀のコックピット。
その色と質感から、ツミキはそれが何かすぐにわかった。
「アンドロマリウスの胸部――!」
なによりツミキは一度、“英雄の黒影”を通してアンドロマリウスの風貌をシルエットで確認している。写真に写ってるのはまさしくあの時見たコックピットだった。
「む! 一目でわかるのか?」
「しかも、なんだ? コックピットから管が伸びている……」
ツミキは改めてルールを見る。
「教えてください。この写真はどこで撮ったのですか?」
「いや、しかし」
ツミキの瞳。
ルールは瞳の奥底に眠るモノを見て、心臓を震わせた。
(長年の記者人生から多くの傑物を見て来たが……この少年の瞳から感じる“純粋さ”は、誰よりも黒い。さっきの私を助けた動きも、戦いなれたものだ。銃の前で臆せず相手を威圧する、そんなことが普通の少年にできるものか。――興奮する! 私の体に流れる記者の血が、この少年をマークしろと轟き叫んでいる!!!)
「あの、ルールさん?」
ルールは喉を鳴らし、
「……賭けてみるか」
椅子に座り直す。
「『死を拒絶する者達』とは、この街を牛耳る義竜兵のことだ」




