表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第六幕 美術都市“アート・キングダム”
165/166

6‐⑰ 原初のチェイス

 ツミキは心の動揺とは裏腹に、顔はいたって自然を装っていた。


「へぇ~! アンドロマリウスの右腕、その()()ですか! すごいな~。初めて見ました!」


「…………。」


 獅子波はジッとツミキを見つめる。

 もちろん、ツミキは嘘を言った。ツミキは良く知っている、アンドロマリウスの右腕の輝き、大きさ、質感を。目の前にある物体は間違いなくアンドロマリウスの右腕だと、ツミキは確信をもって言える。


(どうして獅子波さんがこれを? 明らかにカマかけてるな……)


 獅子波はヘラッと笑顔を浮かべ、両手を広げた。


「そ。これがアンドロマリウスの右腕、その模型(プラモ)さ。そんでもって、右手側を見てみな」


 ツミキは視線を横に逸らす。するとそこには右腕のないチェイスが立っていた。

 黒色のチェイスだ。左手には爪のようなものが付いており、臀部には蛇腹剣のような尾が付いている。眼光は獣のように鋭く、狼のような印象を持つ。


「アレが坊主が見たがっていた原初のチェイス……“Kreios(クレイオス)”。まぁ、ちとばかしパーツを足してるから“クレイオス‐RA(アールエー)”ってとこかな」


「“クレイオス‐RA(アールエー)”……」


 ツミキはクレイオスを前にして、その鬼のような形相に眉を揺らした。


(顔怖いな~……なんか“怪物”って感じだ。爪とか尻尾とか付いてるし。チェイスに好みとか無いけど、どうせならもっと白くて騎士っぽくてカッコいいチェイスの方が――あと角は欲しいよね。角。V字のやつ)


「どうした? 暗い顔をして。もしかして気に入らないなんて言うんじゃねぇだろうな?」


「い、いえ、とんでもない! すごく、カッコいいですね……野性味あふれる感じで」


「ははははっ! だろう? 野生と機兵の融合、相反する二つが惹かれ合ってこそ(いき)ってやつさ」


 ツミキは額の汗を拭う。


(間違いない……銀腕も、このクレイオスというチェイスも本物だ……!)


――なぜ獅子波さんはこれを僕に見せた?


――僕の正体がバレているのか?


――もしそうなら、なぜすぐに拘束しない?


(獅子波さんは義竜兵なのか? こんなチェイスを製造できるんだから、それなりに資金力が無いと……でも義竜軍ならすぐに僕を捕まえるはずだし。――駄目だ)


 ツミキはチラッと獅子波を見て、その軽快な物腰に恐怖を覚える。


(この人、なにを考えてるかさっぱり――)


「オイラは坊主が考えてること、結構わかるぜ」


 ぎく。とツミキの背中が痙攣する。


「――なーんてな」


 肩を竦める獅子波。

 ツミキは獅子波 忍という男に心の底から恐怖した。三秦星のペガや、監獄で出会ったラッキーボーイのような底の知れない純粋さを獅子波から感じ取った。


「す、すみません……僕、そろそろ用事があるので!」


 ツミキは格納庫の扉を見つけ、走っていく。


「失礼します!!!」


「おう、またなぁ~! ちなみにコイツは()()()()()()()()()()()()、見たくなったらいつでも声をかけてくれ!!!」



 ツミキは街を走り抜け、誰も追って来てないか背後を確認する。


(よし、ここまで来れば大丈夫。それにしても、獅子波(あの人)一体なんだったんだ?)


 高性能型チェイス“クレイオス‐RA(アールエー)”と“アンドロマリウスの右腕。

 問題なのは後者……。


「やばい……森に置いといて拾われたとか。確実にプールさんに殺される!? どうしようどうしよう! は、はやく取り戻さないと――!」


 焦るツミキ。

 必死に打開案を考えようとした刹那、ツミキの左眼に青い×印が浮かんだ。


(危険信号――!?)


 ツミキの危険信号の範囲は25メートル。

 そのギリギリの範囲、裏道の家の中だ。


「あそこか!」


 ツミキの脳内に殺意を中心とした映像が流れる。


 青い軍服、フードを被った……恐らくは義竜兵と思しき人物が、涙目の女性に銃を向けている。


(猶予は十秒も無い……!)


 ツミキはなにを考えるよりも早く動き出し、問題の家の窓に向かって地面に落ちていた石を蹴り上げ・キャッチし・ぶん投げた。

 

 パリーン! と飛び散るガラス。窓の近くに居た義竜兵は窓の破片で右手を切る。ツミキは割れた窓から手を突っ込み、カギを開けて中に侵入。そのまま地面に腰をつく女性の前に立つ。


「なにをしてるんですか!?」


『――――!?』


 小柄な義竜兵はツミキを見ると、負傷した右手を抑えながら出て行った。ツミキは深追いはせず、襲われていた女性に駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


「あああああ、ありがとう! ありがとう少年! あと少しで、確実に死んでいたよ私!」


 女は眼鏡をかけている。部屋の中は新聞や雑誌の切り抜きで満ちていた。

 女は助けて貰ってすぐに、ツミキの両手を掴み懇願する。


「悪いが少年、急用だ! 頼みがある!」


「お、落ち着いてください……!」


「わわ、私は記者の“ルール・マクチス”と言う! お願いだ少年! この街から離れて、私の記事を外に届けてくれ! でないと、世界が滅んでしまう!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ