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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第六幕 美術都市“アート・キングダム”
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6‐⑯ 獅子波 忍

 義竜軍が内輪もめし、サンタ達が手をこまねいている時、ツミキは一人――



「いやー、極楽極楽~」



 風呂に浸かっていた。

 旅館の大風呂。客はツミキしかおらず、貸し切り状態。美術都市の例に漏れず桶からタオルの模様まで奇形だ。


(ゆっくりお湯に浸かるなんていつぶりだろう? これまでは精々冷水で身を清める程度だったからなー)


『お! こりゃ珍しい! 先客が居るとはな』


「ん?」


 ガラッと浴室扉を開けて、筋肉質な男が入って来た。


「オイラが二番手になるとはなぁ! たまには悪くねぇか!」


 男は軽く体を流した後、ツミキの入っている風呂へ足を入れる。


「ふー、やっぱり朝風呂は朝六時に限る! な、坊主もそういうクチだろ?」


「いえ、僕はたまたま……」


「そうなのか? 坊主、ここらじゃ見ない顔だな……」


「はい。まだここに来て二日目なので」


「客ってわけか。へぇ、そりゃ――運の悪い」


「運の悪い?」


「まぁこれも何かの縁だな。オイラがここの風呂場のフルコースを教えてやる!」


「えぇ!? い、いや僕はもうすぐ出ようと……」


「遠慮するなって! オイラは〈獅子波 忍〉。おめぇさんは?」


「つ、ツミキ・クライムです……」


「よおし! ついて来いツミキ! いいか、サウナはデザートなんだ。まずは電気風呂で体に刺激を与えてだな――」


「い、いやだから! 僕はもうあがるところで――!」


 その後、ツミキはゆでタコになるまで“獅子波特製風呂フルコース”に付き合わされた。


――時間は回って午前七時。


 ツミキは真っ赤な顔をして旅館の自販機の前のソファーに寝っ転がっていた。


「坊主! いちご牛乳でいいか?」


「はい……お願いします」


 獅子波は瓶のいちご牛乳をツミキに渡し、自分は普通の牛乳をごくごくと一気飲みする。


「ひゃー! これだねぇ! それにしても坊主、風呂に弱くちゃ男が廃るぜ」


「すみません、久しぶりだったもので……」


「まぁ無理やり付き合わせたオイラが全面的に悪いけどな。その牛乳はせめてもの謝罪の意として受け取ってくれ」


 獅子波は空の瓶を処理場に置き、背筋を伸ばす。


「さぁてと、オイラはそろそろ仕事場に行こうかね。お! なぁ坊主、おめぇさんこれから暇か?」


「ええっと、一時から予定がありますが午前中は空いてます」


「だったらよ、オイラの作品を見に来ねぇか?」


「作品……ですか」


「応! 今日の朝完成したんだ! 中々の逸品だが、誰かに見てもらわなきゃ報われねぇってもんよ」


 獅子波の発言を受けてツミキは先日出会った男、エレウ・クラテスを思い出していた。


(やっぱり、美術の街なだけあって、見せたがりの人が多いんだな)


 芸術に与する理由は人それぞれだが、大多数の芸術家が『誰かに見てもらいたい』という承認欲求に似た感情を持っているのは間違いない。ツミキは改めてそれを理解する。


「獅子波さんはどういう分野の……」


「プラモデルさ、プラモデル。古今東西、色んなメカを模型化している。何百年も前のチェイスモデルもあるぜ」


「――もしかして、チェイスの原型の“ピース”や、レイジレスト殲滅戦で使われていたチェイスの模型とかも……」


「レイジレストを知ってるたぁ珍しいな! おう、“原初のチェイス”って呼ばれてる第一世代のチェイスもある! コイツも中々の出来だ!」


 その時、歴史マニアのツミキの眼に火が灯った。


「行きます! 見させてください!」


「そうこなくっちゃなぁ!」


 早速、ツミキと獅子波は旅館を後にした。

 旅館から歩くこと数分、ツミキと獅子波は会話を一つ終えるより速く工房へたどり着いた。


「おっきぃですね。チェイスが入れそうなぐらい……ここでプラモを?」


「おうよ。待ってな、今シャッターあげるからよ」


 そこは街の裏側とも言える影の濃い場所で、門からも近い。巨大な工場のような場所だった。


 シャッターが開き、ツミキは歩みを進める。だが、中は真っ暗で陽光は周囲の建物に遮られほとんど何も見えない。


(うっわー、暗いなー。でも油臭くて、なんだか()()()の作業部屋を思い出すなぁ……)


「暗くてわりぃな。すぐに灯りを付ける」


 獅子波はシャッターを閉める。すると自分すら見えないほどの暗闇にツミキは包まれた。


「獅子波さん!?」


「落ち着け。あと三秒だ……前向いてろ、前! 3、2、1……っと!」


 瞬間、眩い光が工場の中を照らした。

 ツミキは急な光度の転換で一瞬目を傷めるが、すぐにもとの視野を取り戻す。


 ツミキは正面にある物体を見て、


「え――」


 っと、()()()を垂らした。

 そんなツミキの表情を、獅子波はヘビがカエルを睨むが如く観察していた。


「それな、今朝見つかったんだ……」


(そんな馬鹿な……どうしてここに!?)


 銀色の光沢。チェイスの右腕。

 見間違うはずもない。ツミキにとって、相棒とも呼べる兵器――



「アンドロマリウスの右腕さ。――見覚えねぇか?」

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