6‐⑭ 画竜点睛
カミラは震えていた。
それは武者震いから来るものか、それとも恐怖から来るものか、はたまたどちらともか。
『気楽に構えたまえ。戦いとは作品だ。互いの研鑽をぶつけ合い、剣戟の先に武を彩る。私一人で名勝負を作ることはできないのだよ。君が食い下がってくれなくては……』
「生憎昔から美的センスは無くてな。全部金色で塗りつくさねぇと気が済まねぇんだよ!!」
カミラは輝光剣をアウルムの臀部に付いた充電端末にしまい、背中の盾とライフル(エネギストβ)を構える。
(ピスケスの話だと、軽装のチェイスは大抵接近戦向き。あの銃に目を奪われそうになるが、コイツはインファイターと見た!)
首なしのチェイスは手に持ったアサルトライフルの銃口を……上に向けた。
「どこを狙って――」
『まずはこの色でいこう』
そのまま引き金を引き、銃口から十数発の輝光弾丸が噴出される。
弾丸は空に上がり、宙を舞って、アウルムへと襲い掛かる。カミラは盾を上に、アウルムの背を屈ませて防御態勢をとる。
(ちっ……! 弾道操作か!!)
雨の如く降り注ぐ弾丸を盾で防ぐ。カミラは盾は上のまま、ライフルで首なしのチェイスに狙いをすませる。
『いいのかな? よそ見をして』
カミラはしっかりと撃ちあげられた弾丸の軌道を見切ったつもりだったが、アウルムの盾は耐えているのに盾を持つ左腕に弾丸を受けていた。
「ガードをすり抜けた!? ――違う、途中で弾道を変えたのか!?」
カミラは「嘘だろ」と困惑した。
(ふざけるな。輝光の弾丸は確かに弾道を操ることができる。だがそれは、あらかじめプログラムしていなければならない! 盾を避けてアウルムに当てるなんて細かい動きは、予知でも出来てない限り不可能だ! ――つーか、チェイスの弾道管理領域はよくて二十メートル程度のはずだろ!!)
空に撃ちあげた時点で二十メートルは使い果たし、そこで一度弾道変更する。そこまではチェイスとして当然の性能だった。しかしそこからまたアウルムの直前で弾道を変えるのは不可能だ。ただのチェイスならば――
『“ディオニューソス”の管理領域は通常のチェイスを大きく上回る。例えば、こんな芸当もできる』
首なしのチェイスはアウルムを狙って銃を構える。カミラはライフルを捨て、盾を右手に持った。
再び放たれる十数発の弾丸。しかしそれらの弾丸は盾に届く前に空中で静止、光の玉となって首なしのチェイスの側に戻っていった。
光の玉を周囲に滞らせるチェイスを見て、カミラは開いた口が塞がらない。
『理解したかね? これが“イスト・クラウン”が一子、“ディオニューソス”の力さ。そして私の手元に戻した弾丸は、再び発射することができる』
「倹約家だな……!」
カミラが驚いたのはチェイスの性能だけではない。
(あれだけの弾を同時に精神体で操るなんて……一度にラジコンを十個以上動かすようなもんだぜ)
『ほら、君の好きな金色だ。くれてやろう』
宙に浮いていた弾丸が発射される。
カミラは盾を構えながら後ろへ退いた。
(なんとかアイツの管理領域から逃げねぇと――)
時すでに遅し。
カミラは追いつかれると判断し、盾を投げる。盾を迎撃すべく、七発の弾丸が盾に接触四散するが、残りの十発がアウルムに迫る。絶体絶命のピンチの中、カミラの脳内に一つの文字が浮かび上がる。
(死――――)
だがその一文字をきっかけとしてカミラの瞳の中で炎が散った。
「んでたまるかよっ!!!!」
開花型の心能、“火事場力”の花が咲く。
カミラは超人的な反射神経・動体視力で弾丸の動き、操作を読み切るも、
「ちぃぃぃいいいいいいいいいいいっっ!!!」
右脚と頭、コックピット側面を損傷する。だが、なんとか息は繋いだ。
「やるしかねぇか……!」
カミラはアウルムの腰より、赤いハンドガンを取り出し、自分に向ける。奥の手を披露するために……
「禁呪――」
アウルムの禁呪解放、その力は――
『言ったはずだ。よそ見をしていいのか、と』
カミラの宣言をかき消す弾丸が空より舞い降り、アウルムの手に持った禁呪解放の引き金であるハンドガンを撃ち抜いた。
カミラはエレウの初撃、空に撃ちあげられた弾丸を思い出す。
「あの時に――!?」
『まだ空に弾丸を残していた、と言わなかったかな?』
首なしのチェイスはアサルトライフルを構え、
『さて、どう描く』
無情の弾丸をアウルムの元へと送り込む。
「クソッタレがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっーーーーーーーー!!!!!?」
『――駄作だな』
光の煌めきと共に、アウルムは弾丸を浴びた。
『すごい……』
『これが我々のトップ。圧倒的だ……』
「あんな猿がエレウ様に勝てるわけないっての!」
カミラの敗北を見て、ポイナは首なしのチェイスへ陽気に駆け寄る。
「さっすがエレウ様♪ 一方的にあの猿をやっつけてくれましたね!」
『ポイナよ、死にたくなければさがっていることだ』
「え……」
『なるほど。そういう心能か』
「輝光剣……二極ッ!!!」
頭は砕け、左半身は損傷。それでもアウルムは生きていた。
ブーストを全開にし、右膝を引きずりながらアウルムは突進する。右手に持つは双刃剣、双刃剣はクルクルと高速回転していた。
エレウは光の弾丸を繰り出す。四方八方に弾丸は散り、全ての角度から接近を試みるが――
「“蛇突き”ッ!!」
回転する双刃剣から無数の斬撃が放たれる。斬撃はヘビのようにくねり、光の弾丸が方向転換する一瞬の静止を逃さず、斬り落とした。まるで花火でも散ったかのように、火花が中庭に飛び散る。
「嘘……アイツ、弾丸を剣で迎撃した!?」
「よもや、これほどとはね……」
アウルムは弾丸を叩き落した後、刃を一点に集中させる。
「届けええええええええええええええええええっっっーーーーーーーーー!!!!!」
メタラを破った斬撃が首なしのチェイスに迫る。
エレウは危機迫る中、瞳に墨のような黒い点を浮かび上がらせた。
『すまないが、最後の一筆は譲れない』
アウルムの斬撃は銀色の左手に掴み止められた。
「なに!?」
ポイナはエレウの動きを見て、羨望の眼差しを送る。
「エレウ様は勝負どころ、肝心な場面で特に強くなる。――それが、エレウ様の心能……“画竜点睛”の能力ッ!!」
カミラは血を額から流しながら、眼前の敵の底知れぬ強さに驚嘆していた。
「輝光剣が、素手で止められるはずが……」
――冗談だろコイツ、まだまだ底を見せてねぇ!!!
『“ディオニューソス”の左手はチェイスの輝光を吸収する。そして――』
首なしのチェイスは輝光剣の刃を吸い込みながらアウルムを引っ張り、懐に入る。
『吸収した輝光を発すことも容易。――仕上げだ。この一手で絵は完成する』
「ほんっと、倹約家だな。おい……」
輝光を帯びた左手がアウルムを焼いた。
「がっ――――」
コックピットだけを意図的に外し、他全ての部位を破壊する。カミラは攻撃の衝撃で気を失った。
『佳作ぐらいには、入るかな……』
カミラ・ユリハvsエレウ・クラテス。勝者、エレウ・クラテス。
『人形師殿、彼女は面白い。きっと研究の足しになるだろう』
「ありがとうエレウ君。後は私の仕事だ。まずは服を剥いで、中身を調べなければね……」
お待たせしました。
皆様のアドバイスを胸に、またボチボチ書いて行きます。




