6‐⑬ №Ⅰ (挿絵あり)
『うおおおおっっ!?』
チェイスごと空を飛び、地面に叩き落されるメタラ。
カミラはアウルムを起こし、二本の輝光剣の端末を繋げる。
「輝光剣“二極”……!」
端末からそれぞれ刃が飛び出し、光刃双刃剣となった。
アウルムは双刃剣をクルクルと回しながらロードゥに接近する。
「メタラ!」
『心配するなよポイナ、奥の手はある!』
――禁呪解放ッ!!
ロードゥの禁呪解放は“蜃気楼”。周囲に霧を散布し、その霧に触れた物体をセンサーで探る。そして一方的に視界外から獲物を抉る。『一方索敵』の機能だ。
「目隠しか。エルフのヴェルメリオに似たことするな……」
霧に身を潜め、機械音を極限まで落とし、メタラはチャンスを伺う。
(相手が霧にテンパってる間に、俺は静かに狩りをする。お前の居場所は霧に触れてる限り――)
アウルムの背後よりメタラが仕掛ける。
『筒抜けだぜ!!』
ガキン! 刃とトンファーが激突する。
『な――』
「俺の右眼は特殊でな、この程度じゃ不意は突けねぇよ……!」
(おいおい、やっぱおかしいぜコイツ!)
鍔迫り合いをする輝光剣とトンファー。カミラは詰めの一手を放つ。
「輝光剣“一極”」
双刃の鍔迫り合いしていない一方の刃を消す。すると、もう一方の刃の出力が上がった。
『片方の輝光剣のパワーを……もう一方に重ねたのか!?』
「言っただろ、斬り伏せるってなぁ!!」
太く伸びた光の刃がトンファーごとロードゥの右肩を切り裂いた。カミラはそのまま両足を斬り払いし、倒れたロードゥのコックピットに足を乗せる。
『あちゃー、下手うったか……』
――終幕。
カミラvsメタラはカミラの勝利で幕を閉じた。
「これで一人目……あと『死を拒絶する者達』は十人、いや、アレンを抜いて九人か。――次はどいつだ? まとめてかかってきても構わねぇぜ」
カミラの思わぬ活躍に周囲の0がどよめきだす。
『め、メタラ様が負けたぞ!?』
『死を拒絶する者達が無名の軍人に負けるなどありえん!』
『なにものだ奴は!?』
――次は誰だ?
っと全員が思う中、人形師は悩んでいた。
「人形師様! ここはウチが!」
「そうだね……獅子波君も居ないし、私が自ら出るわけにも――」
……混沌が場を支配したその時、ある人物が基地の中に足を踏み入れた。瞬間、空気が変わったのをカミラは感じ取った。
(なんだ……この感じは――)
新参者を見て、周囲の空気が硬直を解き始める。
ポイナは彼を見て目をハートにし、人形師は静かに笑った。
「大事だと言うから、急いで絵画を仕上げて来てみれば……なにやら、楽しそうな催しをやっているではないか。人形師殿」
カミラは男を見て、背筋をゾッとさせた。
「え、エレウ様!」
「ちょうどいいタイミングだ」
「遅れてすまない人形師殿、状況は大体理解した」
赤毛の芸術家、エレウ・クラテス。
「エレウ……」
カミラの視線はエレウに釘付けになった。
余裕のある佇まい、しかし一切の隙は無く、言葉にし難い『深み』をカミラは彼に感じていた。
「エレウ様、見ててください! 今からウチがあの野蛮な女を粛清しますので!」
「いいやポイナ、その必要はない」
「それはどういう……」
「せっかくだ、私が相手をしよう」
え。と口を開けて固まるポイナ。
「私の経験則だが、金色の機兵に乗るパイロットは皆、『楽しい愚か者』だ。彼らと描く戦闘は情熱的で、私の心を躍らせる」
「そ、そんな……あの猿は私が――」
エレウはポイナの頭を撫でて言葉を遮る。
「たまにはいいだろう、一騎打ちなど久方ぶりだ。――よろしいかな、人形師殿」
「むしろ、お願いしたいぐらいだね」
エレウは銀色のビショップの駒を握る。
『あーあ、お嬢さん。悪いことは言わねぇ。早く引き上げることだな。あの人が出て来たら何もかもおしまいだ』
「何者だ、アイツ……」
『エレウ・クラテス。『死を拒絶する者達』の№Ⅰ。文句なし、俺達のトップガンだ』
エレウは長い髪をたなびかせ、静かに言葉を発する。
「描け。“ディオニューソス”」
駒から発せられた灰塵と、ロードゥが残した霧が渦を巻いて天上へ捧げられる。
霧が晴れた後、そこに立っていたのはアサルトライフルを持った歪で人間的な機兵だった。そして何より、そのチェイスには――
「首のない、チェイスだと?」
『いつかの戦いで失ってしまってね。案ずることは無い、所詮飾りさ』
「あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」