6‐⑫ 開花型vs開花型
騒然とする軍基地。
塀に囲まれたその場所で、黄金のチェイスは仁王立ちしていた。
「上等だクソ猿!! ウチが相手になってやる!!!」
前に出ようとするポイナの肩を人形師が掴む。
「いいや、君は冷静さを欠いている。それじゃあアレの価値を測れない」
「人形師様! ウチなら必ず――」
「万が一が心配なんだ。わかってくれるよね?」
人形師の優しくも深みのある笑みに、ポイナは一歩下がる。
「メタラ君」
「はいな」
「お願いできるかな?」
メタラは指をパチンと弾き、余裕な面持ちで承諾する。
「お任せあれ」
メタラはナイトの起動ツールを手に取り、起動式を口にする。
「get out!!! “ロードゥ”……!」
赤い光と共に紅き機兵が構築される。
アズゥの発展型“ロードゥ”が姿を現した。しかし、通常のアズゥとは違い、構える武器は――
「トンファー?」
『ご名答。剣や銃じゃ手加減できないだろ? ――俺は不殺主義なんだ。トンファーは俺の主義を通すのに都合がいい』
「不殺か……立派じゃねぇか。殺さなきゃいいってモンでもねぇけどなぁ!!!」
カミラは腰から柄を手に取り、光の刃を押し出す。
「“蛇突き”!!!」
『おっと!』
ヘビのようにしなる光の刃をロードゥは屈んで避ける。
アウルムは右手に輝光剣、左手に盾を持って突進を仕掛けた。
『頭が悪いな、俺の機体が接近戦重視って見りゃわかるだろ』
メタラは瞳から光を落とし、水面を脳内に広げた。
(開花型心能“明鏡止水”)
「――――っ!?」
メタラのチェイス、ロードゥは変則に曲がる刃をしなやかに躱し、右手のトンファーで盾を殴る。
(コイツの動き、やりづれぇ……!)
常に両腕をだらんと下げ、攻撃の時だけ下からすくい上げるように打撃を繰り出す。静かな動きでロードゥは接近戦を制し、両腕のトンファーでアウルムを弾き返す。
『心の乱れは勝利の女神を遠ざける。静かな心、それさえあれば俺の脳は最大の力を発揮してくれる。女神だろうと何だろうと、口説くコツはギャップだよ』
「“静”と“動”の切り替えが上手いな……0の構えからいきなり100を叩き出して来る」
『俺の心能“明鏡止水”は、心が静かであればあるほど効果を発揮する。これこそ、人形師様から賜りし最高の力だ!』
攻守交替。今度はメタラが前に出て、盾の上から連打を叩きつける。
(守りは確かに堅いが……攻撃に転じてから隙だらけだぜ!!)
カミラは盾を使ってトンファーをいなし、右手の剣で突きを出すが、
『俺の心は長年の研鑽の末、動揺しなくなった』
光の刃をロードゥはバク転で躱す。
(なんつー、身軽なっ!)
「予想外の攻撃、奇策、妙手。なにをされても俺の心の中は常に水面のように静かだ。――例え親が目の前で拷問されていようが、俺の心は乱れはしない」
トンファーで剣と盾を弾き飛ばし、アウルムを蹴り飛ばす。尻もち付いたアウルムにメタラはとどめを刺そうと距離を詰め、上からトンファーを振り下ろす。
『悪いなお嬢さん。呪うなら女に生きなかった自分を呪いな!』
どどめの振り下ろし。しかし、トンファーはアウルムの右手に掴み止められた。
『あらら?』
「……ピンチだな」
ロードゥは左手のトンファーも繰り出すが、それもアウルムの左手に止められた。自分の目の前で腕をクロスさせながらアウルムは眼光を輝かせる。
「周りは敵だらけ。増援の可能性は皆無。尻もち付いて、武器ははたきとおされた……」
『なに言ってるんだい……?』
「すげー窮地だ……燃えてきたぜ」
アウルムはロードゥの両手首を掴み、投げ飛ばす。
――開花型心能“火事場力”、発動。
メタラの心能“明鏡止水”は動揺するほど集中力を大幅に欠けます。逆に冷静であるほど集中力を大幅に増します。動揺した際は常人よりもテンパりますので一長一短の面もありますね……。