6‐⑧ 追跡チーム その3
「納得できるかぁ!!!」
カミラの怒号が車内に響く。
ナルミは片耳を手で塞ぎながら言葉を返す。
「そうは言うけどね、僕らにはどうしようもなかったんだよ」
「もっと食い下がれよ! なんであんな奴らに舐められてんだ!? お前、結構偉い方なんだろ!?」
「愚か者。人形師殿はナルミ殿と同じ貴・一級隊士だ。立場は同等、いや、部下の階級も含めるとあちらの方が数段上手……」
「階級だけじゃねぇ、戦力も『死を拒絶する者達』に負けるだろう。……強硬策は最初からできなかった。あっちが一言『協力しない』と言えば本来ならそこで話は終わりだ。今回に限っては、ウチの大将はギリギリまで踏ん張ったと思うぜ」
「弱腰だな。俺達は精鋭なんだろ? 例え数はあっちが上でも、ビビることはないだろ!」
ナルミは「えっとねー」と眼鏡を拭きながらカミラへの反論を始める。
「確かに僕らは精鋭だ。だけど、『死を拒絶する者達』は規格が違う。例えば、彼らのメンバーの中で実力順上位六人と、僕ら六人が一対一の総当たり戦をやったとする。結果は間違いなく、僕らの惨敗だ」
「――っ!?」
「義竜軍同士で争うこと自体基本NOなんだ。君は喧嘩感覚で言うけど、そう簡単にはいかないよ。……それに考えようによっては大万歳じゃない! 一週間近く休みが手に入ったようなもんだよ。ここら一帯の地区なら楽しむのに苦労はしない、飲み会でも開く?」
陽気に場を和ませようとするナルミを、ピスケスは憐れむように見ていた。
(本当は、テメェが一番納得してねぇんだろ、ナルミ……)
緊迫する空気の中、エルフが「あの」と話を切り出す。
「そもそもエレウシス? ってなんですか? 初めて聞くのですが……」
「ああ、そうか。テメェらは知らないか。『死を拒絶する者達』ってのは人形師が造った強化兵で組織された部隊を示す。設立は十年前、それ以降は基本、表舞台には出てこなかった」
「広く捉えるとピスケスの言う通りだけど、彼らの中では『死を拒絶する者達』っていうのはたった11人を指すらしいけどね」
「11人?」
「そ。№Ⅰ~№Ⅹ.そして人形師様を含めて11人。彼らは強化兵の中でも異色の改造に成功した者達だ」
「ほう。異色とは、一体どのようなものですかな?」
「――心能の付与だよ」
ガタ。とアーノルドは手に持ったカップを震わせた。
「心能を……!? 心能は英知ですぞ! 人工的に付与するなどありえませぬ!」
「そうだね、特に君は認められないだろうけど、実際に成功していることだ。それでも、やっぱり人は選ぶみたいだけどね」
「信じがたい話ですね……純粋な質問ですけど、元々心能を持っている人間も心能を増やせるんですか? もし人工心能を二つ、三つと付けることができるなら、規格が違うと言うのも納得ですが」
「前者はできてるが後者はできてない。俺の聞いた話じゃ、№Ⅰと№Ⅳは先天+後天のクチだ。№はわかっても、それが誰かは知らねぇけどな」
「――心能がなんだってんだ……! どれだけ持ってようが弱い奴は弱いし、持ってなくても強い奴は強い」
「……カミラちゃん、いい加減にするんだ。これは、君だけの問題じゃない」
「だけど――!」
「カミラちゃん、大人になろう。君が相手しようとしているのはテロリストでも反乱軍でもない、正規軍だ。その意味がわからないほど愚かじゃないだろう?」
膨れるカミラに対し、ナルミは首を傾げる。
「アンドロマリウスの右腕以外にも、なにか理由がありそうだね」
カミラはどこか、途方もない不安を抱えていた。
アレンの表情、そして、己の右半身の違和感に。
(基地の近くに居る時、俺の右半身がピリピリ蠢いていた。あの感覚……すごく、嫌な感じだ。おぞましい、邪悪な力を感じた……)
カミラは部屋のソファーに寝っ転がり、天井を見上げて言う。
「ちっ、わかったよ。大人しくしてやる」
「――じゃ、『死を拒絶する者達』の人達に難癖付けられる前に街を出たいんだけど、運転手はどこ行ったの?」
「フリップでしたら、先ほど基地の門の前で別れたっきりですね……」
カミラはそっぽ向いて諦めた風を装うが……その目は、静かに燃えていた。
―――――――――――
アート・キングダムの宿屋。その一室で、据え置きの電話を何度も手に取る少年の姿があった。
「はぁ……駄目だ。繋がらない」
少年――ツミキは受話器を置いて、ため息をつく。
(サンタさんもプールさんも、テンオウもネットさんも誰にもつながらない……なにかあったのかな?)
コンコン。と戸を叩く音が響く。
(誰だ……?)
ツミキは警戒しながらも鍵をあけ、扉を開く。すると目の前には二十歳ほどの男性が、こちらを睨んで立っていた。
「あなたは……」
「フリップ・メルク。――義竜兵だ」
ちなみに記録上、純粋に二つの心能を持つ人類は発見されていません。




