6‐⑥ 追跡チーム その1
美術都市“アート・キングダム”義竜軍基地。
街の中央に位置する基地の前で、カミラ、フリップ、エルフの三人は外で待機していた。
「ったく、なんで俺が留守番なんだ?」
「仕方ないでしょ、カミラは問題ばかり起こすんだから。カミラのせいで私とフリップまで待機指示出されたのよ」
「見張り役を付けるとは小賢しい、ナルミの奴……」
「その顔、どうせまた無断で他所の格納庫に侵入しようと思ってたんでしょ? 前にもそれやってどれだけ問題になったか……」
「でもよ、こう暇だと何らかのアクション起こしたくなるだろ。あー、ひまひま!」
エルフは苛々するカミラを尻目に、ポケットから飴玉を取り出し、口に入れた。
「珍しいな。エルフが勤務中に菓子食うなんて」
「今は休憩中みたいなものでしょ」
「俺にもくれよ! 何味の飴だ?」
「ミルク」
「うわ~、じゃあいらねぇ」
「甘いモノダメなんだっけ?」
「唯一苦手な味覚だ」
カミラとエルフが話す側で、フリップは通信端末を見つめながら舌打ちし、二人に背中を向けた。
「……子守は任せた。俺は車両のメンテナンスをする」
「え、ちょっとフリップ!」
フリップは一人でキャンピングカーに戻っていった。
エルフは呆れた顔でため息をつく。
「いまだに彼とは仲良くできないわ」
「アイツの主義主張は俺達とは根本的に違うからな、仲良く出来なくても仕方ないんじゃねぇの」
「……そういえば、前にキッチンでカミラとフリップが仲睦まじく話してる姿を見たんだけど、その時になにか聞いたの?」
「ん? あぁ、あの時か。アイツの目的を聞いたんだ。なんでも、アイツが追跡チームに入った理由は人探しらしいぜ。そんで、もしそいつを見つけたら報告してくれってさ。確か、探し人の名前は“シン”、だったっけ?」
「へぇ~……あれ? カミラ、あそこに居るのって――」
エルフが基地の塀の側を歩く影を指さす。カミラはその人影を見て、顔を明るくした。
「――アレン!?」
「……あ。カミラ」
カミラはアレンを見つけるとすぐさまダッシュし、勢いのままアレンに抱き着いた。
「ひっさしぶりだなオイ! そっか、お前、ここに居たんだっけか!」
「むぐっ!? く、苦しい……放して……」
カミラはピーンッと何かに勘づき、アレンの頬に鼻を近づけ嗅ぎだした。
(……なんか、嗅ぎ慣れた匂いがする。気のせいか?)
「くすぐったい……」
「お、わるいわるい」
カミラはアレンから距離を取り、笑顔で話を切り出す。
「いやー、まさかお前に会うとはな! どうだ、調子の方は?」
「元気」
「ほんとか? なぁアレン! 今日の夜、飯一緒に食わないか? 久々にあの試験のメンバーで集まってよ!」
アレンは無言でカミラの顔を見て、後ろめたそうに目を背けた。
「……ごめん。今日ちょっと用事があるから」
アレンは呆けるカミラの横を通り過ぎる。
カミラは「ちょっと待てよ!」とアレンの手を掴んで止めた。
「――どうしたんだアレン? お前……顔色悪いぞ。なにかあったのか?」
「別に、なにもない」
「じゃあなんで、申し訳なさそうに俺を見る?」
依然として顔を下に向けるアレン。
硬直する二人。そんな二人の静寂を破るように、背後から女性の右手がカミラの手を振り払った。
「じゃーま! ウチの仲間に手ぇ出さないでくれる?」
「――誰だテメェ」
「……“ポイナ”」
アレンがポイナと呼んだ女性は背が高く、抜群のプロポーションを持っていた。だが格好は気品さの欠片も無く、厚化粧で顔を包み隠す様は見苦しい。
「まったく、人の陣地の前で猿がキーキーやかましい」
「猿? おい、それは俺に言ってんのか?」
ポイナはアレンの横に立ち、肩を組んでカミラを威嚇する。
「アレン、アンタもはっきり言ってやりなよ。ウチらとアンタらじゃ生物としての格が違うんだから、慣れ合えっこないってさ」
「ちっ、好き勝手言ってくれるじゃねぇか。なにが『生物としての格』だ! ちょっと胸大きいからって調子乗るなよ顔面塗り絵野郎っ!!」
「……クソガキ。いいよ、格の違いを教えてやるよ」
カミラが瞬きした一瞬、ポイナは姿を消した。
「カミラ!!」
アレンの叫び声が響く。
ポイナは既にカミラの背後に回っていた。
(速い!?)
カミラは成す術なく後ろ手を掴まれ、地面に組み倒された。上からポイナが圧力をかける。
「私たちは人形師様の手によって改造された強化兵士、『死を拒絶する者達』。この剛力と敏捷……アンタら“種無し”じゃどれだけ努力したって届かないものよ!」
「くそっ! テメェ……!!」
取り押さえられたカミラを見て、エルフは飴を飲み込み声をあげる。
「ちょっと、なにやってるの!?」
エルフが現場へ駆け寄ろうとすると、その行く手を阻むように長身の男が現れた。
「おっと、お嬢さん。邪魔しちゃいけないよ」
「どうしてか、説明してくれる?」
「そりゃ、格の違いを示すためさ。――名乗らせてもらおう、俺の名前は“メタラ・レトロイヤ”。『死を拒絶する者達』の№Ⅹだ」
「エレウシス?」
エルフは諦め、足を止める。
「おや、意外に諦めの早いこと」
「ええ。諦めたよもう、せっかく助けてあげようと思ったのに、馬鹿な人達」
「なんだって?」
――火は灯った。
カミラの右手が握力二百キロはあるポイナの手を振り払い、そのままポイナの右手首を掴んだ。
「なに!?」
カミラの右半身は金色を纏い、ポイナの右手を折る勢いで握りしめながら上下を交代させる。
「アンタ……なによその右腕!?」
「ポイナ!!」
ポイナの元へ駆け寄ろうとするメタラのこめかみに拳銃が突きつけられる。
「感心しないね。あなたが言ったんでしょ?」
「ぐっ……!」
「邪魔しちゃいけないよ」
カミラは右目の青い眼光を燃やし、威圧する。
「……さっき、生物としての格が違うって言ってたな」
(強化兵であるウチを……! なんだコイツ!!?)
「――試してみるか?」




