last episode “彼女の声はもう聞こえない”
――昔、ある小説を読んだ。
その小説は近未来の話で、ある日突然エイリアンが地球に降り立ち、人類を滅ぼそうとする。主人公率いる地球防衛軍は不思議な銃やスーツを使って攻めて来たエイリアンを撃退するんだ。
エイリアンの外見は酷く歪で、大きな翼と裂けた口、赤く鋭い瞳と緑色の肌を持っている。もちろん、すっごく強くて主人公の仲間は何人も食い殺されてしまった。
僕は、この小説を読んだ時に思った。
『こんな化物と戦うなんて、絶対に嫌だな』
――と。
当然だろう?
相手は化物だ。どんな兵器をもっていたところで怖い。僕はきっとエイリアンを見ただけで震えて立ち尽くしてしまうだろう。こんな化物を相手するのに比べたら、人同士の争いなんて大したことないな……
そう、思っていた。
今は違う。今は、全く別のことを想っている。
「敵が、化物なら良かったのに。人じゃ無ければこんなに、苦しいことも無かったのに……!」
人間の血を踏みながら僕は言う。
きっと、今の僕なら喜んであの小説の世界に行って化物を駆逐するだろう。
手は汚れ、目は涙で染まり、頭の中は誰かの叫び声でいっぱいになっている。
あれだけ、あれだけ好きだったのに―― 彼女の声は、もう聞こえない。