last episode “おはよう”
エルルギアの下水道から脱出したカミラは、チェイスを圧縮し、生身で集合する追跡チームの元へ歩み寄っていた。
「わりぃ、逃がした」
「愚か者! 一人で追撃するとは無謀にもほどがある!!」
「アーノルド君がそれ言うんだ……」
「今回は砲撃の横やりは無かったな。警戒して損したぜ」
カミラ、アーノルド、エルフ、ピスケスが集う道に、白老の男が降りたつ。
男はにんまりと笑顔を浮かべ、追跡チームの面々に提案する。
「おいお前ら、俺をチームに入れろ」
「はぁ? 何言ってんだケンジのおっさん」
「銀腕は俺のツバメちゃんだ。俺が倒す。そのためにはお前らのチームに入るのが一番手っ取り早いと判断した」
「それはダメですよ、ケンジさん」
ケンジの背後から声を投げかけたのは追跡チームのリーダーであるナルミだ。ナルミは右手に一枚の紙を見せびらかすように持っていた。
「なんだそりゃ?」
「あなたの星、“デネヴ”様からの召集状です」
「あぁ!?」
ケンジはナルミから紙を受け取り、その内容を読んで「っけ」と吐き捨てる。
「あの野郎、見てやがったのか」
「断るのは勝手ですが、立場上僕らのチームに入れるのは無理ですよ」
「あーあ、嫌われ者だねぇ。でもまぁ、焦る必要もねぇか、どうせ俺以外の奴にツバメちゃんは捕まるまい」
ケンジは召集状を破り捨て、追跡チームに背中を向けて去っていく。
「じゃあなガキ共、精々がんばらないでくれたまえ」
ナルミは見えなくなるまでケンジが離れるのを待ってから「まったくあの人は……」とため息をつく。
「さて、本題に入ろうか。きっと銀腕が向かった先は美術都市“アート・キングダム”だ。僕らも乗り込んで現地の義竜兵と協力し、銀腕を奪う。同時に“アート・キングダム”にあるアンドロマリウスの胸部を守り抜く。――わかったかい?」
『応ッ!!!』
「それじゃ、出発しようか」
――――――――――――――――――――――――――
静かな水の流れが青いチェイスにせき止められていた。
木々に囲まれ、陽がほどよく差し込む川。そこで、一機のチェイスは仰向けに眠っていた。
「ん……」
チェイスのパイロットは頭を振りながら頭を上げる。
周りを見渡し、状況を確認する。
「下水道から流されて、ここまで……ここはどこだ?」
ツミキはチェイスに標準装備されているMAPを開こうとするが、チェイスはどこを触れても何も返事をしなかった。
「エネルギー切れ……」
ツミキはアズゥを圧縮する。すると銀腕だけが川の側の土手に放り出された。
「通信機は……」
ツミキは折れた通信端末を見て、ため息をつく。
「駄目か。とりあえず、銀腕を隠さないと」
ツミキは周囲の草木をかき集め、銀腕に被せていく。
作業開始から20分ほどで銀色の腕は消え、代わりに緑の山ができた。
ツミキは腰に手を据え、「気休めだなぁ」と首を傾げる。
(そういえば下水道で流された所までは覚えてるけど、そこからどうやって気絶したかは覚えてないな。コックピットに頭でもぶつけたか?)
ツミキは「まぁいいか」と気を取り直し、これからどう動くかを考える。
(多分、動かないのがベストなんだけど、近くに建物があるならそこで通信機を借りるのもアリだな)
ツミキは川に沿って足を進め始めた。
緑の風と、温かい光がツミキを落ち着かせる。魚が跳ね、虫が鳴き、鳥がさえずる。
世界で最も穏やかな場所だと、ツミキは感じた。ツミキは気ままに歩み続け、ようやく木々の無い草原までたどり着くことができた。
「凄い……」
草むらと湖。そして湖を橋で越えた先に、その街はあった。
巨大な歯車が多く見え、遠くからでも銅像や石造、絵画が見える。歯車を付けたカラクリの類で山のようになっているその場所は――
「アレが、まさか――“アート・キングダム”……」
美術都市“アート・キングダム”。
レトロなカラクリ街だ。外観はかなり凝っており、色んな目の錯覚を活かした装飾がされている。
ツミキは足を止め、心を決める。
(先に行って待ってよう!)
ツミキは一人、機械仕掛けの街へと進みだした。
第五幕完!!!
第六幕はまだ全然ストックが無いため暫くお待ちを。
話は変わりますが8月29日(木)に新作を投稿するので、そちらもご覧になってくださると幸いです。
では、ここまで付き合っていただきありがとうございました!!!m(__)m