5‐⑫ vs追跡チーム その5
第五幕終了まであと二、三話です( ´艸`)
カミラとピスケスは目の前のチェイスに対し、必要以上に警戒していた。
(俺らが四人がかりでようやく捕まえたケンジのおっさんを、単機で追い詰めた……コイツ、思ってた以上にやばいな)
(禁呪解放は時間制限があるはず。こっちから手を出すことはねぇ、一歩引いてエネルギー切れを狙えば……)
『ふははははははっ! 先陣は、私が切る!』
カミラとピスケスの思索虚しく、アーノルドもといウィリディスがアズゥに突っ込んだ。
『『あのバカ……』』
ウィリディスの紅蓮の剣が迫る。
アズゥは銀腕で斬撃を弾き、バックステップを踏むが――
『“蛇突き”ッ!!』
背後からアウルムによる輝光の斬撃が伸びてくる。
「っく――!?」
地面を蹴りチェイス三機分ほど跳躍し斬撃を躱すが、狙撃手の銃口がしっかりとアズゥを追っていた。
『空中はダメだろ銀腕ッ!!』
「――!?」
障害物のない空中へ飛んだアズゥに狙撃手の弾丸が命中する。――但し、弾丸が命中したのは銀腕、その手首だ。
『あぁ!?』
銀色の右手首からポロッとひしゃげた弾丸が落ちる。
「良い腕だ」
『――野郎……!』
アズゥのブースターが火を吹き、空中を移動。ウィリディスとアウルムを同時に視界に収められる位置に着地する。それと同時に、アズゥの周囲に三本の矢が落ちて来た。
(これは……)
『“識別煙”起動』
矢に括り付けられたスモークグレネードから煙が撒かれる。
視界を覆いつくす緑色の煙。
その煙の中にウィリディスとアウルムは躊躇なく突入する。
ツミキは右目を閉じ、視力の無い左目のみを開ける。
(目が見えないのなら、他の感覚に頼るだけだ)
――危険信号……!
アーノルドとカミラの殺意を起点に視界が展開される。
アズゥは“識別煙”の中でウィリディス、アウルムの息の合った剣戟を捌く。
(頭、わき腹、足元、コックピット!!!)
『ぬっ!?』
攻撃を完全に弾かれ、怯んだウィリディスの左手を銀腕が掴んだ。
「そぅらっ!!!!!」
アズゥはウィリディスの左手を引っ張ってウィリディスをアウルムにぶつけ、そのまま側の工場の壁に叩きつけた。
轟音と共にウィリディスとアウルムは二機仲良く工場の中へ倒れこむ。
『四対一で……!』
『我々が押されるなどっ!?』
しかし、拮抗できているのは禁呪解放の恩恵があるからこそ。
すでに、アズゥの残存エネルギーは10%を切っていた。ツミキはエネルギー残量を確認し、目を細める。
「(駄目だ。このエネルギー残量じゃもたないっ!) ――ネットさん!」
『アカンな……! AとBのルートは敵のチェイスに抑えられとる。仕方ない、ルートCや』
「わかりました!」
ツミキは銀腕に大気を溜める。
その様子をスコープ越しに覗き、ピスケスは指示を出す。
『警戒しろ! 例の竜巻砲があるぞ!!』
『げっ、あれか』
警戒し、ばらける追跡チーム。
『しかし、あれだけのパワーだ。撃った後に隙があるはず……下民!』
『わかってる。大砲撃った後の隙を狙う。一気に畳むぞ!』
アズゥは銀腕を構え、
「螺旋砲、発射!!」
『――!?』
地面に向かって螺旋砲を放った。
『地面に!?』
砂煙が立ち昇る。アーノルドとカミラは砂塵の中に入り、武器をもって霧を払うが……そこにあったのは大穴が開いた下水道だけだった。
「っち! あの野郎、下水道から……!」
『カミラ! 深追いは禁物だ!』
「――いいや、ここは行くっ!」
螺旋砲の余波で足をやられたウィリディスを置き去りに、アウルムは下水道へ侵入する。
――――――――――――――――――
その頃、ツミキは下水道を一人走っていた。足を水の流れに身を任せながら突き進む。
「ネットさん、この下水道どこに繋がってるんですか?」
『湖や。途中で右折できる場所があるはずやから、そこを曲がって進めば語師軍基地の近くに出れるで』
「わかりました」
『――!? ツミキ、後ろや!』
ツミキはネットの注意を聞く前に振り返り、左手一本のチェイスの刃を銀腕で受け止めた。
『テメェ、逃がすか!』
「(ここまで追ってくるなんて……!) ――しつこいな!」
アズゥが応戦しようと身構えた瞬間、
「『なにっ!?』」
バッ! と急に水の流れがある一点を境に強まった。
(水流に……足を持っていかれる――)
『ちくしょうが!』
アウルムは反射的に飛び上がり、足をコンクリートの上に置く。
『なんだってんだ、急に水の流れが……って、お前――!』
アウルムとは逆に、アズゥはみるみる強くなった水流に振り回された。
「うわあああああああああああああっ!!?」
アズゥはエネルギー消費量を極端に抑えた省エネモード、水流に抗うほどのパワーが残っていないのだ。アズゥはゆっくりと水に流されていく。カミラはあまりの激流に眉をひそめた。
(なんだこの流れの強さは! 誰かが故意的に操作してるとしか思えねぇぞ!)
アズゥは足を取られ、身を沈め、流される。
『待てよ!』
カミラのチェイスが左手でアズゥの銀腕を引っ張って止める。
カミラはチェイスを拡声状態にし、アズゥに対して叫ぶ。
『聞こえるか! 銀腕のパイロット!!!』
カミラ・ユリハ、彼女の声を聞き、ツミキの意識が揺らいだ。
「この声は……」
――『落ち着けよツミキ。お前なら大丈夫』
(なんだ? なんだこの記憶は……!)
『お前の名前はなんだ、どうやって銀腕を手に入れた!? お前は……一体何者だ!!!』
ツミキの脳髄に声が響くたび、ツミキは知らない……知らないはずの声に蝕まれていった。
――『遅かったな、ツミキ』
――『いつか英雄になるんだッ! 約束しただろ?』
――『俺が最強のチェイスを作って、お前が最強のパイロットになる。最強が二つ合わされば必ず英雄になれるぜ!』
「君は、誰だ……? 君は――」
――『だ、誰かいないか…?』
――『よかった。無事だったんだな、ツミ――』
「君は」
――『大丈夫か? お前』
ツミキの頭の中に浮かぶのは見知らぬ少女。
まだツミキが幼い頃、道端で餓死しかけている彼にパンを渡そうとする少女の顔だ。
少女の顔が黒く塗りつぶされていくのと同時に、ツミキの意識は揺らいでいく。
「う――うわああああああああああああああああああっっ!!?」
『あ、おいっ!!!』
ツミキは正しい記憶と間違った記憶の渦を前にして錯乱し、アウルムの腕を振り払って水流に巻き込まれていった。
流れのままツミキとアズゥと銀腕はどこかの水場へ流されていった……
ここまで読んでいただきありがとうございましたヽ(^。^)ノ