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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第五幕 一対一の鬼ごっこ

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5‐④ vs追跡チーム その3



――なんじゃ?


 トラックを細い路地に停め、サンタは疑問を浮かべていた。


(妙な静けさを感じる……同時に、誰かに見られているような)


 サンタは長距離まで音声を飛ばせるトランシーバーでネットの通信機に声を送る。


「ネットよ、上から見てなにか異変はないか?」


『異変? 特にはなんもないけどな。どないしたん?』


「うまくいきすぎてるのう……相手は先手を取ったにも関わらず、消極的と言うか」


『――時間稼ぎか』


「もしくは今回の接触は情報集めだけを目的としているかもしれん。だとすれば、“アマレロ”を見せたのは失敗だったか」


『――ん?』


「なんじゃ?」


『遠くでチェイスが起動したような? 気のせいかもしれんけど』


「確認してくれ。なんだか嫌な予感がするんじゃ……」


『りょーかい、りょーかい』




―――――――――――――― 




 公園に倒れこむ影が一つ。

 エルフの発展型チェイス“ヴェルメリオ”だ。


『こっちが支援機とはいえ、ここまで一方的に……!』


「この距離で弓オンリーじゃきついでしょ」


 エルフはギリッと歯を食いしばり、チェイスを起こして逃走を始めた。


『戦略的撤退』


「逃がすか!」


 背の高い建物の間を縫って追いかけっこが始まる。プールはトリゴのライフルでヴァルメリオの足を狙い、機動力を封じる算段だ。


 発砲音を合図に弾丸がヴェルメリオの右脚を捉える。弾丸が装甲に食い込み、後続の弾丸が初撃の弾丸を後押しして風穴を開ける。


『同じ場所を正確に……!』


 弾丸を喰らい続け、ヴェルメリオの右脚が沈んだ時だった。プールは周囲の建物に異変を感じた。


「なんだ……」


 プチンッ! とトリゴの足が細い糸を引っ張った。瞬間、


「ワイヤー? ――うおっ!?」


 突如、プールの左右の建物が急に爆発した。


 崩れ始めた瓦礫がトリゴの行く手を阻むように襲い掛かる。


鬼花火(フラワー・アロー)……』


(あらかじめ爆薬を仕掛けていたのか!)


 プールはトリゴを動かし、襲い掛かる瓦礫を全て避ける。だがその隙に、エルフはさらに距離を取って来た。ヴェルメリオの得意な間合いにトリゴが入る。


(弓矢なんて銃の完全下位だろう? 遅い弾速と低い威力。一発や二発、くれてやるわ。見てから余裕で反応できる……)


 そう言ってプールはトリゴを勢いよく発進させるが、


「――!?」


 ふと、その足を止めた。


「あんた……!」


『弓は銃より弱い、だけど私は弓を選んだ。自由な弾道に汎用性の高い素材、丈の長い矢には多くの物体をくくり付けることができる』


 トリゴの前にはワイヤーが多く張っており、目に映る限りだけで十八の矢が周囲の建物に刺さっていた。その矢全てに別々の仕掛けがある。


――ここは、彼女の巣だ。


『近づけば罠の遊園地、近づかなければ(まと)になるだけ』


「ちっ!」


『どっちがいいかはあなたに選ばせてあげる』


 プールは溜息を付き。


「あーあ、やっぱりこうなるか」


『……?』


 プールは口元を歪ませ、言い放つ。


「やれ。ツミキ」


『螺旋砲、発射!!』


――破壊の渦がトリゴとヴェルメリオの間に位置する建物全てをのみ込んだ。


『なに!?』


「テンオウ!」


『はいっ!』


 遠くで轟音が鳴り、砲撃が発せられる。

 正面だけでなく、ヴェルメリオの背後の建物も光線によって崩壊した。


 罠の遊園地は簡単に消し炭となり、地形条件がひっくり返る。


(例の砲撃、退路を……!)


 この状況を『まるで天変地異だ』とエルフは形容した。


 多くの建物によってごちゃごちゃしていた戦場が、螺旋の渦と破滅の光によって掃除された。

 建物の瓦礫を踏みしめ、ヴェルメリオの背後にツミキ(アズゥ)が、正面にプール(トリゴ)が立つ。


『挟み撃ち……』


「お疲れさん」


「すみませんが、退()いてもらいます!」


 前後から襲い掛かろうとするツミキとプール。

 進路も退路も無し。そんな状況なのに、エルフは笑った。


『遅いよカミラ』


『待たせたな、エルフ』


「――!?」


 建物を手に持った盾で突き破り、ツミキの背後に一機のチェイスが現れる。

 ツミキは振り向きざまに銀腕を前に出し、そのチェイスが振るった輝光剣(レーザーソード)を受け止めた。


 火花を挟み、両雄は邂逅する。


「黄金のチェイス……」


『コイツが、アンドロマリウスの右腕か……!』


 ツミキの脳裏に、誰かの声が響いて来た。


――『ところでさ、もし俺がお前の乗るチェイスを作ることになったらさ、チェイスの色なにがいい? やっぱ金色か! 金色だよな?』


(なんだ? 誰の声だ、一体僕は何を――)


 志を同じくして、共に旅立ち、共に育った二人。

 ずっと同じだった道を理不尽な炎によって焼き尽くされ、一度は別れたその道が今――


「頭が、痛い……!」


『ようやく会えたな……!』


 交差する。

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