5‐① 廃棄指定地区“ヘルケロ”
“ランフレスト”を出てアート・キングダムへ向かう一行は途中、森林地帯でテントを張っていた。すでに夜の十時、暗がりを進むのは危険だと判断してここで野宿することにしたのだ。
木に囲まれた場所、森林地帯の中では見渡しの良い場所で火を焚いている。その火を囲むようにツミキ、サンタ、プール、テンオウ、ネットは座っていた。プールが作ったカレーライスを食べている(ツミキは乾パン)。
「へぇ~、じゃあ“ヘルケロ”を経由するのね」
「うむ」
「ヘルケロってどういう街なんですか?」
ツミキの質問にサンタとテンオウが答える。
「廃棄指定地区の一つ、アンドロマリウスが暴れて人も資源も失った不憫な街じゃ」
「“無人の繁華街”って聞きますね」
「つまんなそうな街やな。確かもう一つルートあったやろ、“ヤハルカン”を通るルートが」
「そっちは義竜軍の基地が近くにあるのじゃ」
「廃棄指定地区を通れば戦闘の可能性は無いの?」
「ない――と思う。ゼロとは言い切れん。なんせ無人じゃからな、ワシらが通れば目立つ」
「さすがにリスク無しでは行けませんか。なるべくゼロに近いなら、そのルートで行くのが良さそうですね……」
食事を終え、食器を片付けて一行は夜の自由時間に入る。
「相手になるで、大将」
「ほう。面白い」
サンタとネットが軽トラの荷台の上で将棋を嗜み、プールとツミキとテンオウがチェイスの操縦についてテントの中で語り合う。
「いいかテンオウ、これから先、アンタのチェイス“アマレロ”が重要な役割を果たす。ミスは許されないわよ」
「ぜ、全力は尽くしますが……」
「気持ちはわかるよテンオウ。ただでさえ操縦の難しいチェイスで、更に扱いの難しい特化型、ぶっつけ本番で失敗するなって言う方が無茶ですよ」
「んなことわかってるっての! だからアンタのためにコレを作ったんだ」
プールはヘルメット型の妙な機械を取り出す。
「なんですか? それ」
「VRチェイス特訓マシーン」
「また変なものを……」
「これを付ければバーチャル世界でアマレロに乗れるってわけよ。これから暇なときはこれを使って練習しなさい」
テンオウはプールからVRヘルメットを受け取る。
「ユーレリオンの時にも言ったけど、アンタ、射撃の腕は悪くない。精神体も優秀だし、鍛えればそれなりに良くなるよ」
「ほ、ほんとですか?」
「あぁ。この超慧眼の私が保証する」
「わたし、頑張ります!」
嬉々としてヘルメットをかぶるテンオウ。
プールはテンオウを眺めながら気難しい顔をする。
(アマレロは相手に有利な地形や、固まった敵を一掃できる力を持つ。マジでアンタがこれからの戦いで重要なファクターになるんだ、しっかり戦えるようになってもらわないと困るっての)
―――――――――――――――――――――――
義竜軍所属キャンピングカー。
そこにカミラとナルミの姿は無かった。ピスケスが指揮を執り、アーノルドとエルフにあるデータを見せていた。
「コイツが監獄から逃げた要注意人物のリストだ。この中にトリゴ使いの仲間が居る可能性が高い」
空中に映し出されたのはネギソン、ラッキー・ボーイ、ハリス・ベネットの写真と情報だ。
アーノルドは「ふむ」と写真を見て、笑う。
「私の勝ちです」
「意味わかんねぇこと言ってねぇで話を聞け。このネギソンって女と、ラッキー・ボーイっていう男は凰燭で幹部を張っていた奴らだ」
「一時期義竜軍と渡り合った少数精鋭のですか?」
「そうだ。要注意人物、実力で言えば一級隊士クラスだろう」
「ふ。買いかぶりですね」
「この二人は危険だが、ハリスって野郎は特に怖くない。――いや、強くないわけじゃないが、データは豊富だ」
「知ってます。確か同胞殺しの元義竜兵……」
「そんでもって俺の直属の弟子だ」
アーノルドとエルフが「え」と口を開ける。
(あの地獄のような特訓を強いるこの方の――)
(直属の、弟子?)
ぶる、っと二人は体を震わせる。蘇るは追跡チームに入ってからのピスケスのしごきだ。
ピスケスはきょとんと二人を見る。
「どうした?」
「ピスケス殿、彼は相当に警戒しなくてはなりませんね」
「同感です。超要注意人物です」
「ん? まぁ、警戒する分にはいいか。――ともかく、俺達の手掛かりはこの写真とアンドロマリウスの右腕、トリゴだ。あと、アーノルドの記憶の中の軽トラだな。どれかが見つかれば特定できる。すでにヤハルカンには十全な包囲を敷いてるから、俺らは警備の薄いヘルケロに行って奴らを待ち伏せるぞ。――わかったか?」
『了解です』
「そんでさっきナルミから連絡があった。『予定変更』だそうだぜ……」