4.5‐⑦ それはおかしいですよ!!
バッ!!
土俵を鳴らし、前に飛ぶプールのグリース。プールの飛び掛かり攻撃をファルコンはバイク形態を使って躱す。
『安直ね! 蹴りを使うことは読めていたわ!』
そしてファルコンはバイク形態のままプールへ突進をしかける。
(このまま最高スピードで当たっても良し、人型に変形して軌道を変えてもいい。アナタの動きを見てから私は変幻できる! そして、次は最低でも右腕をもらう! 両腕失えばアナタの負けは必至!!)
「こういう時に使うんでしょ?」
プールのグリースは右手で何かを持っていた。
『む!?』
「安直って言葉はさ!」
持っていたのは先ほどファルコンが弾き飛ばしたプールのグリースの左腕である。ズタズタに引き裂かれ、切り口からはバチバチと火花が散っていた。
「あれはグリースの左腕!」
プールはそのまま左腕を投げる。
ファルコンは一時は焦ったモノの、すぐに集中力を戻した。操縦桿を切り、ブレーキをかける。そのまま車体を捻らせ、速度を一気に落とした。
プールは敵ながらにファルコンの操縦技術を感心する。
(神業ね。あの技術)
ファルコンはそのままゆっくりと右に曲がり、投げられた左腕を躱した。
『舐められたモンね、こんな奇襲で私が――』
瞬間、ファルコンの耳に多くの警告音が飛び込んだ。
『なに!?』
ファルコンは焦りながら警告音の原因を探す。警告の出どころ、それは足元だった。
『炎!?』
ファルコンのグリース、その足元は燃え上がっていた。
ファルコンはハッとして背後を振り返る。先ほどプールが投げた左腕、そのズタズタに引き裂かれた電管部分から発生している火が地面を伝い、グリースの足元まで伸びていた。
(なぜ!? どうやってここまで火力を……)
ファルコンは思い出す。自分が立っている位置、そこで起きたことを。第一回戦の結末を。
「気づくのが遅いわね。そう、アナタが立っている場所はさっきあそこの義竜兵が燃料をばら撒いた場所よ」
ファルコンのグリースはガクンと動きを止めた。
「グリースは機体に炎熱反応を感知すると燃料タンクを守るため一時的に動きを止め、体から消火液を滲みだす。その時間は約三秒」
プールは一気に距離を詰める。
『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!』
「そんだけあれば――」
プールのグリースは右こぶしを作り、ファルコンのグリースに対し思い切り叩きこんだ。
「十分だ!!」
コックピットを殴られ、背中からファルコンのグリースは土俵の外へ倒れた。
ファルコンは空を見上げながら「うそ?」と虚ろに呟く。
「知ってる? 強者は手段を選ばないの」
審判の女性が声高に叫ぶ。
『勝者、プール・サー・サルン! よってこの戦い、ユーレリオンの勝利ですっ!!!!』
審判の宣言をかわきりに村民は溢れんばかりの歓声をプールに送った。
二勝一敗。無事プール達は勝利を収めたのだった。
ツミキは勝利したのにも関わらず、眉をひそませていた。
「でも、これだけやって取り戻せたのは採掘場一つだけですよね? ユーレリオンの方々が安定した生活をするためには、これだけじゃ……」
「っふ。それはどうかな?」
サンタはフッフッフと不気味に笑っている。そしてユーレリオンの村長もサンタと同様の笑みを浮かべていた。
「いやぁ、一時はどうなるかと思いましたぞ」
「これで採掘場は全てユーレリオンのモノじゃな」
「えっと、どういことですか?」
「ワシとアイズ村長、そして相手方の村長であるエイヴィスとで密約を交わしていたのじゃ。『次の戦いでユーレリオンが勝利すればリベルトコルの所有する採掘場およびチェイスを全てユーレリオンに譲渡する。逆にリベルトコルが勝利すればユーレリオンはリベルトコルの下請けとなり、採掘場全ての権利をリベルトコルに譲渡。さらに設備や人材もリベルトコルの言いなりに――』とな」
「え!?」
村民全員の視線がアイズ村長に集まった。
「そ、村長! 勝手に私たちを賭けの対象にしたんですか!?」
アイズ村長は頬を掻きながら「それはその~」と顔を逸らす。村長の様子を見てやれやれとサンタが助け舟を出す。
「下請けとはつまりお主らにも報酬が入るというわけじゃ。だから、万が一ワシらが負けていても村は儲けを出すことができる。むしろ現状に比べたら奴らの傘下に入る方がよっぽど良かった」
「なるほど。勝っても負けてもユーレリオンにとっては得しかなかったわけですね」
「そういうことじゃ」
村民はサンタの言い分に納得し、村長はホッと胸をなでおろす。――和気あいあいとするユーレリオン陣営に反して、リベルトコル側は武器を持ってユーレリオン側を睨んでいた。
「無効だ! そんな約束は全部無効だ!!」
リベルトコル村長エイヴィスが杖を左右に振りながら抗議してきた。
「なにを言っておる? ほれ、ここにお主の指印が入った契約書もある」
「ふんっ! 知ったことか。貴様らに全てを渡すぐらいなら力づくで――」
武器を構える村民たち。その間をグリースから降りたプールが割り込む。
「別にいいけど。戦争ってんなら容赦しないわよ」
プール、ツミキはポーンの駒を取り出した。
「き、貴様ら! チェイスを持っていたのか!?」
「さっきの遊びと同じだと思わないでね、そっちのオカマが束になっても私に傷一つ付けることはできない。武器を捨ててとっとと私らに従いな」
『いいや、武器を捨てるのも従うのも貴様らの方だ』
規律の取れた多数の足音と共に嫌味ったらしい声が空気を遮る。
プールはその揃った足音を聞いただけで割ってきた声が軍人であること、そしてかなりムカつく人間であることを理解した。
「アンタは……」
「私は義竜軍、二級隊士のハンベルメン・オコラムだ。この場は私に預けていただきたい」
「ハンベルメン殿! よくぞ来てくださった!」
「エイヴィス村長、これは大きな貸しにさせていただきますよ」
ハンベルメン。そう名乗ったちょび髭を生やした義竜兵はエイヴィスの耳元で囁く。
「……税の方を5%引き上げさせていただきます」
「し、しかしそれでは!」
「嫌なら、私は帰ります。――いいから言う事聞けくそジジイ! テメェが勝手にやらかしたせいで俺様が出るはめになったんだ! 拒否権はねぇんだよ!」
「わ、わかりました!」
ハンベルメンはニコッと笑い、プール達の方へ顔を向ける。
「っと、いうわけで。今日の出来事は全て無かったことにしていただきたい」
「はぁ? なにが『っと、いうわけで』よ。約束は守らせる」
「ここで我々二十八名と争いますか?」
「上等――むぐっ!?」
サンタがプールの口を両手で塞いだ。
「了解じゃ。ここは退こう」
サンタはプールの口を抑えながら木の影まで後退した。
「ぷはっ! なにすんのよ!!」
「馬鹿かお主は! “アンドロマリウスの右腕”を奪ったのがトリゴ使いだと義竜軍には割れておる。ここでトリゴを展開すれば足跡を辿られる!」
「はぁ!? そんなの知ったこっちゃ……あらら」
プールが反論しようとしたところで、サンタは背筋に悪寒を感じた。
「それはおかしいですよ!!」




