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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
幕間 激闘! “チェイス相撲”!?

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4.5‐⑤ 回避の天才

 ツミキは土俵に駆け寄り、


「避けて! ファルシアさん!!!」


「え?」


(おっと)


 ツミキの叫び声を聞いて硬直するファルシアとナルミ。

 ナルミは「いけない、いけない」と変形させた左腕を元に戻した、その刹那、


「もらったわッ!!」


 ファルシアのグリースがナルミのグリースに対して体当たりをした。


「わっ、しまった!!」


「いや、大丈夫だ。グリースの体幹なら耐えられるはずよ」


「いや、それはどうかのう。奴の足元を見よ」


 プールはサンタに言われ、ナルミのグリースの足元を見る。するとそこだけなぜか濡れていた。


「まさか……」


 プールは視線を少し上げる。――グリース、その臀部に付いた燃料タンクの内、一つに穴が開き、燃料が垂れ流しになっていた。その燃料がグリースの足を伝って地面まで流れている。


「燃料が――!?」


 ツミキは「あ……」と先ほどの攻防を思い出す。


「さっきの車輪攻撃で、バランスを崩した時に……」


「わっ、わ!?」とナルミはぬかるんだ地面に足を滑らせバランスを崩し、そのまま土俵の外へ転び落ちた。


『しょ、勝者ファルシア!』


 ゴツン。とツミキの頭上に拳骨が振り落とされる。


「アンタが邪魔したせいで負けたじゃないの!」


「す、すみません!」


 ツミキは頭を抑えながら「あれぇ?」と首を傾げた。


(き、気のせいだったのかな……)


 敗北したナルミはグリースを圧縮させ、村民に謝罪しながらツミキ達の方へ足を向ける。


「申し訳ない、負けてしまいました」


「こっちこそ悪かったわね。このガキが邪魔したせいで」


 ツミキは申し訳なさそうにナルミの元へ歩み寄る。


「ごめんなさい、ナルミさん……」


「ああ、いいよ別に。どっちみち負けててたさ。むしろ――」


 ナルミはツミキの横を通り、すれ違いざまにツミキにのみ聞こえるように呟く。



「ありがとう」



「え?」


「ほらツミキ! 次はアンタの番よ!」


「あ、はい!」


「が、頑張ってね! ツミキ!」


「うん。任せてよ」


 ツミキはプールに呼ばれ土俵の方へ急ぐ。その背中をナルミはジッと見つめていた。


――『避けて! ファルシアさん!!!』


「面白い少年だ……」




 第二回戦。ツミキvsファムール。


 土俵の上で対峙する両者。ファムールは対戦相手が先週倒したツミキであることを確認するとクスリと笑った。


「今度は助っ人じゃないみたいね。退屈だわさ」


「以前の僕とは違いますよ」


「たった一週間で何が変わると言うのよ?」


 プールは土俵の側で二人の会話を聞き、笑った。


(そのガキを、マトモな定規で測ったら痛い目見るわよ)


『第二回戦、スタートです!!』


 ツミキとファムールは同時に起動式を口にする。


「力を貸してくれ! “グリース”ッ!!」


「踊りなさい! “グリちゃん”ッ!!」


 展開される二機のチェイス。


 ツミキはグリースの展開を確認して呼吸を整える。


(まずは様子見――)


 だが、整えた呼吸はすぐに乱された。

 ツミキが息を吐いた一瞬でファム―ルは距離を詰め、左拳を引いていた。


「速い!?」


『さようならボーヤ!』


 ガンッ!!!

 豪快な炸裂音。体を交わらせた結果、膝をついたのは――



 ファムールのグリースだった。



『え?』


 ファムールの動揺と共に会場も静まり返った。

 何が起きたか理解できているのは数名しかいない。


「ファムール! アンタはカウンターを貰ったのよ!!」


 ファルコンの言葉でファムールはこうなった過程を理解する。

 目の前には右こぶしを前に出したツミキのグリース、その拳は少しだけ削れていた。


『(ラッキーパンチ!!?) 運がいいわね、ボーヤ!』


 ファム―ルは立ち上がり、すぐに右こぶしによる攻撃を繰り出す。だが、その攻撃もツミキのグリースには届かず、空を切った。


(この距離で、躱した!?)


「プールさんの言う通りだ。挙動をしっかり見れば……」


 ツミキはファム―ルの初動からその先の攻撃を見切る。


「避けれる!」


 続く連撃も見事に躱した。



「“危険信号”は機能していないはず……」



 サンタの疑問にプールが答える。


「アンタさ、もし、“危険信号”が使えたとして、目前の敵のフェイントやバルカンによる連射に反応できると思う?」


「それは……無理じゃな。ツミキの話によると“危険信号”は相手の攻撃を未来予知しているわけではなく、相手が自分を殺すイメージを×印として捉えているだけ。着弾点とタイミングがわかっていても実際どのように攻撃するかはわからん」


 ツミキの“危険信号”による攻撃予測は絶対ではない、むしろとてつもなく不安定な能力だ。


 相手がもし、イメージ通りの行動ができない稚拙なパイロットだったら危険信号の予測から実際の行動はかなりズレる。


 相手の攻撃中にこっちも行動してしまったらそこで相手は攻撃の軌道を変えてしまうだろう。


 ほとんどの場合情報の無い敵の技量に依存し、尚且つ自分はギリギリのタイミングで回避しなくてはならないのだ。


「命のやり取りの中、相手がイメージを変更する間も与えぬジャスト回避を連続して(おこな)うなど不可能じゃ」


「その通り。私でも正直“危険信号”は持て余すでしょうね。ツミキの回避のセンス、それは“危険信号”だけで成り立っているわけじゃない。相手の攻撃をギリギリで躱す反射神経、殺意の向きやタイミングだけで相手の攻撃を予測できる観察眼。そして“危険信号”発生により増えた情報を簡単に処理する頭の良さ。私はそれらの能力をアイツに自覚させただけよ」


 プールはどこか羨ましそうに、どこか楽しそうに言う。




「――ツミキ・クライム。例え“危険信号”が無くてもアイツは回避の天才だ」




 プールの言葉を肯定するようにツミキはファムールの攻撃を躱し、躱し、躱し続ける。


(今のアイツに、危険信号が噛み合ったら――まさに、天才()心能(金棒)……)


 その様を見てファルコンとナルミは驚きを隠せなかった。


(な、なんて子!? あんな近距離で、ファムールの攻撃を一切(いっさい)防御せず躱し続けるなんて!!)


「ただ躱しているだけじゃない、相手の攻撃を直前まで引き付けて躱している。闘牛をギリギリで躱す闘牛士のように……」


 テンオウはチェイス操作の難しさを知った上で、ようやくツミキの異常さを理解し、頬を赤く染めた。


「すごい……」


 ツミキは攻撃を仕掛けない。ただただ躱し続ける。


(そうだ、それでいい。チェイスは腕を引いて、前に出す動作をするだけでも器用さを必要とする。そうやって攻撃を誘導し、躱し続ければ必ず綻びは現れる。しかも、一撃一撃をあれだけ引き付けられて躱されると相当なストレスなはずよ)


 プールの考えている通り、ファムールは段々と冷静さを失っていった。

 ツミキとファムールの戦いを覗き見ているネットは、そっと視線を外した。


「勝負ありやな」


 動きに粗さが出てきている。ツミキもそれを感じ取り、攻撃の手段を頭に浮かべる。


(もう! 面倒ね……! 一気に決めるわ!!)


「落ち着きなさい! ファム―ルッ!!」


 ファルコンの言葉は届かず、ファムールはグリースの左半身を引いた。ツミキはその動作を見逃さなかった。


(左半身を引いて重心を落とした。この態勢、恐らく右肩を前面に押し出すタックル!!)


『これで!』


(チェイスの向きから狙いはコックピット! 重心の移動からタイミングも読める!!)


 ザッ!! と地面を蹴るファムール。


 ツミキはギリギリまで攻撃を引き付け、寸前で身を傾ける。何もない場所を通り抜けようとするグリースの左脚に、自身のグリースの左足をそっと引っかけた。


『うそっ!?』


「疑似的な危険信号、ってところかな」


 左脚同士が絡み、ファムールのグリースは地面を蹴った勢いのまま宙を飛び、土俵の外へと転んでいった。


 勝敗は決まった。



『勝者、ツミキ・クライム!』

常時「集中」状態でさらに精神コマンドで「集中」を重ね掛けできる男、ツミキ・クライム。精神コマンドは回避系で揃えたい。「ひらめき」だけは外せない……

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