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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
幕間 激闘! “チェイス相撲”!?
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4.5‐④ 強敵 (挿絵あり)

 プールの訓練はすぐに始まった。


 まずはチェイスを操作するための身体強化。腕立て伏せ、腹筋、懸垂など上半身を重点的に鍛えられた。


 次に(おこな)ったのは視野を広げる訓練だ。特別に用意された訓練プログラム(例:一瞬だけ多数の点を見せて数えさせ、何個見えたか言わせる)などなどをやらされる。


 次はチェイスという兵器の構造を知ることだった。頭でチェイスという兵器の利点、欠点、その全てを理解させられた。


 基礎的な肉体作りと理論構築。それが終わり、最後に待っていたのは実際にチェイスに乗っての模擬試合。ここまででツミキ、テンオウ共に体力の限界だったが鬼教官は休ませはしなかった。


 肉体をいじめつくされ、頭もいじめつくされる。そんな生活を彼らは三日間(おこな)った。




 そして決戦の日は、訪れた。






「それで、子供衆は戦力になりそうなんか?」


 宿屋の食堂。そこでプール他瀕死の二人とネット、サンタは昼食を食べていた。


 プールはネットの質問に頭を捻る。


「ま、ツミキは良い感じだ、やっぱりいいセンスを持っている」


「あ、ありがとうございます……」


「だけどテンオウはダメだ、格闘センスがまるで無い。唯一褒められるのは空き時間にやらせた射撃ね。逆にツミキは射撃がダメだ、左目の失明のせいだろうけど」


「チェイス相撲に銃は持ち込めんから、実質テンオウは戦力外――」


「ってことね」


(あれだけやって、私の評価それですか!?)



 二人の辛辣な言葉にテンオウはムスッと頬を膨らませた。

 頬を膨らませるテンオウの頭をツミキが苦笑いしながら撫でる。


「一敗は確実。ツミキも正直まだアイツらと戦えるレベルとは言えない」


「なら、勝率は五分五分ってとこやな」


「そういえばネットさんはチェイスに乗れないんですか?」


「ワイ? ワイはチェイスは専門外や」


「残念だけど五分五分までいかないわよ。せめてテンオウの代わりに有望株が一人欲しい所だけど……」


 そうは言ってもこの村にまともにチェイスに乗れる人間はいない。プールはそれをわかっていて冗談のつもりで今の台詞を吐いた。


 だが、




「それなら、僕が力を貸しましょうか?」




挿絵(By みてみん)



 その言葉に反応する者がいた。


 それはこの数日間、ずっとプールと同じかそれ以上の量の料理を食べていた男だ。少し緑がかったポニーテールの髪、着崩したワイシャツ。身長は高いが猫背なために印象は低く見える。歳は三十路ほどだろう。彼の服装で一番目を惹くのはその大きな丸メガネだ。グルグル模様が浮かんでいる。


 ネットはその男を見ると「ありゃま」と顔を背けた。


「誰よアンタ?」


「おっと、これは失礼いたしました。僕は義竜軍 三級隊士の“ナルミ・ハルトマン”と申します」


 義竜軍三級隊士。そう聞いてツミキは慌てて顔を上げ、サンタは鋭い目つきでナルミを見て、笑った。


「お(ぬし)が三級隊士?」


「あっはっは。よく言われます、そう見えないって。全七級ある隊士で三級と言えば優秀な部類に入りますからね、僕みたいな間の抜けた人間は疑われて当然です」


 本人の言う通りどこか抜けている男だ。立ち振る舞い、容姿から見てもだらしなさが目立つ。

 全く警戒心を駆り立てられない相手だが、ツミキだけはサンタとプールに比べて目の前の男に怯えていた。


「(ぎ、義竜兵!? 僕らは盗賊みたいなもの、素性がバレたら逮捕される!!) ――ごほぉッ!!?」


 目を泳がせ、震えるツミキの脇腹にズガンッ! と強烈なブローがプールより放たれた。


(このバカ! こんな田舎に居るコイツが私たちの顔を知ってる可能性は低い! トラックに付いてる“アンドロマリウスの右腕”が見られない限りモーマンタイだ!!)


 ツミキは脇腹を抑えながら「りょ、了解です……」と声を絞り出した。


「ゴホンッ! ――なるほど、義竜軍の三級隊士様なら戦力として申し分ないわね」


「まぁ、三級隊士の中でも下の方ですけどね」


「よし。ならばテンオウの代わりにナルミ殿に入ってもらおう。よろしく頼む」


 サンタは右手を出し、握手を求める。


 ナルミは笑顔のまま「よろしく」と握手に応えた。


 一行(いっこう)は本来敵である義竜兵士ナルミを加え、新たにパーティを編成した。




――決戦の日、午後三時。




 先鋒・ナルミ・ハルトマンvsファルシア。

 中堅・ツミキ・クライムvsファム―ル。

 大将・プール・サー・サルンvsファルコン。


 チェイス相撲第二幕が始まる。両陣営は土俵を挟んで睨み合う。


 新しく加わったナルミは支給された量産型チェイス“グリース”の起動ツールを受け取る。背後からは村民より声援が送られていた。


「がんばれー! ナルミ殿ーー!!」


「ファイトー!!」


 ツミキとプールもそれに続いた。


「頑張ってください!」


「負けたら承知しないわよ!」


「どうもどうも~」とナルミはペコペコとおじきしながら土俵に上がろうとするが「うわっ!」と土俵の段差に躓き「うぎゃっ!?」と顔面から転んだ。


 大丈夫かコイツ。とプールは目を細めた。


「そういやネットはどこ行ったの?」


「さぁ。ここには居ないみたいですね」


 ネットは遠目で土俵が見える木に登り、枝に腰を掛けて眺めていた。


「さてさて、お手並み拝見やな」


 ナルミは恥ずかしそうに頭を掻きながら先鋒のファルシアと土俵の上で対面する。


「……アナタ、義竜兵ってホントかしら?」


「ええ。僕は義竜軍三級隊士のナルミと申します。軍人として、アナタ方のやり方は看過できない。力づくでやめてもらいますよ」


「わかってるの? こっちの村から税金を徴収しているのは二級隊士の――」


「――みたいですね。だから、なんだと言うんです? 僕は自分の正義を執行するだけだ」


 丸メガネの隙間から鋭い瞳で威圧するナルミ。に対してファルシアは顔を赤めた。


(あらやだ、ダサ眼鏡なければ結構イケメンじゃない)


『それでは双方準備OKみたいなので、試合スタートです!』


 審判が右手を振り下ろし、笛の音が鳴り響く。

 ファルシア、ナルミは同時に起動式を口にする。


「舞いなさい! “グリッち”ッ!!」


「行くよ。“グリース”」


 白光と共に展開される全く同系の二機のチェイス。質素な銀色のナルミのグリースに対しファルシアのモノは目が痛くなるような派手な色で塗装されている。


 始まった第一回戦。

 チェイス相撲なので武装は無し。お互い無手での戦いだ。


『先手必勝!』


 ファルシアによる押し出しの一手、ナルミは(かろ)やかに躱した。


「じゃ、次は僕からだ!」


 全体重を乗せたタックル。今度はファルシアが軸をずらし、横に逸れることで躱した。


『やるじゃない!』


「お互い、ね」


 息を呑む戦い。ボクシングの試合のように躱しては殴り、防御しては殴る。敵が隙を見せれば押し出しを狙い大振りな攻撃をするが、互いにその攻撃を許すほど稚拙ではない。


 観客達はこのチェイス相撲が始まって以来の接戦に湧いていた。


「互角か」


 サンタが両者の動きを見て呟くとプールが「いいや」と否定する。


「互角じゃないわ……」


「そうですか? 僕にも同じくらいの技量に見えますけど」


「確かに、見た目はね」


 プールと同様の疑問を浮かべる者が相手側にも居た。


「ここまで長引くとはね」


「そうねお姉さま。ファルシアがここまで粘られるなんて――」


「逆よ。私は試合開始してすぐに、ファルシアは倒されると思ったわ」


「え?」


「足の運び、重心の置き方、メインカメラの振り方。どれをとってもあのナルミって男、完璧だわ。私ほどになるとチェイスの走り方だけで力を測れる。ファルシアの力は義竜兵で言うと三級隊士ぐらい。けど、ナルミは最低でも二級隊士レベルはある」


 プールも全く同じ感想だ。それにも関わらず、現状は互角。二人の意見は一致した。



――手を抜いている。



 ナルミは敵の攻撃をいなしながらチェイスの姿勢を整える。


「さて、そろそろ決めるかな」


『隙あり!』


 ナルミが攻撃に転じようとした一瞬、ファルシアはグリースの右腕を横から薙ぐ。


 ラリアット。ナルミは回避の姿勢を取ることはできないが、大振りゆえに防御は間に合った。


「そんな攻撃、簡単に防御できるよ」


『そうかしら?』


 グイン、とファルシアのグリースの右腕が変形し、中から高速回転した車輪が現れた。


「片腕だけを変形させたのか!?」


(タイヤで轢かれればその防御に使った左腕は破壊できる。そうなれば、勝負は決まったようなモノよ!)


 熱した鉄板に水を撒いたような音が鳴り、ナルミのグリースは左腕を文字通り轢かれた。

 肘の部分が半分焼き切れ、肘より先の部分がダランとぶら下がっている。


「おい、コラ、義竜兵!!」


「まずいのう……! 同等だったバランスが今ので崩れた!」


 この勝負貰った。そうファルシアが確信した時、攻撃を受けた反動で丸メガネを落としたナルミの瞳が光る。





 ぐわん。




 ざわ。プールとファルコンはその時、確かな威圧感をその身に感じた。多くの戦場を駆けて来た二人だからこそ感じた違和感。生物として備わった危機回避能力が反応したのだ。


 そしてその危機回避能力の到達点と言える能力を持った少年、ツミキ・クライムは右目に赤い×印を浮かべていた。


(そんな、どうして……ファルシアさんのコックピットに危険信号が!?)


 ナルミは緑色の光を瞳から発している。

 ナルミはファルシア同様にグリースの右腕を変形させ、敵の死角からコックピットめがけて攻撃を繰り出そうとしていた。

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