last episode “終幕と幕開け”
ツミキ達が居た港街と、美術都市アート・キングダムの間には多くの街が存在する。
その内の一つ、ある部族が取りしきる観光名所“ヤハルカン”に義竜印のキャンピングカーが止まっていた。その中、リビングにて、義竜軍 貴・一級隊士ナルミ・ハルトマンは四人の部下を前に、一つの報告をしていた。
「ついにアンドロマリウスの右腕が動いた」
部下の一人、カミラ・ユリハはそれを聞いて小さく笑う。
「やっとか……!」
「ふはははははっ! ようやく、このニューアーノルドの力を奴らに示す時が来たか!」
「まさか一か月待たされるとはな」
「では、早速追跡を開始するのですか?」
エルフの質問にナルミは「いや」と答える。
「追跡、と言うよりは待ち構える、って言った方がいいかな」
「どういうことだ?」
「アンドロマリウスの右腕を持つ一団が最後に確認されたのは監獄ヘビヨラズ。それからの足跡はわからない」
ピスケスはナルミからの情報を聞いて、考える。
「アイツらはアンドロマリウスのパーツを探している……だとしたら、道は二つ」
「そうだね。王都オーランか、美術都市アート・キングダム」
「どうしてその二つなんだ?」
「客観的に見てあらゆる面からその二つの街はアンドロマリウスのパーツが置いてある確率が高いからだよ。セキュリティが強く、義竜軍の部隊も設置してあり、尚且つ義竜軍本部に近い街。――現に王都には“アンドロマリウスの頭部”が、アート・キングダムには“アンドロマリウスの胸部”がある」
カミラは「まじか」と腕を組んだ。
二つのルート、どちらを守るか。この議題に対し、アーノルドが真っ先に意見を言う。
「守るならアート・キングダムでしょう。王都は王都で自衛できる」
「一理あるね」
「だけどそれはアート・キングダムも同じでは? アート・キングダムには人形師様率いる強化兵たちが居ます」
「一理あるね」
「俺はあの人形師に頼るのは嫌だから、アート・キングダムに絞りてぇな」
「それも一理ある」
「テメェ、『一理ある』しか言えねぇのか!?」
「あっはっは、ごめんごめん。ちょっと考えててね」
ナルミはさっきから無言で考え込んでいるカミラに視線を合わせる。
「カミラちゃん」
「――ん?」
「君はどう考える?」
カミラは「そうだな……」と一拍置き、
「道中はどうだ?」
「道中?」
「そいつらにとって、楽な道筋はどっちだ?」
「――そうだねぇ、多分、アート・キングダムかな。ヘビヨラズとアート・キングダムの間には軍管轄外の街もあるし、なにより廃棄指定地区がある」
「そうか。だったらアート・キングダムの方が確率は高いと思うが、絞り切れない。分散しようぜ。確率高いアート・キングダムの方にこのキャンピングカー含めた大半を、王都には……二人程度送っておいて、相手を捕捉し次第、足止めして合流開始。これでどうだ?」
カミラの意見に対し、感心する者もいれば難色を示す者もいたが、今までの意見で一番反対・摩擦が少なかったことからナルミはカミラの意見を採用することにした。
「よし決まりだね。カミラちゃんのアイディアで行こう。ピスケス、エルフちゃん、アーノルド君、フリップ君はこのまま廃棄指定地区“ヘルケロ”に行ってもらい、僕とカミラちゃんは王都へ向かう。さぁ皆、ようやく追跡チームの本懐だ。気を引き締めていくよ!」
『了解ッ!』
―――――――――――――
監獄都市ヘビヨラズ。
すでにそこは廃棄されていた。残っている人間は一人だけ。
――シン・クライム。
彼女は地下にあるアンドロマリウスの左腕の前に座っていた。その場所に一人の男が訪れる。
「面倒をかけたな。シン」
シンは仮面を付けた長髪のその男、アルタイルを見て、まるで迷子が親を見つけたかのように喜んだ。
「ダキさん!」
「今はダキではない、アルタイルだ」
「アルタイルさん!」
シンは飛び上がり、ぴょこぴょことアルタイルの側に駆け寄る。
「珍しいですね、アルタイルさんがここに来るのは。なにか用事でも?」
「ああ。――シン、ここからお前を出す」
「え? ほんとですかぁ!?」
「お前に監視してほしい者達が居る。そのためだ」
シンは両手を広げ回りだす。
「やったー! やっとアルタイル様のお許しが出たぁ!」
「仕事内容は移動中に伝える。ひとまずここを出るぞ。――これを持ってな」
アルタイルは宙に吊るされたアンドロマリウスの左腕を見て言った。
「僕に使わせてくれるんですか?」
「これ以上ない使い手だろう。それに、試したい新兵器もある。アンドロマリウスのパーツ専用の物だ。お前に試運転してもらおう」
「へぇ~、楽しみですね……」
「今まで休んでもらった分、しっかり働いてもらうぞ」
「はーい!」
:エピローグ:
とある静かな町。
そこは木と川に囲まれた場所。一貴族が経営を回している町であり、世間とは切り離されたある種特別な町だ。
その美しい町の清廉な貴族の家に美しい女性が一人居た。女性は貴族の家に嫁ぐ身でありながら廊下の掃除をしていた。
女性の元に執事と思われる片手に花束を持った高齢の男性が慌てて駆け寄る。
「お嬢様! 今日は結婚式があるのですから、何卒! 雑用などせず休んでくだされ!」
「いいのペールさん。こうしてると落ち着くので」
「まったく、貴方様は……」
「今日は私の体のせいで家で披露宴を行うのですから、綺麗にしておかないと」
そう言う花嫁の名前は“エリ・バーウォン”。旧姓、“エリ・ペーターズ”。ヘビヨラズに居たメイバ―・ペーターズの妹である。
「病み上がりなのですから安静にしていないと……」
「それよりペールさん、その右手に持ってる花はなに? ――〈ブーセ〉ね」
「はい。今日ウェディングケーキを町に受け取りに行ったら、道端で知らない少年に『エリさんへの贈り物です』と」
エリはペールから花束を受け取り、自分の兄を思い出す。
「――綺麗」
「エリ様、もしかしてブーセが好きなのですか?」
「はい。言ってませんでしたっけ?」
「エリ様はあまり好き嫌いを言わないので……」
「うふふ。そういえばそうですね。この花を好きと伝えたのもたった一人だけでした。とても、とてもやさしい私の兄……今頃、どこでなにをしているのでしょうか」
太陽が煌めき、水面が揺れ、大地が渇き、時が過ぎる。
始まる物語があれば、終わる物語もある。完結した物語を抱き、彼らは無限の空白を彩っていく。こうして、人類史は紡がれていく……
~~~第四幕 “ゲフェングニスの罠” 終幕~~~