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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第四幕 “ゲフェングニス”の罠
113/166

4‐㉝ 集中しろよ

 中央エリア。


 回転刃を銀腕で捌くツミキと、距離を取ってエイセンの知らせを待つトート。

 ツミキはトートの狙いを読み、銀腕を左手で引っこ抜く。


「――捻じ曲げろ。ヌト」


 銀腕は変形し、左腕を包み込んだ。


『三つ目の形状……アームカバー。打撃の威力を上げる形態かな? ――どっちみち近接武器なら“回転刃(チェンソー)”一つでけん制できる……』


 トートの元へ通信が入る。


『監獄長。トリゴ使い、捕捉しました。位置情報を送ります』


『よし。これでチェックだ』


 アテナは再び槍を構え、三つの盾翼にΔの陣形を取らせる。


『モード、〈三角光(ラック)〉――』

「さっきと同じように、また僕の仲間に横やりを入れる気ですか?」


 トートは見る、アンドロマリウスの右腕を纏ったアズゥの左腕を。


 その左腕には空間が歪んで見えるほどの黒い稲妻と風が溜められていた。


(大気が左手の中心部に集中している……一体なにが起きている?)


「もう少し、僕に構って欲しいですね……」


盾翼(イージス)ッ!!』


 〈三角光(ラック)〉とは別の三つの盾翼がツミキを抑えにかかる。だが――


「邪魔だ!!」


 ツミキのアズゥは剛拳を右から左に薙ぎ、接近してきた盾翼を突風によって払いのけた。


『なっ――!』


 ツミキはさらに“ヌト”へと力を溜める。


「他の人達の邪魔が出来ないよう、意地でも僕に釘付けになってもらいます」


 ぐぅん。と捻じ曲がる空間を見て、トートは危険を察知する。


『(なにかがやばいっ!?) ――戻れ盾翼(イージス)ッ!!』


 トートは六つ全ての盾翼を自分の正面に置く。


「充填完了……」


全防御(フルガード)、フォーメーション“六角陣(ヘキサゴン)”ッ!!!』


 アテナは六角形に盾翼を組み立て、その中央に六つの盾翼のエネルギーを集った強靭なシールド膜を張る。


(このシールドは一度もヒビすら入ったことが無い。この守りを突破するのは――)


「吹き飛べ……!」




 瞬間、螺旋の渦がアテナをシールドごとヘビヨラズの外まで吹き飛ばした。




『ばっ――!?』


 間に入る建物・城壁は全て問答無用で破壊された。 


(こ、れは――!!? 一体なんだい!!!!?)


 渦はヘビヨラズ領地を抜け、砂塵吹き荒れる荒地に突入してもなお、アテナを(のが)さずに吹き飛ばす。


『なんてデタラメな――』


 アテナはシールドで上手く力を逃がし、渦から逃れ、荒地に着地する。


『ヘビヨラズから500、いや600は離された……! でもこの隙にエイセン君の援護に――』


 渦によって発生した砂煙――を、全て突き破ってアズゥはアテナとの距離を詰めて来た。


 その体には黒い(すじ)が走っている。


『おおっ――――!?』


「――禁呪(ゲッシュ)解放。」


『(速い!?) ――盾翼(イージス)ッ!!!』


 咄嗟に盾翼六つを障壁として飛ばすが、アズゥの両腕は全て殴り飛ばし、盾翼六つの内二つを破壊した。


 猪突猛進。まっすぐとアテナへ向かって走り続ける。

 距離は完全に詰まり、銀腕の射程にアテナを捉えた。


(めちゃくちゃだ!!!)


 銀色の右拳がアテナに迫る。


『この――!!』


 なんとか銀腕の一撃を躱すトート。ホッと、トートが胸をなでおろすと、


 ガゴォンッ!!!


『!!!?』


 禁呪解放によって強化されたアズゥの左拳が左わき腹を殴り、アテナを突き飛ばした。

 十数メートル宙に浮き、荒地に倒れこむ。


 倒れたアテナを見下ろして、ツミキはソッと禁呪解放を()いた。


「これで、少しは僕との戦いに集中できますか?」


『上等だクソガキ。僕を怒らせたこと、後悔させてやるよ!!』

 





――――――――――――― 





 荒地エリア。


 互いに左腕を失ったトリゴとプレート、それを操るプールとエイセン。二者は互いに……一歩引いた戦いをしていた。


 プールにとってはエイセンを足止めできればそれで良し。あとは他の人間が何とかしてくれるだろうという考え。


 一方エイセンもプールの考えと相違ない。トートがツミキに勝つのを待つのも良し、機犬が雑魚共を食い散らかすのを待つのも良し。どちらにせよ、時間が経てば味方の手が空きこちらを援護してくれる。できればプールを倒したいが、無理に前に出る必要はない。そういう考えだ。



『トリゴ使い、と言っても所詮は量産型しか相手にしない……いわゆる“雑魚専”と言うものだろう?』



 エイセンはプールを挑発する。

 エイセンは完全に待ちの姿勢、プールを突き蛇の間合いに連れてくるのが目的だ。


『やはり、相手が発展型を操るとなると気が引けるか? 怯えているか? 悪い事ではない、弱者が強者を恐れるのは当然のことだ』


「……。」


 エイセンは手ごたえを感じず、アプローチを変える。


『こんな時間稼ぎをしていていいのか? 貴様がいなければ、仲間は全て機犬に食われるぞ』


 エイセンの言う通り、囚人たちは機犬とその長“核機犬”に苦戦を強いられていた。


『ちょっと冷血女! このままじゃ私達全滅するわよ!』


『プールさん! まずいです、本当にこのままじゃ……』


 プールはマリスとポールの声を無視してエイセンに語り掛ける。


「アンタに心配されることじゃないっての。死体フェチ」


『――なんだと?』


 エイセンの声色が低くなる。


「エイセン・グリッドだろ? 敵軍の捕虜を殺して、犯して、バレて左遷された大馬鹿」


『……どこでそれを』


「アンタさ、自分が気色悪い人間だって自覚ある?」


『……』


「ハッキリ言って異常よ。不潔よ。下劣。気持ち悪い、人間として認められな~い。アンタの趣味を受け入れる所なんてこの世界のどこにもない。アンタの上司のトートだって心底気持ち悪がってるだろうねぇ。あーやだやだ、――目に毒だから早く視界から失せてくれない? 死臭が移る」


 プールのあからさまな挑発。しかしエイセンは真面目な男ゆえ、真面目に受け取ってしまう。


『―――――――――――――――――』


「どうした異常者。少しは自分の下品さを自覚したか?」


『トリゴ使い。――私は、キレた』


 輝光剣を握り、前に出るプレート。


『“突き蛇(スネック)”ッ!!!』


 伸びる斬撃をプールは(かろ)やかに躱す。

 プレートはさらに距離を詰め、エイセンは怒りを露わにする。


『人間は死をもって完成する! そんな簡単な“美”をわからぬ罪人が、私を語るな!』


「死をもって完成する。なるほど、じゃあアンタも完成品にしてやるよ!!!」


 “突き蛇”が連続で繰り出されるが、プールはトリゴの低い性能でその悉くを最小限の動きで躱していく。


「どしたどしたぁ! 掠りもしないぞ!」


『調子に乗るな罪人がっ!!』


「ほれ」


 プールはバックステップを踏みながら左手に持った斧を投げた。


「ちゃんと()()()()?」


『避けるまでもないっ!』


 プレートは光の刃で斧を斬った。だが同時に、斧が起爆した。



『なぬ!?』



 プールはワイヤーで斧に手榴弾を巻き付けていたのだ。ピンを抜くと同時に斧を投げ、プレートの近くで爆発するように計算した。


 至近距離で爆撃を受けたプレートは頭部に傷を負うも、ダメージは少なかった。


『っふん。手傷にもならん』


 しかし、足は止まった。


「今見えたろ。そこだ。その爆発したとこ。――吹き飛ばしなさい」


 ヘビヨラズの方が一瞬、煌めいた。それから一秒後、巨大なエネルギー弾が手榴弾の爆撃位置に着弾した。


 操縦かんを握りながらテンオウに代わって特化型を動かしているハリスは笑った。



「仕返しだバーカ」



 破壊の波が辺りを消し飛ばす。

 地形を変えるレベルの広範囲砲撃が炸裂した。


(――これは、特化型の!? 先ほどの爆撃はマーキング代わりか!)


 足場と下半身を崩され、落下するプレート。プールはサブマシンガンを構え、プレートのコックピットを狙う。


 狙うプールの額には青筋が浮かんでいた。


「さっき散々言ってくれたわねぇ……! 誰が雑魚専だコラァ!!!」


 サブマシンガンによる掃射が繰り出される。


『ぬっ!?』


「言っとくけど、単機で発展型落としたことあるし! アンタだって時間さえあれば一対一で倒せたっての! 『弱者が強者を恐れるのは当然』だぁ? 笑わせてくれる」


 プールの怒りに比例して射撃がどんどん激しくなっていく。



「アンタは強者でも無ければ弱者でもない。――下衆よ」



 全ての弾丸がコックピットに当たる。一撃一撃じゃ物足りない火力だが、弾丸が積み重なった部分が破損し、穴が開く。


 遠くなる空を見ながらエイセンは悪魔の形相で叫ぶ。


『こ、の……忌まわしき罪人共がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!』


 コックピットにあいた穴から侵入するジャブダル、エイセンはジャブダルを全身に浴びながら崩れた荒地に沈んだ。


 プールは呼吸を整えハリスと通信を繋げる。


「ハリス。そのまま機犬(バーゲスト)たちを狙える?」


『ダメだ。この特化型、精神体のパワーが高くねぇと圧縮率が低くなって弾がバラけて狙いが定まらねぇ。あんな乱戦地帯にぶっこんだら味方も巻き添え間違いなしだ』


「確かに、今の一撃もお粗末だったわね」


『うっせ! 確か、テンオウ・オルコットは精神体のパワーがクソたけぇんだよな。だからネギソンのババアはアイツに預けたのか』


「まぁいい、わかった。じゃあ私は今から核機犬(マザー・バーゲスト)を抑えにいく。アンタはできそうだったら援護しなさい」


『命令すんな! それにもう特化型のエネルギーが残ってねぇよ!』


「燃費悪っ! じゃあ離脱しろ。あとは私がやる」


 プールは機犬たちの方へ向かう。

 プールが去った後の緩んだ地盤の中で、一人の男が目をぎらつかせていた。



「ゆる、さん――許さんぞ。罪人共め……!」



 男は近くに機犬を呼び、機犬のコックピットを開けた。

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