4‐㉜ 灼熱の地獄
チェイスを圧縮した後、ハリスは監獄内で身を隠していた。
「ったく! さっきのはトートの野郎の仕業か!」
ハリスは頭の中で状況を整理する。
(ってなると、エイセンは外へ向かうだろうな。あのプールって女がどれだけやるかはわからねぇが、エイセンと核機犬を同時に相手するのは絶対に無理だ。それに、ツミキがトートとタイマンってのもダメだろ! 戦力差が大きすぎる!!)
ハリスが落ちたことをきっかけに、状況はかなり悪くなった。
ハリスは舌打ちし、走り出す。
「こんな時にネギソンのババアはなにをやってやがる!!」
―――――――――――――――――――
廃棄指定地区“カウルベルン”。その荒れ果てた土地で地獄絵図のような戦いが繰り広げられていた。
無数の機犬たちとチェイス十一機の戦い。そこに知略は無く、ひたすら食い合いだ。
機犬の武器は口の中の大砲と四足に付いた爪型実体剣。それに対しチェイスたちはサブマシンガンと実体剣で応戦する。
『くそっ!! 何匹居やがるんだ!!!』
『斬っても斬っても湧いてきやがる!!』
怖気づく兵士たちに対し、プールが檄を飛ばす。
「うろたえるな!! コイツらの数にだって限りはある。それにどこかに核が居るはずだ! 明らかに他の機犬と違う特徴を持つ奴がねぇ!」
「だけど、どれだけ倒しても見つからないじゃない!」
その時、マリスの背後で一機のチェイスが機犬の爪によりコックピットに穴を開けられた。
『う――うわああああああああああああああっ!!!?』
「クリート!?」
マリスは倒れこむクリートのチェイスに駆け寄る。
「あ――あぁ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!?」
コックピットを剥がされたクリートはジャブダルの侵入を許し、感染。体中を腫れあがらせ、おでこに金属を作り出していた。
マリスは仲間の惨状を見て体をガクガクと震わせる。
「い、いや――クリート、クリートッ!!!」
クリートを助けようと手を伸ばすマリスのチェイスを、プールが制止する。
「諦めろ! そうなったら終わりだ!!」
「うっさい! アンタからしたらどうでもいい人間でも、この人は私の知り合いなんだ!!」
「死人に知り合いもクソも関係あるか! 死んだら誰だって赤の他人だろうが!」
「こ、の――! 冷血女ッ!!!」
揉めているマリスとプールのチェイスに一機の機犬が飛び掛かる。その機犬を、ポールは実体剣で切り裂いた。
「マリスちゃん……今は他の人の事を考えず、自分のことを考えて! 僕達だって、一歩足を踏み外したらそこで終わりなんだ」
「ポール……」
プールはマリスのことをポールに任せ距離を取り、相手を観察する。
(でもどういうことだ? これだけの機犬を操るには核機犬もそう遠くに位置するわけにはいかないだろ。どこか視界に収められる場所に居るはずだ……)
悩むプールの側にポールのチェイスが駆け寄る。
「プールさん。もしかしてですけど、相手は〈不可視機構〉を使っているのではないでしょうか?」
「――! そっか。トートは確か、ネギソンの輝光兵器の技術書を盗んだって話だったわね……アンタの言う通りならこの砂塵の中で、どこか一か所だけポッカリと綺麗な空間があるはずだ」
全員で周囲を見渡す。
初めに異変に気付いたのはマリスだった。
(あそこだけ、空間が歪んでいるような……)
マリスは目を凝らし、砂で象られた銃口を見つけた。
「ポールッ!!」
マリスは銃口がポールの方を向いていることに気づき、ポールのチェイスを突き飛ばす。入れ違いになるように一発の砲弾がチェイスの残影を貫いた。
「見っけた!」
プールは腰に掛かった拳銃を手に取り、歪んだ空間に印弾を撃ち込む。
核機犬に当たった印弾はピンク色の液体をぶちまけ、全機のレーダーに核機犬の居る場所を示すようになった。核機犬はそれがわかったのか〈不可視機構〉を解いてその姿を見せる。
「アレが――」
「核機犬ね」
両肩にガトリング砲。口の中に大砲、爪には剣。尻尾はエネルギー体で出来ている。体の色は他の銀色の機犬と違い、砂色。バイザーのようなものを目に付けており、どこか異質な空気を醸し出している。
「アンタら、アレの操縦権を乗っ取る武器は持ってるの?」
「はい。僕のチェイスとマリスちゃんのチェイスが持っているハンドガンの弾に、毒薬は仕込んであります」
「OK。ならこっちは任せた」
「え?」
プールは核機犬に背を向け、遠くに見える隻腕のチェイスに視線を合わせる。
エイセン・グリット。そのチェイス、プレートがプール達に追いつこうとしていた。プールがその行く手を阻む。
「よう。楽しませてくれるんでしょうね?」
『噂のトリゴ使い。――災厄の右腕を奪いし重罪人。ここで、処刑する!』