4‐㉛ チーム戦
中央エリア。
ツミキの元に三つの盾翼が飛来する。
「“アルセルト”ッ!!」
ツミキはアズゥの左手で銀腕を掴み引っこ抜き、銀剣“アルセルト”へと変化させて正面三つの盾翼を一度に斬りかかる。銀剣より発せられた斬撃は綺麗に三つの盾翼を捉えた。だが、アルセルトの斬撃を浴びても盾翼は吹き飛ばされるだけで断ち切れなかった。
(アルセルトで切断できないなんて!?)
トートはモニターに表示されたアルセルトによって吹き飛ばされた三つの盾翼のエネルギー残量を見て驚く。
(一撃でゲージを八割方もっていかれた……! なんて切れ味だ、一度戻さないと次は耐えられない!!)
三つの盾翼をアテナの背(充電位置)に戻し、残りの三つで左右と上空からアズゥを攻める。
(もう一度迎撃――)
ガキンッ!! とアテナの槍より突き弾が放たれ、ツミキは銀剣で光の刃を受け止めた。しかし、突き弾に怯んだせいで盾翼を躱す余裕がなくなった。ツミキは銀剣を地面に落とし、
「“ヘルメス”ッ!!」
『――!?』
銀剣→ブレイブボードへ。
アズゥの足をボードの上に乗せ、加速して前に出る。
(ブレイブボード……しかし速さはジェット機並みだね)
トートはヘルメスの性能にうろたえず、槍を両手で構える。
『“突き蛇”』
突き蛇は薙ぎ払い技、斬撃の軌跡が光の蛇となって敵を追尾する。突き弾が速さ重視の技なら突き蛇はコントロール重視の技だ。精神体を伝わせ相手を追尾する。
(追尾系の技か……)
ツミキは×印の動きから技の性質を読み、勢いづいたヘルメスを地面に擦るように押し付け、地面のコンクリートと積もった砂を巻き上げた。
トートの視界をコンクリートの破片と砂で塞ぎ、相手の位置を認識できなくなるすることで追尾を辞めさせる考えである。
『(目くらまし……なら) ――〈不可視機構〉、起動』
砂で目潰し、それからツミキはヘルメスを銀腕に戻し、砂煙の中を突っ切ってアテナを目指すが、煙の先にアテナの姿は無かった。
「どこに……?」
アズゥの頭上に×印が現れる。
(危険信号!?)
ツミキは×印に重なるように銀腕を置く。すると銀腕に光の突きが炸裂し、四散した。
ツミキは頭上を見上げて目を細める。
「盾の上に立っているのか……!?」
空を飛ぶ三つの盾翼の上にアテナは乗り、その体の半分を透明化していた。
(しかもあれは透明機構……)
盾翼はアテナの重さに耐えきれず落下を始める。
ツミキは頭上より光の突きの雨をおみまいするアテナの攻撃を、銀腕とフットワークにより捌き、最後に拳を握って落ちて来たアテナの輝光槍の腹を思い切りぶん殴った。
衝撃で後退するアテナ。
トートは通信機をONにして、エイセンに繋げる。
「エイセン君。調子はどう?」
『敵の狙撃手にいいようにやられてます。機犬の方も、噂のトリゴ使い率いる雑魚共に押され気味です』
「エイセン君、君とその狙撃手の戦闘データを僕に送って」
トートは盾翼にツミキの相手をさせて、エイセンと会話を続ける。
『今送りました』
トートはエイセンとハリスの戦闘データを見て、指示を出す。
「相手の狙撃手は必ず君の背後から撃っている、だから君は東西の方を向いてジッとするんだ。そうすれば狙撃手は南北に行く。狙撃手が南北に来たら同じく南北側に居る僕と必然的に近づくはずだ、弾を撃たせて位置が割れれば僕が狙撃手を片付けよう」
『――しかし』
「君のプライドもわかってる、だけど今は緊急事態だ。君はこれから観測手となれ、僕が狙撃手を担おう」
『了解』
トートの指示通りに動くエイセン。
ハリスはエイセンの背後を取りに城壁の近くを通って南北へ向かう。そしてネットと連携し、エイセンの背後を狙う。
エイセンは目を瞑り、輝光剣をしまって輝光盾の起動装置である、ロッドを取り出した。
「くらえ、ピストル狙撃……」
(後ろから来るとわかっていれば……)
ハリスが引き金を引く。同時に放たれる光弾はしかし、エイセン操るプレートの輝光盾に阻まれた。光の壁が光弾を弾き飛ばす。
『アカン! 完全に防がれた!』
「なんだと?」
輝光盾。ロッドを握っていればロッドから半径25メートル以内にチェイスの半分の面積のシールドを張れる。だが燃費はパイロット面でもチェイス面でも酷く、一度の起動でかなりの力を持っていかれる。
しかし、それだけの価値はあった。
『そこか』
アテナの前に三つの盾翼が戻り、Δの形を作って浮かんだ。
『モード、〈三角光〉……』
「――!?」
ツミキはアテナの動きに違和感を感じて距離を取る。
(なんだ? Δ状に浮かんだ三つの盾の中央に、エネルギーの膜ができている……?)
アテナは三角光の真後ろで突き弾の構えを取る。
『“突き弾”――』
(なにか大技が来る! だけど、危険信号は反応していない。どういうことだ?)
『“裂狙撃”ッ!!』
「――!?」
輝光槍の突きが、三角光の中心を通過する。同時に光の刃は強大なエネルギーを帯び、凄まじいスピートで直進。突きはアズゥの正面まで伸びて鋭角に曲がり、南部に居る移動を始めたハリスのチェイス、そのコックピット側面から右肩部分までを一気に貫いた。
「あ゛ぁ!!?」
「あの方向は――」
ツミキは味方の識別信号を確認する。
「ハリスさん!?」
光の突きが一瞬で、距離にして600mは離れたハリスを全ての障害物を突き破って狙撃した。
(クソ!! 一体どこから――)
『アカンでハリス! そっちにエイセンが向かっとる!!』
右肩より下を失った“ハリス”に向かって“エイセン”が直進してくる。
ハリスはブルシエルの破損した右肩から漏れだす輝光を見て舌打ちする。
(打ちどころが悪かったか? 想像以上に漏れだしてるな……!)
ハリスは輝光銃の銃弾圧縮率を変更する。
(速射機能アップ、射程ダウン、威力ダウン、弾速ダウン、精密性アップ)
第三棟と第四棟の間の場所に居るハリス。
第四棟を突き破ってエイセンがハリスの前に現れた。ハリスは銃口をエイセンに向ける。
『見つけたぞ罪人ッ!』
ハリスはエイセンに向けた銃口を、なぜかエイセンから逸らしてから輝光銃の引き金を引いた。
エイセンは輝光盾を構えるが、放たれた多数の銃弾はエイセンの方へは向かわず、左右上下にばらけた。
(外した? いや、これは――)
「弾丸の包囲網をくらいやがれ!!!」
外れた全ての弾丸が軌道を変え、四方八方よりエイセンを襲う。
輝光弾のオプションの一つ、弾道変更。
輝光はパイロットの精神体によって動かすことができる。それは手から離れた輝光弾も同様。ハリスは精神体により、銃弾の軌道を強引に曲げた。精神体のテクニックが高い者しかできない上、弾速が遅くないと操れない曲者弾である。
だがその弾丸は、プレートの体に当たることは無かった。
プレートは輝光盾を持ったまま全速で直進、正面の弾を盾で破り、他の弾丸は躱してハリスに接近する。
「っち!」
『温い」
エイセンより距離を取るハリス。だが――
『逃がしはしない。“突き蛇”ッ!!!』
伸びるヘビのような斬撃が放たれ、“ブルシエル”胸部下に激突する。
「くそったれっ!!!」
『使い慣れぬチェイスで、この私に勝てるものか』
ハリスのチェイス“ブルシエル”は核を傷つけられ、起爆まで秒読みだ。
ハリスは舌打ちし、止むを得ず離脱を決意する。
「っち! 悪いがここまでだ! ――圧縮ッ!!」
『む?』
ハリスは“ブルシエル”を圧縮、自分は透明バッチを付けて身を隠す。
エイセンの視界から一瞬でチェイスとハリスは姿を消した。
『どこにいった!?』
(あのポールとかいうガキに感謝しなくちゃなぁ。おかげでここまで追い詰められても逃げられる)
ハリスは身を隠しながらエイセンより逃れることに成功する。
しかし、これにより囚人側は貴重な戦力を一つ失った。
(ハリスさんが離脱……やっぱり今の攻撃はハリスさんを狙って――)
ツミキは左目の光を落とし、アテナを睨みながら声色を低くして呟く。
「舐めてくれる……」
ツミキを盾翼に任せたまま放置し、トートはエイセンと通信を続けていた。
『――エイセン君。君はそのまま外へ出て、機犬の援護。トリゴを見つけたらまた位置情報を僕に送るんだ』
『特化型はどうしますか?』
『今は放置でいいよ。姿が見えないし、敵味方入り混じる戦場じゃ砲撃は使えないだろう。それよりも核機犬を死守だ! アレが落とされるとまずい』
『了解。――あと、先ほどよりアルタイル様の声が聞こえませんが……』
『多分、他の誰かと通信してる。こっちからかけても反応ないし。だけどこれはある意味チャンスだ、アルタイル様が見ていない間にできるだけの功績を上げて、失敗を帳消しにするよ!』
『了解、任務を続行します』
ハリスの足止めより逃れたエイセンがプール達の方へ向かう。戦局は今、悪い方向へ大きく傾いた。