4‐㉙ 回避の鬼と守護の神
ヘビヨラズ中央エリア。
ツミキとプール、並び立つ二人に対してアテナの背にある六つの盾翼が放たれた。
『悪いけど、交渉している暇は……無くなった!』
「元々!」
「そのつもりは無いっての!!」
六つの盾が不規則に飛来する。
ツミキは危険信号を頼りに、プールは動体視力で盾の動きを読み切り躱す。
空を切った盾が地面に突き刺さり、二機は盾を置き去りにしてアテナに迫る。
「一気に刈り取る……!」
意気込むプール、その背後に盾翼が迫る。
「(危険信号ッ!) ――プールさん! 裏です!」
「わかってんよ!」
プールは背後より迫って来た三つの盾翼を右手に持った斧で捌く。
(所詮は盾だ。攻撃力は無い……!)
『攻撃力は無い――って思ったかな?』
六つの盾翼はアテナの近くで宙に浮き、三・三で別れた。
『モード、“回転刃”……』
三つの盾はそれぞれ三つ葉のクローバーのように合わさり、高速回転を始めた。
風切り音がチェイス越しにも聞こえる。回転数は凄まじく、盾の姿が見えない程だ。
『“回転刃”となった盾翼は、誰にも止められない……』
「ひー、アレ貰ったらひとたまりもないわ」
「どうしますかね……」
「避けるしかないだろ、できるだけ時間稼いで右腕を待つ。銀腕が来たらアンタにここは預けるよ。このチェイス相手なら、アンドロマリウスの右腕はかなり有利に働く」
「了解です」
回転刃が接近する。
ツミキとプールは受けずに躱す。だがすぐに、身を屈んで避けたアズゥのコックピットに黄色の×印が浮かんだ。
『“突き弾”……!』
アテナは右手で槍の尻の方を握りしめ引き、顎を槍の柄に近づけ、左手に槍の先を乗せ親指を突き上げてブリッジを作る。輝く矛はアズゥを捉えていた。
「まさかこの距離で……」
アズゥとアテナの間の距離は50メートルは開いている。だがトートはお構いなしに右腕を前に出し、槍を突いた。――瞬間、
「――!?」
槍の矛先が一瞬だけ伸び、光線となって先ほどまでアズゥのコックピットがあった空間を撃ち抜いた。
ツミキは危険信号に頼って躱せたが、初見でこの軌道・速度を読める人間は居ないだろう。
『驚いた。今のを初見で掠りもせず躱すなんて……』
(び、ビックリした……それにしてもこの人、人骸の時と大分雰囲気が違うな)
プールはジッとアテナ……いや、そのパイロットであるトートを観察する。
(輝光刃の伸縮は精神体によって行う。あそこまで刃を伸ばし、一瞬で縮めるなんて強大な精神体パワーとテクニックが必要なはずだ。それにこの盾も精神体で動かし、ここまで器用に運用している……このパイロット、バケモンみたいな精神体持ってるな)
二つの回転刃と突き弾を交えた遠隔攻撃の連携。
ツミキとプールはじりじりと建物の側へと押し込まれていった。
『所詮はこの程度か……』
「プールさん! このままじゃ持ちませんよ!」
「っち! しゃあないな。覚悟決めるか……ツミキ! 私の体にまとわりつく×印、全部リアルタイムで教えろ!」
「えっ――」
トリゴが全速で発進する。
サブマシンガンでアテナを牽制、アテナは片方の回転刃を盾に使い、もう片方でトリゴを狙う。
「右の脇腹、1.2!」
ツミキの指示が飛ぶ。
プールは全速からの急停止で右側から来た回転刃を躱し、もう一度発進。スタングレネードを山なりに投げ、トートの意識が空に向いた刹那に盾となっている回転刃の横を通り過ぎた。
『ちっ!』
トートは突き弾でスタングレネードを撃墜。盾に使った回転刃を分解し、三つの盾翼として空からトリゴに向けて降らせるが、ツミキの心能の力を借りて落下地点を読み切ったプールは鮮やかな走行テクで躱し、アテナの槍の間合いまで詰めた。
『コイツ――』
「コックピット正面!」
「あいよ!」
コックピットに放たれた突きを避け、斧による一撃をアテナの左脚に叩きこむ。
「上手いねアンタ。私よりは下手だけど」
斧は量産型の性能ゆえ、掠り傷程度しか負わせることはできないが、衝撃によって姿勢を折らせることには成功した。
『うざったいね、君――!』
盾の雨が降り注ぐ。
プールは盾の雨に左腕を奪われるが、残りは躱して背を向けて逃走を始めた。
「悪いけどタイムアップだ」
『なに?』
プールは銀色の流星を確認し、戦場を移動する。
トートはぞわっと背後に威圧を感じ、振り向いた。するとすぐ目の前まで、銀色の右腕が迫って来ていた。
『全防御――!』
「貫け!!」
アンドロマリウスの右腕を手に入れたアズゥの右拳と左右から自動ドアの如くアテナを守りに来た盾翼が激突する。
ミシミシと鍔迫り合いをしながら、両者は睨み合う。
『それが、アンドロマリウスの――右腕か!!』
「アナタはここで沈んでもらう……! トート・ゲフェングニスッ!!」
「ビックリした」で済むのはお前ぐらいだ( ´艸`)




