4‐㉘ ヘビヨラズの守護神
地下牢から地上へ続く道で、テンオウら三人は一人の義竜兵に道を塞がれていた――が、義竜兵はテンオウらに銃を向けず、なぜか顔や頭部に付いた防具を全て脱ぎだした。
「君は……」
金色の頭髪、小さな体。童顔ながらも大人らしい表情を見せる少年。
金髪の少年は笑みを浮かべながら少年らしからぬ口調で話し出す。
「主がネギソン、そして帽子をかぶっているのがラッキー・ボーイじゃな」
「っふ。そういうお前さんはどちら様だ?」
少年は胸を張り、名を名乗る。
「我が名は“サンタ・クラ・スーデン”ッ! 歴史に名を残す名軍師であるッ!!」
――――――――――――
“ヘビヨラズ”コンビニにて。
青髪の少女プールは機動隊の死体を漁っていた。
「お! コイツらはモノホンのチェイス持ってるぞ!」
プールは嬉々として死体から合計六つの量産型チェイスと一つの発展型チェイスを取り上げ、ポールに投げる。
「ほら、これはアンタらにあげる」
「わっ、わっ!」
ポールは駒を受け止めきれず落とした。
ツミキは嬉しそうな顔でプールに駆け寄る。
「ど、どうしてここに!? まさか、僕らの作戦を誰かから聞いて――」
「違うわよ。私とサンタは単純にここに義竜兵として潜入して、アンタだけを連れて逃げようと思ってたの。だからアンタらの脱獄のタイミングと私達が助けに来るタイミングが重なったのは偶然よ偶然」
プールの言う通り、プールとツミキは偶然、運がよく鉢合わせただけだ。だが、もしそこに必然性を求めるのなら。
(ラックさんの心能“運否天賦”、あの能力がこの偶然を引き起こしたのか?)
「助けに来てみたらドンパチやってんだから……まったく」
プールはツミキの頭を撫でる。
「ジッとしてられんやつだね、アンタは」
「す、すみません……」
プールはツミキの頭を撫でた後、一発拳骨を入れる。
「いたっ!?」
「ほんっと厄介ごとばっか持ってきやがって! おかげでプランがめちゃくちゃだ!! ――早く行くぞ! ここに留まる意味はない」
「ですがまだチェイスの解析が……」
「アンタのは持ってきてる」
プールは青色のポーンの形をした起動ツールをツミキに投げる。
「ちゃんと銀腕とリンクした新品のアズゥを用意したわ。だけど、銀腕自体は結構遠くにあるから射出してから連結まで時間がかかる。アズゥを起動しても三分間は隻腕状態で我慢しなきゃダメだから」
「わ、わかりました!」
ツミキはプールと一緒に外へ足を向けた。
「ハリスさん、ここは任せます!」
「わかってる。早く行け!」
ツミキは外に出て、東方向に義竜軍のポーン級チェイス“アズゥ”を確認する。
ツミキとプールはコンビニより距離を取って、チェイスの起動ツールを握って叫ぶ。
「力を貸してくれ! “アズゥ”!!!」
「起きろ、“トリゴ”!!!」
展開される二機のチェイス。
青色の軽装隻腕量産型チェイス“アズゥ”と橙色の重装量産型チェイス“トリゴ”が姿を現した。
『む!? 何者だ……貴様らっ!!』
まず初めに隻腕のアズゥ操るツミキが前に出る。義竜兵はツミキを倒そうと斧を振るうが、
(危険信号――顔面0.2)
ツミキはそれを屈んで回避。そしてツミキの頭上を通るようにトリゴのサブマシンガンによる射撃が繰り出される。
銃撃を浴び、怯んだ義竜兵の足元をツミキが足払い、態勢を崩して倒れた義竜兵にプールが接近して手に持った斧でコックピットを潰した。
ツミキは義竜兵が持っていた斧を手に取る。
「これからどう動きますか?」
「私は核機犬を抑えたいとこだが、戦力が増えるまではここで防衛戦だな」
ツミキとプール、二人の元へサンタより通信が入る。
『二人共、合流したか?』
「サンタさん!」
『おー、ツミキよ。久しぶりじゃな』
「とりあえず超絶予定外だけどどうする?」
『うむ。今の状況を大雑把に伝えよう。まず看守長であるエイセン、無人機の機犬、核機犬は門の外に居る。看守長であるトートは恐らく中に居るじゃろう。外と中を繋げる門は閉じられ、現在は外へ出れない』
「はぁ!? 閉じ込められてんの!? なんとかしろアホサンタ!!」
『わかっとるわい! ――ネギソンが言うには看守室のどこかにネギソンより押収された砲撃特化のチェイスがあるらしい。それを使い、門に風穴を開ける。もしくはアンドロマリウスの右腕を待ち、螺旋砲で突破する』
「OK。二段構えね」
『ワシとテンオウとやらとネギソンは看守室へ向かう。ラッキー・ボーイには歩兵の指揮を任せた。プールは条件が揃うまで隻腕状態のツミキを援護じゃ』
「オーライ。やるとするか」
二人が居るのは建物に囲まれた巨大な中庭だ。機体の足元には多くの屋台がある。
その屋台の間を縫って、奴は現れた。
「どうやら君は、僕が自ら相手しなければならないらしい……」
灰色のジャージを上下に着た二十歳過ぎの女性。髪は黒くて長い。
「誰? 知り合い?」
「いえ。見たことないですね……」
どこか気だるい雰囲気を醸し出すその女性は右手にビショップの駒を持っていた。
「封じろ。“アテナ”」
『――!?』
起動式に応じて轟音が響く。
一つの大きな紫色の光と六つの小さな銀色の光を発してその機兵は構築される。
紫の光は紫色の高性能型チェイス“アテナ”となり、空に散った銀色の六つの光は上空を折り返してアテナの背中に集う。銀色の光はエネルギー体で構築された盾となり、左右三つずつの羽のようになって背中に装着された。
六つの銀の盾翼〈イージス〉と、一振りの輝光槍を持つ攻守一体のチェイス。
プールはその神々しい姿を知っていた。
「アテナ……!?」
「プールさん、あのチェイスを知ってるんですか?」
「若くして行方を眩ました〈イスト・クラウン〉っていうチェイス製造の天才技師が居てね。イストは行方不明になる直前に四つの傑作チェイスを残した。その内の一つがアレ、鉄壁を誇る高性能型〈アテナ〉。高性能型の中でも間違いなくトップ層に入るチェイスだ」
「性能は?」
「自由自在に動く六つの盾と、間合い自在の槍を使うと聞いている」
アテナのパイロットは拡声器をONにし、ツミキに語り掛ける。
『ツミキ君。前にも言った通り、僕は君とは戦いたくない。投降してくれるとありがたいな』
「“前”? アナタは……」
『いやいや酷いねツミキくーん~! ぼくのこと忘れちゃったの? ちょー、ショック』
その軽快でうざったい喋り方をツミキは知っている。
「まさか――アナタが、トート・ゲフェングニスの本体……!」
彼の人骸状態の声は本来の声ではなく、変声機で変えた声。だからツミキは気づくのに遅れた。彼の、いや、彼女の正体に。
『そうとも。僕こそがトート・ゲフェングニス、この監獄の王だ。――諦めなツミキ君。正門は抑えた。戦局はこちらに傾いている。君たちの勝率は……ゼロ――』
ガゴォンッ!!!!!!!
城壁の方から炸裂音が響いた。
大きな物体が豪快に破壊される音が監獄中に響き渡る。
「おいおい、なんだこの音?」
「壁の方ですね……」
トートは『まさか……!?』とエイセンに通信を繋ぐ。
「エイセン君!」
『やられましたね。城壁がぶち抜かれました。恐らく、使用チェイスは砲撃特化のルーク級……』
建物を挟んで反対側。そこに、右腕を丸ごと砲台にしているチェイスが居た。
そのパイロットは涙目で穴が開いた城壁を見ていた。
「ね、ネギソンさんっ!! なんですか!? このチェイス!!!」
『上出来だテンオウ君。そのチェイスこそ破壊力に全てをつぎ込んだ我が凰燭軍の傑作、特化型チェイス〈アマレロ〉だ』
城内中央エリア ツミキ&プールVSトート。
中央棟 サンタ。
城内西部外壁付近 ハリス&マリス&ポール。
城内東部外壁付近 テンオウ&ネギソン。
城外正門付近 エイセン。
監獄外 機犬&核機犬。
――それぞれの戦いが始まる。
〈既存キャラ精神体ステータス! ~ツミキの仲間たち編~〉
スタミナ:パワー:テクニック
プール 11:4:8 計23
サンタ 85:69:77 計231




