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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第四幕 “ゲフェングニス”の罠

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4‐㉔ 化かし合い

(恐ろしいな。ポール君の技術力があれば勝率は私達に傾くぞ)


 ネギソンはポールに必要な物のリストを出し、部屋を出た。

 そしてそのままその足で隣の部屋、ツミキの部屋に入る。



「戻ったぞ」



 ネギソンは部屋に戻り、その光景に首を傾げた。


 部屋の中央ではツミキが輝光石を浮かしており、その隣では珍しく驚いた様子のハリスと正面にはニタリ顔のラックが居る。


(これは……精神体のスタミナを計測しているのか?)


 ネギソンはストップウォッチを持っているラックの側へ歩み寄る。


「ラッキー・ボーイ。記録はどうだ?」


「……こりゃ、逸材だ」


「なに?」


 ネギソンはストップウォッチのカウントを見て、「なんだと?」と目を疑った。


「馬鹿な……」


――102秒。


 なお、まだツミキは輝光石を浮かせ続けている。


(人間の精神体では100秒が限界のはず……なのにこの少年は、100秒浮かせてなお、まだ浮かせ続けている……)


(ありえるのか!? こんなの義竜軍でも見たことねぇぞ!!)


(精神スタミナ30の人間がチェイスの九割を精神体で動かした場合、十分程度でスタミナが尽き、気絶するだろう。だが聞くところによると、ツミキ・クライムはアーレイ・カプラで一時間以上チェイスを動かし続けていたと言う。もし、その全てで精神体に九割方依存してたとするなら――)


 118、119――128秒。


「ぐっ!?」


 そこでツミキは輝光石を床に落とした。


「集中してて途中から数えられませんでしたが、結構いったんじゃないですか? 60秒は浮かしたと思うんですけど――ってあれ? どうしました皆さん?」


 ツミキ・クライム――精神体ステータス。パワー42:テクニック48:スタミナ……128。合計値218。


第一棟(ここ)の子供たちは、逸材揃いだな……」


 



――――――――― 





 二日後。

 メンバーの精神体計測を終え、度重なる打ち合わせを越えてこの日は来た。


 第二回作戦会議。


 それは第一棟の食堂にて行われた。


 総勢156名。

 ツミキ、ネギソン、ラック、ハリス。いわゆるこの味方チームにおける幹部は152名の前に立っていた。


「す、すごい増えましたね……」


「っけ! 認めたくねぇが、メイバーの人望あってこそだろうなぁ」


 メイバー・ペーターズ。今は亡き、この街の兄貴分だ。


(メイバーさん……仇は、必ず)


 ハリスはメイバーのおかげと言っているが、ハリスの人望の高さもこの人数に直結している。メイバーを支持するライト層と、ハリスを支持するヘビー層が今ここに初めてつながったのだ。


 全員の前にネギソンが立ち、語り始める。


「まずは初めに自己紹介させていただこう。私はネギソン、このチームの指揮官だ。この会合に参加したからには私の指示には絶対に従ってもらう!」


 ネギソンは普段とは違い、引き締まった表情だ。


「作戦の大筋は義竜兵よりチェイスを奪い、それを使ってトートとエイセン、機犬たちを掻い潜り脱出することにある!」


 ハリスの支持者、荒くれ者達が物申す。


『そりゃいいけどよ! 義竜兵がこの監獄に集まるのは精々朝七時~十時ぐれぇだろ? そいつらからチェイスを奪うんなら、その時間内に外へ出なくちゃならねぇじゃねぇか。なにか作戦はあるのか?』


「考え方を変えよう。我々が脱出するのではなく、奴らを引き留める。例えば撤退時間である朝の十時にヘビヨラズのどこかの施設が爆破されるとしよう。そうなれば奴らは爆破を無視することはできず、その後も施設内に留まって調査をする。そこを狙うのだ」


『武器もねぇ俺達がどうやって義竜兵を倒すんだ? 数で押すのか?』


「その通り。パイプや器材でひたすら相手を殴って気絶させる。残念だが、特別な武器はこれと言ってない。――だが、ここに来る義竜兵は物資の運搬メインゆえ軽装だ。数で押せば問題ないだろう」


 今度はメイバーの仲間だった女性が手を挙げた。


『ネギソンさん。確か機犬(バーゲスト)にはパイロットが乗れるコックピットが付いていたはずです。チェイスを奪った後、そのチェイスを利用して機犬(バーゲスト)を鹵獲するっていうのはどうでしょうか?』


「確かにポール君の情報だと機犬(バーゲスト)には一応、パイロットが乗りこめるコックピットが付いている。だがまぁ、アレだ。機犬(バーゲスト)は性能が尖りすぎている。乗っても振り回されるだけだ。鹵獲しても大した戦力にはならない」


 ネギソンはその後も質問に答えながら作戦を伝えていき、細かい部分も打ち合わせを済まして会議開始から三十分が過ぎようとしたところで決行日を伝える。


「作戦決行は一か月後、九月一日だ。これはラッキー・ボーイの心能を利用して決めさせてもらった」


 ラックの発芽型心能“運否天賦(うんぷてんぷ)”。


 “運否天賦”の能力は選択肢に降りかかる幸運度・不運度を測ること。例えば目の前に二つ道があり、右が幸運が降りかかる道、左が不運が降りかかる道だとして、通常は目に見えぬ運など測れはずもなし。だがラックはわかるのだ。ラックの頭の中で右の道・左の道と選択肢を提示すれば右+67、左-28といった風に()()()()が現れる。+が幸運で、-が不運。0はどちらにも傾いていない状態を表す。最大はどちらも100。


 この能力を利用すればどの日が反乱に向いた吉日かを測ることができるのだ。


「皆も知っての通りラッキー・ボーイの心能“運否天賦”は運勢を読む。ラッキー・ボーイによれば、一番幸運が傾く日は九月一日。数値にして+98だ」


「だが勘違いするな。俺の心能は運勢を測るだけで勝率を測るわけじゃない。運が百こっちに傾いていようが負けることは大いにある。多少の実力差は覆せるだろうが、圧倒的な戦力・戦術の差があれば特に意味はない。運に甘えて人事を尽くさない奴に天命は現れない、あくまで気休め程度に留めておくんだな」


 ラックはこう言っているが“運否天賦”の力はかなり戦局に影響する。


 もちろん、戦術や戦力は大切だ。だがそれと同等レベルに運も必要だ。それを読み切るこの心能は大きな目で見れば強すぎると言うほかない。


 このラックの心能と、ネギソンの策略。すでに運と戦術においてツミキ達は相当有利に立っているだろう。


「脱出ルートもラッキー・ボーイの心能と相談して決めた。あと一か月、ゆっくりと着実に準備を進めていけば我々の勝利は確実なものとなる。諸君、一か月だ! 我々が自由になるまで、たった一か月死に物狂いで働け!!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』




――――――――――――――― 




「っと、いうのが奴らの作戦です」


「うん。ご苦労だったね。ケイネス君……」


 ツミキ達が会合を開いた日の夜七時。会合に参加していた第三棟の長ケイネスは監獄長トートの部屋を訪れていた。


「ここから逃げるにはどうしても人が要る。だけど人を増やせば増やすほどこういうリスクがあるんだよ、ツミキ君……」


 トートはツミキと対立したあの日に、潜入者(モグラ)を何人か用意した。


 甘い条件と引き換えに、彼らはツミキ達脱獄勢に加わり情報をトートに横流しにする。これによりトートはネギソンの作戦やツミキ達の目標や戦力を全て把握していた。


「ありがとうケイネス君、部屋に戻っていいよ」


「はい! ――あの、トート監獄長……」


「わかってる。全て終わった後で、君は僕の特権でちゃんと外に出すからさ」


「ありがとうございます!」


 ケイネスは頭を下げ、部屋を出る。


 トートは窓から月を見上げ、思考を凝らす。


(タイミングさえわかっていれば被害を最小限に、利益は最大限にできる。メイバー君のせいで増えた反乱分子をこの際に一気に一掃し、リウム合金に変えて王都に送り届ける。反乱で昂った精神体が良い味を出すだろう……そのためにも、奴らは極限まで放置し、一気に始末する。――でもネギソンとラッキー・ボーイは早めに処理した方がいいね、彼らはちょっと危険だ。明日にでも地下牢に閉じ込めよう……)


 トートは人骸を止め、眠りにつく。

 決戦の時はすぐ目の前まで迫っているとも知らずに……

〈既存キャラ精神体ステータス! ~ヘビヨラズ編その2~〉


 スタミナ:パワー:テクニック




 ツミキ 128:42:48 計218

 テンオウ 28:89:41 計158

 マリス 41:42:69 計152

 ポール 26:38:81 計145

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