4‐㉓ ステータスオープン
121号室での打ち合わせが済んだ後、ネギソンは隣の122号室に行き、PCを動かしているポールの元を訪れていた。
「じゃあネギソンさんが〈不可視機構〉を開発したんですか! すごいですね!」
「私は元々“輝光兵器”について研究していてな、その応用だ」
〈不可視機構〉は少量の輝光粉末を使用し、周囲の光度を操作して姿を消す光学迷彩兵器である。開発者はネギソンであり、ツミキやプールやサンタが世話になった“移動透明要塞リュウセイ二号”もネギソンが考案した要塞である。
「それで、それが今なんの関係がある?」
「これを見てください」
ポールは金色の缶バッチをネギソンに見せる。
「これは?」
「〈不可視機構〉を積んだバッチです。これをこうして胸に付けて……」
ポールはシャツの左胸部分にバッチを付け、
「側面のボタンを押すと」
パッとポールの姿が消えた。
ネギソンは信じられないという顔でポールが先ほどまで座っていた椅子を見つめる。
「まさか、ありえん……」
ポールはバッチのスイッチをオフにして再び椅子の上に現れた。
「銃や剣を作ってもさすがに軍の方たちには有利を取れないと思ったので、別のベクトルで優位を掴もうと考えました。これで透明化して、後ろから殴りかかれば戦力差をある程度縮められるでしょう」
「中に輝光粉末を詰めているのか……一体どうやって」
「外装の部分は監獄内に居た動物を使用したリウム合金もどきで構築してます。捕まえた動物をスコップに乗せてジャブダル散布区域に出し、リウム合金もどきに変換させました」
「そうか。リウム合金は精神体以外をほとんど通さない、それならば光を逃さず調整できるというわけか」
「すでに五十個ほど量産しました。一個で効力は一分です」
「――素晴らしいな」
「あと無線機も造りました。昔、電気屋さんを監獄内で開いていた時に売れ残ったラジオ機器を分解して、再構築することで何とか形に出来ました。ですが、こちらは八個が限界でした」
更にポールは部屋の隅から蛍光灯を持ってくる。その蛍光灯の先には槍で言う刃部分を模した針金が付いている。
「電池で起動する一体型の蛍光灯に電気を伝播させる特別製の針金を付けたスタンスピアです。スイッチをオンにして針金部分で相手に触れると服の上からでも電気を通し気絶させることが可能です」
「君は……」
先ほどの打ち合わせで汗一つ掻かず、何一つ動揺しなかったネギソンが顔を引きつらせていた。目の前に居る存在、規格外の技術力を持つポール・ジュナイに対し驚きを隠せずにいた。
元々研究者であったネギソンだからこそわかる、彼の異常性。
(輝光兵器は完全な設備があっても開発は困難。ましてや望む物が手に入らないこの場所で、義竜兵すら作れないこんな代物を作るとは。さらに欲しかった武器と無線機まで……しかも近接武器の中では初心者でも戦果が挙げやすい槍型の武器。無線機に至っては平凡だが、すでに八個も作っている。――これは確信だ。この少年の才能は、私どころか地上のどの科学者も超越している)
ネギソンはゴホン、と咳払いし、屈託のない笑顔でポールに提案する。
「基本給、月給52万。時間外手当、通勤手当、資格認定給他あり。昇給は年に二回、賞与は年に四回。完全週休二日制。祝日、夏季休暇、年末年始休暇、特別休暇、長期休暇、育児・介護休暇、他年間休日120日。別に有給休暇35日。福利厚生充実。勤務地は指定できないが、勤務時間は好きにしていい、最低5時間出てくれればな。とても楽しくスリルのある職場“凰燭軍”。どうだ? ここから出たらウチに来ないか?」
「お断りします。先約があるので」
「そうか。……とても残念だ」
―――――――――――
同時刻。
121号室でツミキ、ハリス、ラックは明日行う精神体測定の打ち合わせをしていた。
「精神体のステータスの測定ってどうやるんですか?」
「方法は色々あるが、ここで出来るのは一番原始的なやり方だな。――ハリ坊、輝光石の欠片は持っているか?」
「ほらよ」
ハリスは小さな直径一センチほどの金色の石っころをラックに投げ、ラックは右手でキャッチしツミキに見えるよう手を開いた。
「このちいせぇのがチェイスのエネルギー源、“輝光石”だ」
「輝光石……」
「コイツは人の精神体の動きに呼応して動く。例えば、こうして手の平に乗せて、“浮く”ようにイメージすると……」
ラックの手の平の上の輝光石の欠片が一センチほど宙に浮いた。
「すごい! 超能力みたいですね……」
「この精神体に呼応する動きを利用して“パワー”、“テクニック”、“スタミナ”の三種を計測する。そうだな、まずお前さんの精神体を計測して見せようか」
「はい! よろしくお願いします!」
ラックは一度部屋に戻り、メジャーとストップウォッチと十枚の紙を持ってきた。
「待たせたな。じゃあまず、パワーの測定からだ」
ラックは床に輝光石を置き、石に合わせて床に印をつける。そして輝光石に人差し指の先で軽く触れる。
「まずは無心でこうして触る。そこから一気に“飛べ”と念じる」
ラックが念じると、輝光石が勢いよく空に飛んだ。
ハリスが輝光石の落下地点に印をつける(バウンドはカウントしない)。ラックは初めに石の位置に付けた印からメジャーの帯を伸ばし、スタート地点から落下地点までの距離を測定する。
「61㎝。この数値がそのまま俺のパワーということになる。つまり俺の精神体のパワーは61だ」
「61……」
「言っておくがパワー61ってテメェが思ってるより凄いもんだからな。30で兵士平均、40超えればまぁまぁ優秀。50超えれば文句なしの優秀さだ」
「まぁやってみることだな」
ツミキはラックのやった通りに準備し、輝光石に指を付ける。
そして頭の中で“飛べ!”と強く念じた。すると――
「お。結構いったな」
輝光石は跳ね、ラックの時の落下地点よりニ十センチ近く手前で落ちた。
ツミキがメジャーを持って距離を計測する。
「42㎝です」
「パワー42。訓練を受けてない奴にしては上出来だ」
「マジか……」
ハリスのパワーは30。ハリスは訓練済みでこれなので、内心ちょっとショックを受けていた。
「ちなみにパワーが高ければ精神体でチェイスや兵器を動かす時、瞬発力が目に見えて上がる。輝光兵器を使う時は圧縮率や出力を高められる。これが無いと操れない兵器なんかも結構あるぜ。だがまぁ、42あれば大体は動かせるだろう」
ラックはメジャーをしまい、次に横3センチの太さと縦10センチの長さがある一本線と人の右手・左手が描かれた紙を取り出した。
「さて、じゃあ次はテクニックだ」
一本線の両端にはそれぞれ“START”と“GOAL”と書かれている。
「まず、スタートの位置に輝光石を置く。そしてこの人の手の絵に自分の両手を合わせる。そして輝光石を伝播して精神体に線の上を歩かせるイメージをする」
ラックは両手を紙の上に置き、念じる。すると輝光石が一本線をなぞるように動き出し、ゴールまでたどり着いた。
「線から石がはみ出ればアウトだ。一枚につき制限時間は一分あるから焦らずやることだな。この一本線はレベル1。クリアできれば精神体の値は10となる。図のレベルは10まであり、クリアしたレベル×10がそのままテクニック値となる」
紙は十枚あり、それぞれ違う図が描かれている。
二枚目は線も細くなり、図も一本線ではなくZ字になっている。こうしてどんどん図の難易度を上げ、失敗するまで続ける。
「レベル1の半分の地点で終わったら、ちょうど半分のレベル5ってことになる」
「わかりました。――やってみます」
ツミキはレベル1の紙に手を乗せ、石を動かし始める。
(アレ? 案外楽――)
油断した刹那、石の動きが小さく乱れた。
(――ッ!? 僕と輝光石の距離が少し離れるだけで、伝わりが悪くなる!!)
ツミキは何とか初めの勢いのままゴールまで石を運んだ。
「レベル1、クリアだ」
そのままレベルを上げ、2、3、4と進み、レベル5の楕円形の図の後半部分でツミキは石を脱線させた。
「ぷはっ!」
「レベル5の後半部分、ってことはテクニック値は48だな」
「へぇ、中々バランスがいいじゃねぇか。テクニックは大事だぜ、どれだけ精神体を使って繊細にチェイスを動かせるかがこれで決まる」
「そんじゃ、このまま最後……スタミナへ行こうか」
「はい!」
「スタミナの計測は簡単だ。さっき俺がやったように手の平に石を乗せ、石を浮かせる。何秒石を浮かせられたかでスタミナ値は決まる」
「まぁこの感じだと、精々40秒ってとこだろうなァ」
ツミキは輝光石を手の平の上に乗せ、石を浮かせる。同時にラックはストップウォッチのSTARTスイッチを押した。
「10秒経過」
ツミキは余裕の表情で石を浮かし続ける。
「50秒経過……」
ハリスの眉がピクリと動く。
「80秒――経過」
「――なんだと?」
ツミキは石を浮かし続ける。
〈既存キャラ精神体ステータス! ~ヘビヨラズ編その1~〉
スタミナ:パワー:テクニック
ラック 52:61:78 計191
ハリス 45:30:65 計140
ネギソン 70:68:80 計218