表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第四幕 “ゲフェングニス”の罠
102/166

4‐㉒ 脱獄ぅ?

「一人の善人です。迷うまでもない」


「……。」


 ツミキ・クライムはあっさりと即答した。

 この7777番目の質問の真意を知るハリスはツミキの即答に冷静ながらも驚いていた。


(7777番目。この質問は悪人か、善人か、どちらを選ぶか……そんなことはどうでもいい)


 そう、この質問はどちらを取ろうがどうでもいいのだ。

 それこそ珍妙な第三解答でも構わない。問題はそこではない。


(善人を取っても悪人が百人死ぬ。悪人を取っても善人が一人死ぬ。だから、どちらを選ぶにしろ解答者は誰かを殺すことになる。真剣に考えるなら、()()してはダメなんだ。どちらを救うにしろ、どちらかを殺すことは躊躇しなくちゃならねぇ、それが聖人のあるべき姿。ゆえに、人としての正解は『迷う』か『答えない』か『両方を助ける』かだ)


 頭の回転が速い人間でも一呼吸おいて解答する。

 ほぼ条件反射的に答えを出す人間に、ハリスは初めて会った。


(しかも、より多くを殺す善人の方を選ぶとはな。コイツは今、百の人間を何の躊躇も無く殺した)


 ツミキの瞳の中に得体の知れなさを感じるハリス。その脳裏には人間ダーツでの異常な回避能力が焼き付いていた。


 ネギソンはツミキの解答を聞き、笑い出す。


「ぷ。――はっはっはっは!! いいね。悪に振り切ってイカれた奴は多く見るが、善に振り切ってイカれてる奴は珍しい。話を戻そうか。――いいよ。私が作戦を立てよう」


「あ、ありがとうございます!」


「っけ! 俺に同じ質問した時は『つまらない解答だ』とか言ってたくせに、やけにあっさりじゃねぇか」


「ハリスは一分考えてから『選べない』と言っていたね。優しい奴だ」


「ハリスさんは優しい人です」


「誰が優しいだゴラァ!」


 さて。とネギソンは煙草を咥え、マッチ棒で煙草に火を点けて話を始める。


「では早速打ち合わせをしよう。現状の戦力、情報、相手方の動き、我々の行動予定。全てだ」


「今のところ協力が確約されているのは20名です。兵器や補助機器はポール次第、情報は後でまとめた資料を渡します。トート監獄長およびエイセン看守長は動きなし、行動予定は今の所明後日会合を開くこと以外は決まってないです」


「っけ! そんなんで本当に脱獄できるのかよ?」


 ハリスに対しネギソンは眉をひそめる。


「ちょっと待て。君、なにか勘違いをしていないか?」


「あぁ?」


「脱獄ぅ? なぜ私が脱獄なんてちゃちなことに手を貸さねばならんのだ?」


「なぜって、テメェがさっき俺達の仲間になるっつったんだろーが!」


「仲間になるとは言った。だが脱獄するとは言っていない。私はトートから逃げる気はない。アイツうざい、ぶっ殺す。――敵対戦力の殲滅、つまりはトート一派の殲滅。それこそ私の望むところ」


 ツミキとハリスが反射的に姿勢を崩した。


「殲滅だぁ!? ただでさえ戦力がギリギリだってのに、難易度上げてどうする!」


「難易度はむしろ下がっているさ。まず脱獄を目的とするなら確実に連携が乱れるぞ。一足早く安全地帯へたどり着いた者がさっさと撤退することもある。逃走者同士で出し抜き合いが始まることもありえる。どうしても逃走を最終目標にすると攻撃の意識が後ろに下がり、後手に回る」


 ネギソンは白煙を吐き出し、煙草を右手人差し指と中指に挟んだまま下げた。


「だが殲滅を目的とするなら目に見える逃亡者、臆病者は少なくなる。敵が前に現れた時、“戦う”と“逃走”の二択を出すことなく、前者に統一できる。一見、逃げるというのは簡単な手段に思えるが破壊に比べれば高くつくものだ。逃亡は選択肢が多すぎる。だが殲滅ならば全員の細かい選択肢を絞ることが可能であり、戦力が外に分散することなく私も指示が出しやすい」


「しかし、それでは脱獄しない囚人たちに迷惑が……」


「このまま飼い殺しにされることを良しとする囚人がどれだけいるかな? 敵を殲滅できれば観光バスで外へ出ることができるのだ。つまり、脱獄メンバーだけでなく、相手が増援を呼ぶ前にできるだけの人間を外に出すことが出来る。結果、多くの人間を救うことができる」


「――――!?」


「私としては君たちが脱獄(逃走)しようとしていることが不思議でしょうがない。一体、何の得があるのかな?」


 ツミキは考える。


 確かに守りに入るより攻めに徹する方が動きやすい。どっちみちトートとエイセンと機犬たちは抑えなければいけないのだ。最終的に倒す相手の数は脱獄でも殲滅でも大して変わらない。


 ならばネギソンがやりやすいのなら、ネギソンの言う通り(やりやすい方)にした方がいいだろう。


「――そうですね。ネギソンさんの言う通りにしましょう。敵を殲滅する方向で考えましょう」


「いいだろう、これで私も思う存分働けそうだ。作戦は私が明後日の会合の時までにまとめよう。この後、技術者のポール・ジュナイという少年に会わせてくれ。我々の兵器面での戦力を知っておきたい」


「わかりました。ポールは右隣の部屋です」


「あと今の時点の協力者を集めて精神体を計測しろ。ラッキー・ボーイ、ハリス、ツミキ君の順番で手に入ったチェイスは分配するが、それより下は精神体の優れた者からチェイスを配る。それが効率的だ」


「わかった。明日、俺とハリスが仕切って計測を行おう」


「――以上で私からの指示は終わりだ。ひとまず、解散しよう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ