4‐⑳ ネギソン
夜七時。
一度目の会合を終えた121号室にはツミキとシン、テンオウ、マリス、ポールの子供五人に加えラックとハリスが残っていた。
「おいガキ。ある程度の頭数を揃えたのはいいが、作戦はどうするんだ? ラックさんが居ようと、納得できる策が用意できねぇんなら、やっぱり俺は降りるぜ」
「……それは」
ツミキが話す前にテンオウが「ごめんなさい!」と頭を下げた。
「まだなにも思いついてないんだ。ツミキの作戦の大筋は聞いてたけど、品物を搬入する義竜兵を強襲するにはまず、時間外に外に出れないと駄目なんだけど……」
ポールがテンオウの話に言葉を付け加える。
「難しいよね。僕らの行動はメンバーカードで管理されてるし、門限の時に外で隠れるっていうこともできない」
「だったらメンバーカードだけ部屋の中に置いてくる、っていうのはダメなの?」
「馬鹿かテメェは。メンバーカードには所有者の生体電磁波が登録してあって、メンバーカードと所有者が一定以上離れると警告音が鳴る仕組みになってんだよ」
「だからどうしても外に出るとバレちゃう。時間外に外に居たら真っ先にトートさんかエイセンさんか、小型機犬が来て拘束されるし……」
「それに、メイバーの野郎が言ってた安全地帯って奴も宛てにはならねぇぞ。あんなもん、トートの指一つで簡単に書き換えられる」
「あ! それなんだけど……」
ポールはポケットから小さく丸い鉄の塊を取り出した。
「これは核機犬の口に放り込んでくれれば、残りの機犬の操作権は僕の方で操れるようになる。安全地帯を全域に広げられるよ」
「なんだそりゃ?」
「簡単に言うと機犬に対する毒薬です。さっき暇だったので造りました」
「造りました、ってお前……本当にそれで機犬を何とかできる保証があるのかよ?」
「はい。だって機犬のプログラムを組んだのは僕ですから、抑える術は心得てます」
はぁ!? とハリスとマリスは叫んだ。
「そういえばアンタ、よくトート監獄長に技術協力してたわね……」
「うん。その一環で任せられてね。最後までは関われなかったけど、メイバーさんの話からどのプログラムを使ったかはわかった。それさえわかれば対策は容易だよ」
ハリスはポールの話を聞き、右隣に居るツミキに視線を落とす。
「――おい。このガキ何者だ?」
「ぼ、僕もわかりません……」
「でも核機犬にその変な薬飲ませるにしても、どっちみちあの機犬の波を突破しなくちゃいけないんでしょ?」
「俺とラックさんがチェイスを手に入れられれば問題ねぇよ。だが、そうなるとトートとエイセンがフリーになるな。このクソガキがどっちか抑えるのは良いとして、残った一方はどうする? シン。テメェは手を貸さねぇのか?」
「おことわりでーす」
「じゃあお手上げだな。作戦参謀は無し、パイロットも不足。おしまいだ」
「っふ。その二つの問題は俺が解決しておいたぜ。――ネギソンに声を掛けた」
ラッキー・ボーイの口から放たれた“ネギソン”という名を聞いて、ツミキ以外の全員が震撼した。
「オイオイオイオイ。そりゃ、ヘビヨラズのオールスターが揃うなぁ!」
ツミキはシンに問う。
「ネギソンって?」
「えーっとね、この監獄には地下があって、ネギソンって言う人は唯一そこに収監されている囚人なんだよ。元・凰燭軍幹部にして元・義竜軍技術部リーダー。指揮と開発においては他の追随を許さず、チェイスの操縦技術も相当なモノだって話だよ」
「そんな人が……」
「それにネギソンさんはこの監獄において刑期ランキング二位(450年)を誇る重罪人だよ。ちなみにラックさんが三位(232年)、ハリスさんが四位(101年)。そしてツミキ君が堂々五位(99年)!! おめでとー」
「嬉しくないよ……」
刑期は単純な罪の重さと言うより、義竜軍にどれだけ反発したかで付けられる面が大きい。レジスタンス組が上位を占めるのは当然だ。
「そんじゃ、ネギソンのババアが作戦参謀か。ってことは、顔合わせは明日だな」
「どうしてです?」
「ネギソンさんは火曜と木曜の二日しか牢屋の外に出れないんだよ。トートさんもそれだけ警戒してるってわけだねー」
「この自由奔放な監獄で、唯一自由を制限された囚人か。ちょっと怖そうだな……」
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ヘビヨラズ地下牢。
ある意味よくある鉄格子で区画されたその場所に、彼女は捕縛されていた。他の囚人と違いしっかりと手錠が嵌められている。
彼女の名はネギソン。ネギソンはラックより渡された紙きれを見て、呟く。
「会うのが楽しみだな。ツミキ・クライム……選ばれし少年か」




