練習試合と、
更新めっちゃおくれてすんませんっっっっした!
「……難しい」
俺はルールをネットで調べながら、悶々としていた。
律儀に覚える必要もなく、部活内で教えられるが、周りより少し優秀でいたい俺は、この貴重な休日を使ってまで勉強をしていた。
……くそ、なんで俺はこんなことを。
わからなかった。なぜこうも勉強をしているのか。こんなにこだわる理由なんてどこにもないはずだ。
先輩に負けず嫌いと言われたことを思い出す。
……ああ、そんなこと、とっくのとうに理解している。理解しているからこそ、嫌っているんだ。
いくら努力しても縮まらない周りとの差。それを嫌った。いや、逃げていたのだ。
中学生までは自分も努力していれば、そんなことを考えていた。
現実は非情だ。いや、自分の努力が努力と呼べるレベルに到達していないだけか?
そんなことはどうでもよかった。逃げであることに変わりはない。
それでも、新しい環境で、新しいジャンルで。これならばきっと、と。縋りたいだけなのかもしれない。ラグビーは中学生からみんながやってるようなスポーツじゃない。自分に才能があれば、そんなことをふと思う。
才能の問題ではないのかもしれない。けれど、認めたくはなかった。休日もボールを弄りながら過ごしたあの日々を。自分は努力していると信じていたあの日々を、否定したくはなかった。
「……くそ」
ペンをとる。ノックオン、ノットロールアウェイ、昨日学んだことを復習する。そして新しいことを。
結局その日は勉強に費やしてしまった。もちろん、学校のものも、しっかりと。
学校の日。もちろん部活がある。俺は授業を終えると、すぐに部活へ向かった。
「あ、おい!」
涼介の声も届かない。
「あいつ、部活は文化部以外ありえないとか言ってたくせに……」
そんな声が聞こえた。
「今週は試合だ、各自気合入れろよ!」
山本先輩の声が響く。
「一年は今回は見学だが、少しでも学べるように!」
そういえば、ラグビーの試合は15人のはず。一年抜きじゃ足りないんじゃ……。ああ、そうだ、人数は15だけじゃない。7や10人でもできる。
「10人制でやるんだよ」
隣から響く声。この前に経験者ということが分かった堀田雄馬だ。
「ふうん、人数にもいっぱいあるんだな」
気づいていないふりをして言う。わざわざここで思い出したと言っても災難の元、考えたのも事実だしな。表情を読みとったこいつの洞察力はなかなかのものだ。
なんて、過ごしているうちに。
試合当日の日は、すぐにやってきた。
「……うっげぇ」
声が漏れる。周りの一年も同様だ。
「……ふむ」
一人だけ達観したような男。堀田だ。
こんなにも厳しかったのかと改めて実感する。そういえば、動画は見なかったな——なんてことも思う。
激しくぶつかり合うタックル、持ち上げて競り合うラインアウト、みてるだけで暑くなるスクラム。どれをとっても俺の理解の範疇は越えていた。
——これを、これからするのか……。
入って何度目かわからないため息が漏れる。
ちなみに10人制。必然一人説明役が俺たちに加わる。
「ははは、慣れる慣れる」
笑い事ではない。
「笑い事じゃないんじゃが!!」
ほら。そう言ったのは長村だった。
実際、俺たちが今まで見てきたスポーツと全く違うのだ。下調べもせず入ったコイツが悪い。(人のことは言えない)
試合は俺たちの勝利。俺たちってなかなか強いのかな? そんなことを思っていると、
「この相手に10-26かぁ、調子悪いな」
残っている先輩が言う。参加していない人間のセリフではないが、相手が弱いようだ。
汗にまみれた先輩が戻ってくる。
「うわ、ちょ、汗まみれ!先輩!」
そう、汗でとんでもないことになっていた。
「ラグビーの試合なんてこんなもんだぞ、慣れだ慣れ」
慣れ。その言葉は今日二回目だ。楽観的に解釈するならば、経験がものをいうスポーツとも言えるのかもしれないな。まぁ、汗云々観戦云々、参考になるはずもないが。
そうして一日は終わる。早いものだと感じる。もう、五月に入った。
大会は九月。残り四か月。それまでに、ある程度の実力をつけなければいけない。今の自分ではただの足手まといだ。
足手まとい。小学校の頃を思い出す。中学では人数が足りていたから特にそんなことはなかったが、小学校はそんなこともなく。
「ディフェンダーなんだからちっとはとめろよ!」
「そんなところにいても意味ないぞ!」
そんな言葉を投げかけられた。
今のラグビー部は、15人ギリギリなわけではない。俺がダメでも、他の人が、マイナス思考に加速がかかる。
いや、俺は変わるんだ。せっかくラグビー部に入ったのだから。
などと、入学当初の俺では考えないようなことを思う。
原因はわからない。試合で触発されたから? 先輩に悪い感情を抱いていないから?
詭弁だ。理由はわかっている。
どこまでいっても、俺は負けず嫌いなんだ。サッカーでだって負けたくなかった。勝負の場から、自分なんかじゃと逃げた。嫌だった。けれど、拘って敗北感をさらに味わうことを畏れたのだ。
けれど。
けれど、環境が切り替わった今なら。新しい自分を。
そうやって自分を鼓舞していく。
俺は変わる。そう決めた。今。たった今。
バカにしてもかまわない。遅すぎると罵られるかもしれない。けれど、俺は今まで生きてきて、一番生を味わえる。そんな気がした。気がするだけか? いや、そうするんだ。このスポーツで、俺は負けず嫌いな自分を、証明して見せる!
そう、強い決心を胸に眠る。
忘れないように。今思ったことは、現実にして見せるんだ。きっと。三年間の目標が、決まった。
……忘れないように、机の端にでもメモしておこう。