始まりの始まり
地球 市立春原高校朝の廊下
HRのベルが鳴るまであと5秒…3秒…1秒…。
「間に合ったぁぁぁぁぁ!!!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
2-4のドアを勢いよく開けて登場した響野峻のおデコに強烈な白チョークが突き刺さる。
「いってぇぇ!!まだセーフだろハル姉ぇ」
「声がウルセェんだよ声が、あと西先生と呼べ」
峻のいとこであり担任の西遥は苦々しく言い放つ。
「オメェはほんと声がデカイしか取り柄がねぇなぁ」
「それが教師の言うことかよ…教育委員会に訴えるぞ」
「家族からの忌憚なき意見だろぉ?シュンちゃん?」
「こんな時だけ…」
峻はまだ痛むデコをさすりながら席に着くと隣の女子がクスクスと可愛らしく笑っていた。
「あ、ひでぇなぁ」
「ごめんね?でも可笑しくって…」
片目を前髪で隠した少女、高耶紫乃は悪戯っぽく笑った。
峻とは対照的に地声が小さく相手が聞き取れない事もあるが、その玻璃の様な美しい声は聞くものを魅了した。
顔は長い前髪で隠れているがそれでもわかる整った顔立ちと小さな背にはアンバランスな巨乳で隠れファンが多い。
そんな美少女と峻は幼馴染だった。
ファーリース イシュカル郊外の森
「ん…?」
峻が目を開くと、そこは森の中だった。
「あれ…俺…」
記憶を辿っていく。
自分は学校にいたはずだ。
あの日は朝からハル姉にどやされて…
おでこをさするが流石にもう痛くはない。
「思い出せねぇ…」
そこから先が思い出せない。
放課後までいた事はなんとなく覚えている。
格好も制服のブレザーのままだ。
ポケットを探ると携帯と財布があったので早速携帯を確認する。
しかし、スマートフォンの画面は真っ暗なままでうんともすんとも言わない。
「マジかよ…」
割と最近買い換えたばかりの携帯を悲しげにポケットへしまった所でふと後ろに気配を感じた。
ゆっくりと振り返る。
すると、“ソレ”はそこにいた。
イノシシ、に似ているが体毛はカラスのように黒く牙は巨大に発達している。
凶悪につり上がった目からは殺気を感じさせ口からはだらしなく唾液が垂れている。
平和な日本で暮らしている峻にもすぐに理解できた。
「殺される…」
逃げなければ…
でも…
身体が動かない…
化け物が低いうなり声をあげながら一歩、峻へと近づく。
(あ…終わった…)
峻が死を覚悟したその時
ヒュン!
スコーン
化け物の右目に矢が生えた。
「ヴゥルァァァァァ!!!」
「今です!逃げて!」
声のする方を見ると美しい金髪の美少女が弓矢を構えていた。
「あ…」
ゆっくりと後ずさる峻。
化け物は怒りを露わにして少女の方へ向き直る。
「ヴァァァァァァァ!!」
巨体を震わせて化け物が少女へと突進する。
「くっ!あぁ!!」
咄嗟にかわすが避けきれずに弾き飛ばされる。
運良く木には叩きつけられずに地面を滑る。
化け物がゆっくりと少女へと歩み寄る。
「うぅ…」
少女は苦痛に顔を歪め動けずにいるようだ。
自分のせいで人が死ぬ。
そう思った時、峻は化け物に睨みつけられた時以上の恐怖に襲われた。
「く…くそ…」
今自分が立ち向かった所で出来ることなんてない。
「や…めろ…」
そんな事は分かっている。
「やめろ…」
それでも。
「ヤメロォォォォォォォ!!!」
叫ばずにはいられなかった。
ゴォ
その叫びは、暴風となり
その想いは、力となり
黒き怪物へと襲いかかる。
峻の前方から紅い衝撃波が走り、化け物へと向かっていった。
その衝撃は木々をなぎ倒し、落ち葉を舞いあげ化け物へとぶつかる。
「ブゲェェェェェ!!」
鳴き声をあげ吹き飛ばされた化け物は巨木に身体を叩きつけられた。
どうやら内臓が潰れたようで口や目、鼻から血を流し絶命している。
「へ?」
何が起こったのかわからないのは峻だ。
今の衝撃波は自分が起こしたのか?
「っと…そうだ!」
すぐに頭を切り替え少女の元へと駆け寄る。
派手に吹き飛ばされたが、いや、自ら後方に飛んで衝撃を逃していたのかもしれない、思ったよりキズは浅いようだ。
少女は上半身を起こして峻へと問いかけた。
「あなた…セイトなの?」
いつかの幕間
ファーリース 某日某所 峻が流れてきて幾ばくかの時が過ぎた頃
「なぁエリィ」
「何ですか?シュン?」
「俺たちが初めて出会った時の化け物いただろ?」
「ああ、バグボアですか」
「そんな名前なんだ。エリィあれの死体持って帰ってたけどさ…」
「はい」
「美味いの?あれ」
「ええ、とっても。肉はまろやかでジューシー、牙を引っこ抜いてそこに付いてきた肉は精力増強に良いと高値で取引されますし、それに牙、毛皮、骨も装飾品に使えます。全く捨てるとこなしですね。」
「へぇ」
「あ、気になります?ここにあの時のボアで作った精力増強剤がありますが試してみますか?」
「何でそんなもん持ってんだよ!しょんぼりしてそうなおじさんにでもあげろ!」
「あら、なんだか最近おモテになるようなので必要かと…」
「ほっとけ!」