発電試合charging game
旭日 昇はマリを彼女への案内を済ませた後はそのまま別れ、下層BF10に降りていた。
BF10は非常に高さがあり、600m×600m×100mの巨大空間である。下降中のエレベータ内部のディスプレイは何もないスタジアムのような大きな空間を2つ映し出していた。
ただ、通常のスタジアムにある観客席はなく、その代わりにフロア上層部から見下ろせるようになっており、電光のスコアボードは「発電状況0.000PWh」とゲームの点数ではないことを示していた。
「昇!戻っていたのか。例のお嬢さんは?」
エレベータが開き第一スタジアムへ向かおうとすると、待っていたかのように横から少年が親しく話しかけてくる。この少年の一般的な高校生日本男児といった雰囲気はこの特殊な環境でありがたい物だ。
「別れてきた。初日から長々と拘束するモノじゃないかなって、太郎。他のメンバーは?」
「ゲスト組は研究室じゃねぇの?こっちは発電ノルマ達成したから6階で遊んでいくってさ」
やれやれと言う風に手を開きプラプラと振らす。そんな彼を脇目に昇はEDの待機状態を解いた。腰、腕部、脚部、背面に小さくまとまっていたモノが展開し彼を包み込み、現れるのは鈍色の長腕の人型。
ⅠⅩⅩ-M「ベヒーモス」。黒いバイザーで無機質感が増したその顔を太郎へ向ける。
「そっか…ノルマ分をやりに来たのだけど、太郎はずっとここに?」
見慣れている彼は動ぜずに答えた。
「長くなりそうならこのまま帰ったけどな」
「やろうぜ…一人でセコセコ発電するよりは良いだろ?」
彼はバッグからタブレットを取り出すとそれは、引き千切られる風に分解し彼を覆う。彼の衣服と融合して作り出されたEDは、オーバーコートに類似していた。
「レギュはCモード。ノルマの2倍1000TWh分先取、シールド維持10TWh以上で良いよな?」
昇は特殊機装禁止で起伏の無い塩試合で焼け石に水だと思ったが、それでもやはり一人でノルマを達成させるには刺激が無くて骨が折れるものである。
「助かるよ」
お互いに規定位置へ一つ跳びで着く。サッカーゴール間よりも離れているが、EDのスピードにとっては隣接しているのと大差ない。AIに指示を飛ばすと薄暗かったスタジアムが眩いほどの明かりがつき、鈍色の黒さが際立つ一方で相対する機体の白さが背景と同化する。電光板には二人の名前と機体名、総蓄電量とシールド量が出力された。
両者シールド出力が10TWhを満たされた。カウントダウンが開始される。前世代的な無機質の機械音声が余計に緊張をあおる。
「ベヒーモス。戦況解析」
「対象M-103ミラーコート。すでに対象の電磁波が揺らぎを見せています。じきに電磁波全般による識別は不可能になるでしょう。疎密波による識別と速やかなシールドの強化を推奨します」
「そうしようか」
カウントダウンのまでの間はシールドのさらなる強化と機装の展開は認められている。
すでに相手は肉眼では消失、電光板が示す彼のシールドの出力は10を超え20とさらに強度を増していく。対するこちらは開始までにようやく11になるかどうかだ。
「まだ立ち上がりが遅いようで」
「ニューロンクロックをメガに…他は最低限、不要なものは切って欲しい」
「承知しました。ご武運を」
カウントが0になったその刹那、昇は強烈な打撃音と共に大きく吹き飛ばされる。
そのまま彼は壁へ叩き付けられ、置き去りにしたソニックブームの追撃が非情にも昇へ突き刺さった。
ソニックブームの残響と彼の苦痛な叫び声がスタジアム中に反響する。