GFEDへ
眼下に広がるのは面白みのない道路の灰色と核熱によって変性したガラスの土色のみであり、山・川・森・伝統建築物といった日本らしさは全て吹き飛んでしまった。
放射線技師や放射能研究者にとっては価値のある環境なのだろうが、誰もが目をそむけたくなるほどの何もない風景なのである。
「…やっぱり、先を急ごう。慣れないことは言うものじゃない」
「殺風景で痛ましいことには同意しますわ。余計な遊びはいりません、もたもたするぐらいなら案内入りませんから」
富士山だった珍妙な丘を背景に、二機は加速し拠点であるGFEDに速やかに向かう。
見晴らしがよいために小さく見えていた、構造物群。漸近するごとにその実体を表していく。
衛生送電用の巨大なポラリトンレーザー砲「ヤマト」、分解した水素と酸素を貯蔵するためのガスホルダーがネックレスのように円形に設置されている。
「すごいだろう?今日みたいな雲一つもない、乾いた日は衛生へむけて送電しているんだ。…おっと居住区や研究所はこの下にあるから、高度と速度を落としてついて来て」
レーザー砲の足下へ降りると、分厚い金属製に人間で比較するのもバカバカしいほど大きな大扉が二人を出迎えた。
「セキュリティと汚染の都合で出入りが手間なんだよね。EDは脱ぐときになったら言うから、まだ脱がないで」
彼は話しながら扉を窓のように簡単に押し開けて入る。
まず初めに出向かえたのは薬剤の噴霧と強烈な風だ。
扉に違わない大きさのこの部屋はED機体に付着した汚染塵を排除するクリーンルームで、一瞬の内に二人の機体に付いた微視的な物を洗い流していく。
次の部屋も同様の扉で押し開けると、人間用のクリーンルーム。先ほどよりは弱めの風が流れていた。
「ここからは人間の除染を行う。EDを解除して3分間のクリーンニングと、このカプセルを1つ飲んで欲しい」
お互いにEDを待機状態する。
昇は覆っていた機械を変形させ自身の背面に隠し、マリは再び粒子状に分解されてトランクへと集合・形成された。
昇は懐から何かを探るようにすると、マリへタブレットを手渡し、受け取るように促した。
彼女はそれを不審そうに見つめる。
「これはどんなものかしら?」
「ナノマシンだね、遺伝子修復と放射性物質の排出を促す機能。…飲まなくてもいいけど、その時はEDの装着者保護をフルに3時間そのままにしてくださいよ?キミに万一のことがあれば博士に向ける顔が無い…」
「誰も飲まないとは言っていないわ――ちゃんと飲んだから返すわね」
彼は差し出されたタブレットを受け取り、ニカっと笑って懐へ戻す。
「信じてくれてありがとう、本当に飲んでくれるとは思ってなかった」
「まさか、あなたはパパが信用した相手だからパパに顔を立てただけよ」
そう言い放つとカツカツと急ぎ足で次の扉へ向かう、彼は慌てて追いつこうとするも彼女はなかなかの速さだった。
「この扉の先は何かしら?」
「……これは、エレベーター。…やっと居住区に着くんだよ」
「そう、ご苦労様ね」