博士の頼み
隔週の土曜日もしくは日曜日更新です。
初心者・非転/生モノですのでほっそりと見て頂けると幸いです。
この作品に登場する人物・団体・理論はすべてフィクションです。
現実で似たような単語と一切関わりありません。
除染が済ませ、ボコボコになった平野を慣らした関東の北端、栃木の宇都宮に当たる場所。
辺り一面に田畑が広がる中、遠くからでも分かるほどの大きく広がった都市が見える。
小さい人型の機体が一機、それら構造物から離れるように空を甲高い風切り音と共に飛んでいた。
事の発端は21世紀を代表する科学者であるミツル・トールマン博士からの打診であった。
「旭日君。18日に娘を向かいに行ってもらえないか?」
廉価品のソファーに座る中年の男性は対面に座す服装も背筋もピシッとした少年に話しかけた。
「もちろんです。博士の頼み事ならどんなことでも」
「……娘さんの方からこっちに来るのですか?お話で伺っていたよりも仲がいいのですね」
中年の博士はカップに入った黒い香ばしい飲み物をすすって一息ついて口を開く。
「私が呼んだのだ。……断られる可能性もあったが」
間髪入れずに博士に相づちをする。
「こうして来てくれるのですから、大丈夫ですって」
「そうだと良いのだがね……我ながら情けないが、旭日君のほうで色々とマリを気にかけて欲しい。」
自分の軽く胸を張って、手を添えて答える。
「ええ、もちろんです。それと、私たちは返しきれないほどの恩を博士から頂いております。そんな卑下しないでください……」
博士は背もたれに寄りかかり、深くゆっくりと息を吐いた。
「長らく話して私も疲れたようだ。長いこと拘束して悪かったね」
「いえ、博士とお話しでき大変嬉しかったです。…失礼しました、ミツル・トールマン博士。」
少年はソファーから立ち上がり、深々と礼をする。ドアの前でもう一度礼をすると静かにドアを閉め退出していった。