美しい虚像
※注意
この物語はホラー系の小説です。その類いのジャンルが苦手な方は今すぐブラウザバックを推奨しますよ。
「花言葉」というものを知っているだろうか。
それは花の象徴、印象を意味する。例えば、薔薇の花言葉は愛情、桜の花言葉は精神の美である。
何故このようなものを生み出したのか。理由は様々だ。単に誰かがふと薔薇を見て、‘‘愛を感じる’’と思ったのかもしれない。もしかしたら誰かが桜を渡した人に‘‘君の精神は美しい’’と言ったのかもしれない。
はたまた、贈る人への『メッセージ』かもしれない。
人に花を贈られて嬉しい。―――幻想だ。
花言葉は全ての花につけられた。美しいものがある。勇気づけられるものがある。―――人をけなすものがある。
それを持つ花を贈られたとしたら。―――否、贈られたのだ。しかし、けなすなんてかわいい言葉じゃない。
その花を贈られたら終わり。
その花を贈られたら物語はおしまい。
その花を贈られたら―――
* * *
全身真っ赤で人の手紙を食べちゃうもの。これなーんだ?
正解はポスト。
なんだろう、これ。
月曜日の学校のある日、その下校中に自宅の前で思ったことだ。その疑問の理由。それは、全身真っ赤で人の手紙を食べちゃうポストが、珍しく手紙じゃないのを食べていたということ。
口から黄緑色の棒、のようなものが出ていた。しかも何本も。疑問の答えを知るため、物語の主人公は片手で一気に複数の黄緑色の棒のようなものを抜き出す。
「……おお!」
白くて綺麗な花だった。そのあまりの美しさに歓喜が言葉となって漏れる。高校2年生の今に至るまでの青春のせの字もなかったこの人生。そんな彼にとって、花が贈られた。それも、こんなに美しい花が。
彼はもう一度ポストの中身を確認する。しかし、ポストを覗く彼の顔が歪んだ。なぜなら、肝心の手紙がなかったからだ。予想と大きくはずれたからだ。ここでピンク色の手紙、つまりはラブレター的なものが入っていたらと思ったいた。しかし、ピンク色の夢はすぐさまガラスのようにパリンと音をたてて壊れた。
はぁー、と大きくため息をつき、自宅へ戻る。……一応、もらったものだ。花も持ち帰った。
* * *
こうして、改めて見てみると本当に美しい花である。
結局、ポストに入っていた複数の白い花は育てることにした。しかし、最初は落胆を覚えさせられた花は眺めれば眺めるほど、美しいという感情に美化されていく。彼はすっかりこの白い花の虜になった。
「……あれ?」
目の錯覚だろうか。一瞬、この白い花が赤くなった気がした。―――否、赤だ。複数の白い花は真ん中からどんどん赤くなっている。美しいという感情はすっかりなくなり、不快感がわき上がってきた。だが、眺めることを止められない。まるで金縛りにあったように体が固まって動けないのだ。
花が赤くなっていくにつれて、不快感に焦りが加わり、そこに恐怖、苛立ちと次々と嫌な感情を覚える。そして、白い花が真っ赤になった瞬間―――体の力が抜けた。
それは一瞬、金縛りから解放された感覚で彼は安堵する。しかし、それはほんの一瞬のことだ。
目線がどんどん低くなっていき、顔が地面についた。
―――今度は力が入らない。
まるで、体が動くのを拒むように、焦りが強くなる。しかし、それはどんな不快な感情も吹き飛ばすものを感じ、消えてなくなった。
視界に写るものは血だ。それを見た彼は考えなくとも分かった。
―――自分の血だ。
確実に迫る何かを感じた時、何かが上から視界に入ってきた。それは自分の血の上に落ち、どちゃ、という音をたてた。
―――花だった。
それを見た途端に何故か落ち着いた。それは自分が今日、ポストからとって家に飾った白い花だった。
得体の知れない安堵感に不思議と不信感は無かった。その安堵に、包まれ、彼は静かに目を閉じる。その目は一生開かないだろう。永遠の眠りに彼はつく。
その花を贈られたら終わり。
その花を贈られたら物語はおしまい。
その花を贈られたら―――死んでしまう。
その花の名をスノードロップという。花言葉―――貴方の死を望みます。
物語はお楽しみ頂けたでしょうか。この物語を機会に、花言葉などに興味を持ったら僕は嬉しいです。今後も、暇潰しに短編小説を主に投稿出来たらなと思います。
それと、スノードロップという花が「貴方の死を望みます」という花言葉を持ってるのは事実です。くれぐれも誰かにプレゼントしないように!