1━3.千夜の実力
今回は、千夜の友人の霧羽視点です
「くそっ!」
「どうかしたのかぁ?」
「うるせぇ!」
ニヤニヤ笑う目の前のPKに切りかかるが、避けられた。くそっ! よりによってこんな時にアイツが近くに来てるとか……
「霧羽!」
「ち!」
「ロンターさんきゅー」
大鎌で斬られそうになったところを、俺と同期のロンターが、割って入って防いでくれた。そしてどうやら、連中はいったん距離をとったようだ。
状況は最悪だ。
PKクラン《血濡れの狩人》が七人
対して、こっちは五人。
上位剣士の霧羽、聖騎士のロンター、魔導師のキリカ、僧侶の蒼百合、弓士のレイカだ。
今回は、キリカの双子で新しいパーティーメンバーのレイカのレベル上げの手伝いをしていたのだが、初心者狙いのPKに襲われてしまった。しかも、よりによって……
「ケケケケ。そろそろ諦めて、デスペナになっちまえよ」
相手は、《血濡れの狩人》の三番目に強いプレイヤー、レベル200超えの大鎌使い、ギャクサツ王までいるPKパーティーだ。それに、戦った感じ全員平均レベルが100近いだろう。
パーティーの中でも一番レベルの高い俺で、まだ60だ。
つまり、相手は本気を出さずに遊んでいる。
くそっ! 救援を呼ぶ暇もない。
「はぁ、なんか面倒くさくなってきたな。“黒轟”が来たら不味いから、そろそろ決めるかぁ~」
ギャクサツ王が笑いながら、大鎌を俺達に向ける。
最悪だ。最悪も最悪。PKによるデスペナなんて、俺は大丈夫だし、ロンターも気にする性格ではない、蒼百合も神経図太いし、キリカは怒るだけだし………
でも、レイカは………
ちらりと、今もキリカの後ろで震えているレイカを見る。
トラウマにさせたくはない。
しかし、この人数差では逃がすことも出来ない。
《プレイヤー千夜との、フレンドトークを繋ぎました》
先ほども流れたアナウンスが聞こえる。またアイツか! とりあえず、目の前のPK達から目を離さないようにする。
『霧羽、見えた。お前の前方500メートルぐらいだ』
「は!?」
思わず声を出して注目されてしまったが、そんなことよりも千夜のことだ。
確かに、PK達の後方に人影が見える。
「よ、良かった……」
レイカが安堵の声をもらす。おそらく、【鷹の目】のスキルで千夜を見つけ、助けに来てくれたのだろうと思ったのだろう。それはあっているが………
「ははははは! こいつは笑えるぜ! レベル15の雑魚が助けに来てくれたぞ~」
ギャクサツ王が、俺達に笑いながらそういう。レベル15って、このゲーム内時間3ヶ月以上の間、アイツ何してたんだよ!
安堵の表情を浮かべていたレイカは、自分より10以上もレベルが下のプレイヤーだったことを知り、恐怖のうえに絶望の表情を浮かべている。
『千夜逃げろ!』
『無理』
そう言うと、千夜はフレンドトークを切った。アイツ!
「おい、適当に潰せ」
「じゃ、俺がいきますよ、『クリムゾン・フレアブラスト』」
魔導師の男が、千夜に向けて上級の火魔法を放った。
千夜では耐えられない。何とも言えない感情を感じつつ、諦めそうになったその時……
「「「「「「「なっ!?」」」」」」」
巨大な火球を抜けて、千夜が駆けてきた。
「ちっ! 魔法を無効化するスキルか称号だろ、暫く使えないハズだが、念のために物理で仕留めろ!」
「任せろ!」
PK達に迫る千夜。その千夜に、大剣使いの男が持っていた大剣を降り下ろした。
「千夜!」
「死ねぇぇぇぇ!」
俺の叫びもむなしく、降り下ろされた大剣は千夜の頭に直撃し━━━
「なっ!?」
「次は、もっといい素材使うんだな」
━━━跡形もなく壊れた。
俺達や、PK達が状況を理解出来ないのを気にもとめずに、大剣使いの男に鋭いアッパーカットを食らわせる千夜。
能力値の差など関係無いとばかりに、吹き飛ばされた大剣使いが、光の粒子になって消えた。
訳が分からない。
俺達も、PK達も、千夜が起こしたことを信じられなかった。
黒鋼で出来た大剣を破壊し、一撃で50以上レベル差のあるプレイヤーを倒した。
「てめぇ! 何もんだぁ!」
「ん? ただのプレイヤーだけど?」
「んな訳あるか! 50以上レベル差のある大剣使いを、格闘家が一撃で倒せるわけないだろ!」
「何言って………あぁ、今はそうなってるんだったか」
千夜が意味深なことを言った直後、姿がかき消え
「がっ!?」
千夜と相対していたギャクサツ王の後ろにいた魔導師の男が、千夜の蹴りを食らって光の粒子になって消えた。
嘘だろおい
俺の認識できない………いや、レベル200超えのギャクサツ王の認識できない速度だと?
「なっ!? てめぇ、今のはなんだ!」
「何って……なんでもいいだろ。というか、今は戦闘中なんだから、油断するなよ。【螺旋】、『氣弾』!」
千夜の左拳から放たれた『氣弾』が、また一人のPKを仕留めた。
「くそ! お前らかかれ!」
「「「おう!」」」
ギャクサツ王が、自分以外の残りの三人のPKを千夜にけしかける。
三人のPKが、同時に斧を、槍を、メイスを、千夜に降り下ろした。
「【剛】、『氣刃』!」
千夜が左腕を振るうと、三人のPKの身体が二つに別れ、次の瞬間には光の粒子となった。
本当に、アイツは何してたんだよ………
「くそが! まぁいい、てめぇじゃ俺には勝てない」
「………実はな、随分前から居場所を特定してたんだが……」
ギャクサツ王から大鎌を突き付けられた千夜は、じみにびっくりする事実を言ってきた。
それならば、さっさと来れば良かったんじゃ?
「強いプレイヤーが一人いたから、準備してたんだよ」
「準備だぁ?」
強いプレイヤーとは、ギャクサツ王のことだろう。しかし、準備ってなんだ?
「俺が右手を使わないの気づいてたか?」
「はぁ? それがどうだってん━━」
「『竜の爪撃』」
千夜が右手を振りながらそう呟いた。そして……
「「「「「え?」」」」」
次の瞬間、ギャクサツ王は三つに斬り裂かれ、光の粒子になって消えたのだった。