2━11.襲撃者その3━━the lightning
■宿場町■
王都の襲撃者のうちの一人であり、王都中の建物の破壊と、異邦人の撃破を任された人物がいた。
「ったく、なんでこんな仕事引き受けちまったんだか」
屋根の上で頭を掻きながら、その人物は周囲を見回す。
煙をあげている家、倒壊した家、半分に割れた家
彼が破壊した建物が、王都のそこかしこにあった。
「参ったな、これじゃあ王都に来れないよ。屋台のドーナツ好きだったのに…………やっぱ、止めようかな?」
割りと本気で後悔しつつも、依頼はきっちりこなす彼は、次の攻撃地点を見定めるために、真上に飛び上がった。
一瞬で地上一キロを軽く超える位置に到達した彼は、中央噴水広場や、貴族街に向かおうとするプレイヤーを見つけた。
(連中が早く倒されて仕事が増えるのもあれだし、少し協力してやるか)
彼は、心の中で呟き空を蹴った。その瞬間。白い閃光が、王都の上空から中央噴水広場にほど近い場所に突き刺さった。
中央噴水広場に向かっていてプレイヤー達は、突然降ってきた白い閃光に驚いて立ちすくむ。
土煙が晴れたそこには、砕かれた石畳の上に立つ彼の姿があった。
草臥れた白い服に、黒いズボン、足には銀色に光る脚甲を装備している。ボサボサのくすんだ緑色の髪と、眠そうに垂れた黒い瞳は、まるで寝起きのように見える。エルフの特徴である尖った耳は、少し下を向いていた。
「エルフってことは、魔法系だ!」
「決めつけは良くないぞ?」
「は? 誰━━━」
彼のことを魔法系だと認識したプレイヤーが、隣から聞こえた声に聞き返そうとするも、顎を蹴り砕かれ、そのまま神殿送りになった。
「なっ!?」
「嘘!?」
その光景に周りのプレイヤーが驚いたが、彼らは判断を誤った。
彼を認識したら、直ぐにでもその場から離れるべきだったのだ。といっても、もう既に遅い。
彼らの判断は遅すぎた。彼にとって彼らは遅すぎた。
「はい。終了」
500にも満たないレベルのプレイヤーを倒すなど、彼にとっては5秒もあれば十分であり、中央噴水広場に向かっていたプレイヤーを掃討した彼は、そのまま貴族街に向かおうとしていたプレイヤーも片付けた。
目的の終わった彼は、まだ行っていなかった宿場町のほうに歩いて向かう。
「さてさて、後どのくらいかな?」
時間を気にしつつも、宿場町に入った彼は、その混乱具合を見て、もうこれ俺いらなくない? と思い、後は観戦でもするかと、屋根の上に飛び上がろうとし━━━
「おっと、危ないな」
間一髪で飛んで来た矢を避けた。続いて、地面に着地した彼に向かって、無数の炎の球が飛んで来たが、彼は軽く避けていく。
「当たらない!」
「いえ、牽制で十分です!」
火の珠が飛んで来たほうには、魔法使いの少女━━キリカ━━に、盾を構えた騎士風の少年━━ロンター━━、エルフの僧侶であろう少女━━蒼百合━━がいた。
火の球を回避しながら、前方にいる三人のほうに飛び出そうとした彼に向けて、後方から矢が飛んで来た。
「おっと、またか」
振り向いた彼の視界に、矢を放った姿勢で固まる少女━━レイカ━━がいた。
(魔法使いの子と似てるな、双子かな? 好みのタイプだけど………)
悪いね。小さく呟いた彼は、地面を蹴って弓矢の少女のほうに飛ぶ。
すると、弓矢の少女の前に、剣を構えた少年━━霧羽━━が現れた。
(もう一人いたのか、しかし、無駄だよ)
彼は、気にせず蹴りで倒そうとして━━━
「んなっ!?」
━━━剣の少年のマントに危機感を感じ、剣の少年の目の前で真上に飛び、続いて弓矢の少女に向けて空を蹴って突撃する。
屋根を蹴り砕き、落ちないうちにその場から離れた彼は、不思議そうに首を傾げる。
(手応えが無━━━っと!)
屋根を蹴り砕いたことにより出た煙の向こうから、風をきって矢が飛んで来たので、回避し、そのまま煙に向こうに突撃するが、そこに既に弓矢の少女の姿は無かった。
剣の少年と弓矢の少女が、先ほどの三人の所にいつの間にか移動しているのを見た彼は、屋根から飛び降りて、その五人━━霧羽達━━と相対した。
「やれやれ、転移系のスキルか? 例の三人以外にも厄介なのがいるんだな」
五人のほうを見ながら、どこにあったのかアイテムポーチからトンファーを取りだし装備した。
「悪いが、俺を止めたければ例の三人の誰かを連れて来てくれ。といっても、“黒轟”は中央噴水広場に行くだろうし、“氷麗の騎士”は貴族街だろう」
先ほど上空から見た感じから、彼はそう判断した。
「“八無刀”はいないみたいだしなっ!」
彼は、五人目掛けて地面を蹴って突撃した。
「呼んだか?」
五人の手前数十メートルの場所で、金属同士がぶつかり合う音が響いた。
「うっわ。来てたのか」
「来ちゃ悪いみたいだな」
「そりゃまぁ、来ないほうが」
彼が瞬間移動したかというほどの速度で、バックステップで距離をとった。
彼の目の前の人物は、刀を構えた黒髪の男で、暗緑色のコートを着ており、達筆な字で、漢字の“八”と黒く書かれた白い面を被っていた。
「帝国は何を考えてる?」
「さぁね」
「あくまで言うきはないと?」
「いや、マジで知らないだけ」
両者の間に沈黙が暫し流れる。
「ま、俺の仕事は、アンタら三人の中の一人の足止めだからな。悪いが、アンタには俺と戦ってもらう」
「そんなこと言わなくても戦うさ」
睨み合う二人。
「騎士王国ファルノート所属、クラン無所属、“八無刀”華天」
「機械帝国ガルガンシア所属、クラン無所属、“白閃雷”ウル」
両者は互いに名乗りをあげ、一拍おいた後に激突した。
王国ソロトッププレイヤーと、帝国ソロトッププレイヤー
王都の戦いにおいて、最も激しい戦いが、今、幕を開けた。
次回で襲撃者は終わりです




