1━18.戦いの終わり
久しぶりの、千夜視点です
さて、【ヴォーパル・カイザー】なのだが………
正直、唯一無二の能力があるの? と、言いたくなるほど肉弾戦しかしてこない。いやまぁ、“氣”の上位に位置するであろう“覇氣”を相殺されているので、それが唯一無二の能力なのかな? と、思ったのだが………
普通に【氣術】のレベルが高ければ、相殺できるんじゃないか? と考えて、他にも能力があるのかな? となるのだが………
「ギュイ!」
「【柳】、『川流』」
単一の場合の、受け流し技
受けるのは不可能と判断し、先ほどから受け流すのにとどめている。
『竜帝ノ覇衣』によって、防御力は上昇してはいるのだが、それでもダメージを食らう。といっても、攻撃がかすってだ。なので、直撃すればかなり不味いことになるかもしれない。
「ギュイ! (『断頭斬波』)」
「【破壊撃】、【剛】、『氣刃』!」
こちらに向けて飛んできた……というか、完全に首を斬り落とすコースで飛んできた、真空刃のような刃を、破壊属性を強く纏わせた『氣刃』で、破壊する。
避けてもよかったのだが、弾丸のようにこちらに飛んできたので、今度は【ヴォーパル・カイザー】の上を通るように、跳び前転をして回避する。
木の倒れる音を聞いたので、直ぐに振り返る。
「ギュイィィィィィ」
「【螺旋】、『氣弾』!」
「ギュイ!」
『氣弾』を弾かれるのは想定済み、直ぐ様飛び蹴りを【ヴォーパル・カイザー】にかます。
直撃したので、そのまま追撃を仕掛ける。
「【剛】、しっ!」
氣の威力を単純に上げたければ、【剛】を使えばいい。単純に攻撃力が上がるので、魔法系スキルを持っていない近接攻撃職は、殆ど全員が持っているスキルだろう。
【螺旋】のほうは、槍とかの突くタイプの武器の近接職の人にとっては、必須といえるスキルで、“氣”を螺旋状に回転させられるので、威力を格段に上げられるのだ。あ、後は弓矢や、銃なんかも威力が上がるらしい。
とにもかくにも、“氣”の特性を【剛】に変えて、倒れていた【ヴォーパル・カイザー】に、踵落としを食らわせる。
「ギュイ!」
「がっ!?」
腕でガードされて、身体を回転させて蹴りを叩き込まれた。
痛い。
痛覚100%にしたせいで、かなり痛いんだよな。
まぁ、アルハガルナの息吹を相殺した時に比べれば、そうでもない痛さだ。あの時は、死んだほうがマシだなと思ったからな。
「ギュイィィィィィ!!!(【死面礎化】)」
「……本気……ってかんじだな」
【ヴォーパル・カイザー】が、ドス赤黒いオーラに包まれた。全身が見えなくなり、オーラにより輪郭が分かるぐらいだ。
そして、赤い瞳が輝くように、俺を睨みつけている。
「そっちが本気なら、俺も本気でいきますかね、【竜血活性】」
身体の奥底から、力が溢れ出てくる。
血液が力強く脈動しているのが分かる。
身体に、白いオーラが溢れ、そこに赤いオーラも混ざっていく。
よく見ると、手や腕に白銀の鱗が出ている。
成る程、【竜血活性】とはよく言ったものだ。
「『竜の爪撃』」
以前とは威力のまるで違う。いや、規模のまったく違う三つの斬撃、竜の爪の一振りが放たれた。
当たれば、ただでは済まないだろう。
しかし
【ヴォーパル・カイザー】は、避ける素振りも見せずに、その右足を振り抜いた。
「ギュイィィィィィ!!!(『死狩空鎌』!)」
【ヴォーパル・カイザー】の脚から放たれたのは、巨大な漆黒の鎌の斬撃
死の気配を纏ったようなソレは、俺の放った『竜の爪撃』を打ち消した。
「ギュイィィィィィ!!!」
「【柳】、『カウンター』」
飛び蹴りをかましてきた【ヴォーパル・カイザー】の攻撃を、そのまま反す。
【柳】と【無心】を発動させているのに、ジャストは成功しなかった。さすがと言えばいいのかな? ダメージが少しづつ蓄積すれば、俺の多くないHPが、余裕で無くなるだろう。
つまり、短期決戦。
やるのは、隙を見つけてからの“肉を切らせて骨を断つ”
「【剛】、『氣弾』! 【螺旋】、『突拳』」
『氣弾』を放ち、【ヴォーパル・カイザー】に当たる前に、【螺旋】にした『突拳』を『氣弾』を殴りつけて、そのまま叩きつける。
「ギュガ!?」
「まだまだぁ! 【剛】、『氣刃』!」
右足に『氣刃』を発動させて、蹴りつける。
「ギュイィィィィィ!!!(死狩嵐)」
蹴りを受け止めた【ヴォーパル・カイザー】が、少し前に使ってきた、暴風を纏ったような回転攻撃を放とうとしてきたので、急いで足の裏から“氣”を放出して、離脱。
「『竜の爪撃』!」
両手を交差させて、二つの『竜の爪撃』を放つ。
回転の勢いを弱らせることが出来た。
さて、どうするかな………
前と同じように、『廻放』を使うか?
いやしかし………
と、迷ってる暇はないようだ。
「【破壊撃】、【螺旋】、『廻流』」
相手の攻撃を受け流し続ける。
さて、ここからは……
その場から、緊急離脱。
「ギュイ!?」
真上に……だ。
「【破壊撃】、【剛】、『氣弾』!」
【溜め】を行っていた左足から、『氣弾』を放つ。
高速回転中の物には、側面から当てても弾かれる可能性のほうが高い。
しかし、上からならば……
「ギュゥガ!?」
よし、当たった。
このままいくとしよう。
「ギュイィィィィィ!!!(『死狩鎌』!)」
全力の攻撃か………
まぁ、俺は空中にいる。回避のしようがないのは、一目瞭然だろう。
迫り来るのは、死の気配を纏った脚撃
「……【堅】、『不退転』」
迫り来る脚に、左腕に集中させた、【堅】込みの『不退転』を叩きつける。
砕け散るのは俺の腕
しかし、隙は作った!
「【螺旋】、『貫手』!」
【ヴォーパル・カイザー】の右目に、右手を突き込む。
「ギュグァ!?」
「『竜の爪撃』!」
止めだ。
右手から放たれた『竜の爪撃』は、【ヴォーパル・カイザー】を内側から三つに斬り裂いた。
「……ギュゥ……」
「………」
動かないが、油断はしない。
『………満足だ』
「……」
『全力かは分からないが………それでも楽しかったぞ』
「……そうか」
『あぁ………千夜、腕を犠牲にするのに躊躇いは無かったのか?』
「どうせ治るからな」
それに、勝利する確率が上がるからな
『ククク………面白い男だな……出来れば、来世は友になりたい……いや、それは不可能だな……』
「今からだってなれるさ」
『………そうか? ならば、お前は生涯最初で最後の友だな』
【ヴォーパル・カイザー】の身体が、光になって消えていく……
『千夜よ……我は消えるだろうが、“証”は残るだろう。お前の手に収まるだろう』
「そうだろうな」
『さらばだ………次はきっと━━━』
最後に何を言おうとしていたのかは分からなかった。
しかし、俺も満足出来た。
……………
この左腕どうするかな……
《お知らせします》
《5体のユニーク個体が討伐されました》
《討伐最大貢献者、“レイカ”、“ディロ”、“霧羽”、“桂月”、“千夜”に討伐報酬が与えられます》
【死面礎化】
作中にある通りというかなんというか、能力値の強化と、即死攻撃の強化、それと狂乱状態にもなってしまう、危険な能力でもあります。




