1━17.皇帝の影そして………
皇帝と覇王の戦いの外側
数多くのプレイヤーが、皇帝と覇王の戦いの場に向かっていた。
「なかなかの強さのユニーク個体らしいな」
「俺、ユニーク個体に会うの初めてだわ」
「俺も、俺も」
既に兎達によって、デスペナルティになったプレイヤーが、掲示板に書き込んだり、フレンドに知らせたことにより、騎士王国所属のプレイヤー達が、ユニーク個体の撃破のために森に入っていた。
その殆どが、レベル200超えであり、手練れが多かった。
「にしても、こんだけプレイヤーがいるのに、“黒轟”も見ないし、“氷麗の騎士”っていうか《虹薔薇の騎士団》の団員も見かけないな」
「まぁ、なんか忙しいんじゃないのか? “八無刀”は来てるかもしれないけど」
「まぁ、“八無刀”はいても分かんないけどな」
プレイヤー達が話しているように、この場にファルノート内のプレイヤー最強と名高い者の姿はない。
さて、三人の強者だが……それぞれ独自の理由でここに来ていなかった。
“黒轟”グレイマンは、手にはいる武器や防具、アイテム等は自分に合わないだろうと判断し、別の場所に向かった。
“氷麗の騎士”ネルは、王都から遠く離れた場所にメンバーと行っていたので、間に合わないと判断し無視。
“八無刀”華天は…………
とにもかくにも、この場にはファルノート所属の強者はいなかった。
「…………」
そんなプレイヤー達だが、知り合いでもない者達が大多数を占めており、互いに牽制しながらユニーク個体を探していた。
そのため、気づくのに遅れたのだ。
「━━━ぁ?」
「━━━ぇ?」
また二人、デスペナルティになった。
気づくことなく、ただの一撃で倒されていくプレイヤー達。
彼らは決して弱くはない。
しかし、今回は相手が悪かった。
「…………キュイ」
皇帝を守る近衛兵最強にして、暗殺者の力もあわせ持つのは、【影ノ暗殺近衛兎 ヴォーパル・シャドウ】
彼を捉えるのは至難の技である。
【襲撃近衛兎 ヴォーパル・アセイラント】の保有する能力、【気配消失】を持ち
【追跡近衛兎 ヴォーパル・チェイサー】の保有する能力、【姿形消失】を持ち
そして、対象を一撃で殺すことのできる、皇帝の力を具現化させた能力を持っている。
【死狩刀】
【ヴォーパル・シャドウ】にしか認識出来ない漆黒の短刀は、心の臓、首、頭、等の急所に当てることにより、ありとあらゆる防御系、耐性系の能力を無効化して、即死させることができる。
どのように守ろうとも、当たってしまえばどんな強者でも倒せるという、凶悪なスキルである。
「キュイ」
【ヴォーパル・シャドウ】は、皇帝の影であり、皇帝を崇拝する、最も忠誠心のある近衛兵である。
彼は、皇帝の望みを叶えるために、皇帝の元へ向かおうとするプレイヤー達を、次々と倒していく。
たとえ、皇帝が負けるとしても………
「………キュイ」
皇帝の影として、ただただ敵を倒していく。
そして、遂に目に見える範囲の敵は全て倒した【ヴォーパル・シャドウ】は、皇帝の戦いを見届けるために、皇帝の元へと急ごうとし━━
「ッ!? キュイ!」
━━突如自身に向けて放たれた何かを回避する。
地面に刺さったのは、不思議な形状をしたナイフのようなもの。
この場に、日本人がいれば、おそらくこう言っただろう。
クナイ………と
「キュイ………」
【ヴォーパル・シャドウ】は警戒する。
何故なら、自身へと向けて寸分の狂いもなく放たれたその武器には、本当にギリギリで気づいたからだ。
その武器が飛来した方向は分かるが、放った人物はもうその場に居ないであろうことは分かる。
殺気すら感じさせない見えない相手は、どうやら自身と同じような部類であることは分かる。
しかし、それでも自身の居場所を見抜いた術が分からない。
姿も無く、気配すら無い自身を、いったいぜんたいどうやって捉えたというのか………
「キュイ」
再び飛んできた武器をひょいっと避けるが、【死線感知】に反応が合ったため、直ぐ様その場から全力で離れる。
「『火遁:雷炎爆符』、解放」
直後、何処からともなく聞こえてきた、鈴を転がすような声に呼応するように、武器が大爆発を起こした。
【ヴォーパル・シャドウ】は、歯噛みをした。
相手は自分の居場所を認識しているのに、自分は相手の居場所どころか、姿すら発見できていないのだ。
「『風遁:鎌鼬之陣』」
「キュイ!?」
今度は、『ヒュウッ』という音とともに、周囲の木々や草花が切り刻まれる。
不可視の暴れる刃を上手い具合に回避して、安全な場所まで逃げた。
「『火遁:鳳千火』」
「キュイィィィィィ」
次に来たのは、火の玉の雨だった。
それを避けながら、火の玉の飛んできている場所に向かっていく。何故なら、その場所に自身を追い詰める危険な存在がいるハズだから
火の玉を回避しきり、その場所にたどり着いたら、そこには何もいなかった。
「キュイ?」
「『火遁:雷炎爆符』、解放」
再び聞こえた、終わりを呼ぶ声。
【ヴォーパル・シャドウ】は、【死線感知】の反応に従い、その場所から全力を発揮して、逃げる。
しかし、回避行動をとった瞬間、先ほどまでいた場所から幾つもの爆発が起き、その衝撃を受けて【ヴォーパル・シャドウ】は吹き飛ばされた。
「キュイィィィィィ」
吹き飛ばされた場所から、直ぐ様立ち上がろうとした【ヴォーパル・シャドウ】だったが、身体が動かないことに気づいた。
意思の力を振り絞って、辺りを見渡すと、自身の後ろの地面に、先ほど飛んできた武器が地面に突き刺さっていた。
否
自身の影に突き刺さっていた。
「忍法、『影縫』」
木々の間から現れたのは、一人の少女だった。
黒い揃いの上下の衣服に、胸の部分だけを覆っている銀色の軽鎧を着ていた。その軽鎧には、逆さまになった、茎や棘の部分まで真っ黒な薔薇が刻み込まれていた。
そして、右手には、光を吸い込むような漆黒の刀身をした短刀を持っていた。
そして、特徴的なのはその右目。片方しかない眼鏡のレンズのようなものが、右目の前に浮かんでいた。
「キュイィィィィィ」
少女が、自身を殺そうとしているのは明白だった。
動けない自身を殺すのは簡単だろう。
だから、その隙を逃さない。
背中から氣を全力放出して、自身の影に突き刺さっていたクナイを吹き飛ばし、自由になったその身体のまま、少女に飛びかかり、その心臓部分に、【死狩刀】を突き刺した。
霞みのように消える少女の身体。
「キュイ」
再び、皇帝の元に向かおうとした【ヴォーパル・シャドウ】だったが、脳天から何かに身体を貫かれた。
消えていく意識の中、【ヴォーパル・シャドウ】が最後に聞いたのは………
「忍法『空蝉』………さよなら」
鈴を転がすような、少女の淡々とした声だった。
【死狩刀】
【空前絶後の生還者】、『肩代わりのペンダント』は無効化しますが、【瀕死覚醒】のような死んだ後に効果を発揮する、復活系は無効化できません。
そして、騎士の国に忍者ですよ




