1━15.弱者ゆえの革命
「キュイ(『心得其二狂闘』)」
【ヴォーパル・リベリオン】のその言葉とともに、灰色の板が弾け飛び、赤いオーラに包み込まれる。
それを見た三人は、警戒を強める。
先ほどの“不退”を見たため、強力な能力だとなんとなく予想しているのだ。
三人が思った通り、『心得其二狂闘』は、“不退”とは全く逆ともいえる能力である。
“不退”が絶対強者から退かない力だとすると
“狂闘”は絶対強者を傷つける………いや、敵対者をただただ殺すための力である。
「キュイ!」
「ッ!? く!」
「ロンター!」
「大丈夫です!」
赤いオーラに包まれた【ヴォーパル・リベリオン】が、先ほどの、受けて反撃するという姿勢から一転。鋭い蹴りをロンターに浴びせ始める。
ロンターは、上手い具合に盾を動かして受け流していく。
「『ダブル・スラッシュ』!」
「キュイ!」
「よっ!」
「『シールド・バッシュ』!」
「ギュプ!?」
霧羽の二連撃は、一度目は当たったが、二度目は跳ね返された。しかし、霧羽はそれを避けて、霧羽のほうを向いた【ヴォーパル・リベリオン】に、ロンターが盾による攻撃を当て、吹き飛ばした。
さらに、吹き飛ばされた【ヴォーパル・リベリオン】に、追撃が入る。
「『ヘブンズ・クロス』~」
「キュイ!?」
起き上がった【ヴォーパル・リベリオン】に重なるように、光輝く純白の十字架が現れる。
【ヴォーパル・リベリオン】は、マントで跳ね返そうとしたが、それは叶わずに、十字架は強い光を放った後に消え去った。
「キュイ?」
「うーん~、思った通り反射はされないけど~。ただの実体系には~、やっぱりあんまり効果ないね~」
蒼百合が放ったのは、光属性の魔法の中でも強力な魔法だが、非実体系や死霊系に強いだけで、ただの実体系にはあまり効果はない。
しかし、直接当てるタイプの魔法ではないため、反射はされないようだ。
「キュイィィィィィィ!!!」
「行かせません『グラウンドガード』」
【ヴォーパル・リベリオン】は、蒼百合に向けて飛び蹴りを食らわせようとしたが、和って入ったロンターが、地面に盾を突きつけて攻撃を完全に受け止めた。
さらに、霧羽が攻撃を仕掛けようとしたが、【ヴォーパル・リベリオン】は、直ぐ様その場から離れた。
そして、【ヴォーパル・リベリオン】は、思考する。
“不退”も、“狂闘”も、この三人の連携の前にはあまり効果はない………と、
“狂闘”の能力は
攻撃力・俊敏の強化
攻撃回数の倍加
耐性無視
耐久を大幅に削る
以上の能力である。
時間をかければ、ロンターの盾を破壊して一気に仕留めることも可能だろう。しかし、破壊する前にこちらが殺られる可能性もある。
既にHPは3分の1を切っており、このままでは負ける………つまり殺られてしまう。終わってしまう。
だが、元より引くことなど出来ないのだ。
故に、最後の力にかけることにした。
「キュイ! (『心得其終革命』)」
【ヴォーパル・リベリオン】が黒銀のオーラに包まれる。
最後の心得だけは、既に決まっていた。それが
『心得其終革命』
どんなに弱い者でも、革命を起こすことは出来るのだ。
“革命”の能力は、【ヴォーパル・リベリオン】のありとあらゆる能力の強化。
それに加え、心得の一つの能力の全てである。
今回は、“不退”を使用している。
「今度は、なんだよ」
「なんだか不味そうですね」
「でも、やるしかないよ~」
「分かってるよ! 『リープ・スラッシュ』!」
霧羽が放った飛ぶ刃は、マントによって跳ね返され、音速を超えて霧羽に直撃した。
「ぐぁ!?」
「霧羽くん!? 大丈夫かい!?」
「あぁ………くそ。ペンダント割れた」
「あらら~、『ハイ・ヒール』」
吹き飛ばされた霧羽は、直ぐに立ち上がったが、首に下げていた。『肩代わりのペンダント』が割れているのを見て、残念そうな顔をする。
一度だけだが、即死攻撃や、致死ダメージを肩代わりしてくれる『肩代わりのペンダント』たが、かなり高い。
最近になって買ったのだが、買った後になんで今買ったんだろうと後悔した品物である。しかし、今回はこのペンダントによって命拾いした。
「キュイ!」
「赤いオーラを纏い始めましたね。えっと、もう盾が壊れそうなんですが………」
「なら、決めにかかりましょう~」
「だな! 作戦通りに行くぞ!」
【ヴォーパル・リベリオン】は、三人に止めをさす準備に入った。
どんな攻撃が来ても、跳ね返して相手を倒すことは出来るし、“革命”のうえに、“狂闘”の状態でもあるので、盾も直ぐに破壊出来るだろう。
【ヴォーパル・リベリオン】は、勝利を確信していた。
しかし、一つだけ間違えていることがあった。
「キュイィィィィィ!!!」
【ヴォーパル・リベリオン】が、盾を構えるロンターに向かって、蹴りを放つ。
蹴りが盾に当たると、盾は粉々になって砕け散った。止めをさすために蹴りを放とうとした【ヴォーパル・リベリオン】が見たのは、騎士の剣だった。
「『最後の守り』!」
“守る”というのは、守りたいものを守れればいいのだ。
しかし、盾を失った騎士の中には“守る”ことが出来なくなるものがいる。
そして誕生したのが、盾を失うことにより次の攻撃力を大幅に上昇させ、その後自身の防御力を1にするという技。
『最後の守り』である。
「ギュボ!?」
吹き飛ばされた【ヴォーパル・リベリオン】は、“革命”により命が救われた。
しかし、直ぐ様感じた嫌な予感に、“狂闘”を“不退”に変更する。
「『サンシャイン・レイ』~!」
「キュァァァァァ!?!?」
空より降り注いだ光の熱線が、【ヴォーパル・リベリオン】を焼いた。
しかし、まだ倒れない。
そこに、霧羽が剣を構えて走り寄る。
【ヴォーパル・リベリオン】は、自身のHPは残り少ないが、今駆けてくる男を倒せば、後の二人を倒すことは簡単であると、認識した。故に、再び“狂闘”に戻した。
「『銀破斬』!」
霧羽の渾身の一撃が放たれた。
それを、マントを振るって反撃する【ヴォーパル・リベリオン】、そして、直ぐ様残りの二人のほうを見る。
後は、あの二人だけだから
「【手加減】なんて使えないとおもってたんだけどな、『ブレイク・クレッセント』!」
突如として聞こえてきた、倒したハズの相手の声に、振り向こうとして━━━
「ァ━━━?」
━━━光の粒子になって消えた。
そもそも、革命とは下のものが上のものに対し行うものであり、上のものが下のものに行うことではないのである。
こうして、格上の撃破に至ったのは、霧羽、ロンター、蒼百合の三人だった。




