1━12.スライムの必勝法
「━━━あれ? 痛くない?」
ディロは、自身の頭に走った衝撃で、デスペナルティにもならず、痛みすら、尚且つHPも減ってないことに気付いた。
衝撃が走ったのに、HPが減ってないのはどういうことなんだろう? と、疑問を思ったが、そんな疑問は直ぐに消えた。
「へ?」
『あれー?』
『ほえー?』
『来てるねー』
ディロ達に向けて、黒い卵達が迫ってきていた。
ディロは、ひきつった笑いを浮かべながら、その場から逃走を開始する。
しかし、兎卵爆弾の速度は速く、このままでは追い付かれると判断したディロは、先ほどプレイヤーを爆死させた兎卵爆弾の特性を考察して、対処法を導きだし、直ぐ様実行にうつす。
「『ストーンウォール』!」
ディロの後方三メートル辺りの地面から、灰色の壁が出現した。
続いて、壁の向こうで幾つもの爆発が起こり、石の壁が大破する。
「よし! 思った通りだけど、このまま防壁作りながら逃げても、出口というか安全な場所までMPはもつかどうか………」
『無理だねー』
『負けたねー』
『爆発する前ににげていいー?』
ディロの考えに、スライム三匹が否定し、リメノに至っては逃げ出そうとする始末。
リメノを羽交い締めにしながら、ディロは先ほどの衝撃は何らかの意味があったのだと考える。
「もしかして、マーキングかな?」
ディロは、おそらく先ほどの衝撃は自身にマーキングというか、ターゲットロックのような行為だったのだろうと思い当たる。
そして、それを目掛けて先ほどの兎卵爆弾が突撃してくるのだろうと考察し、さらに兎卵爆弾は、物に当たると爆発し、爆発に巻き込まれると、連鎖爆発を起こすと考えた。
「逃げるのが不可能に近いなら、駄目で元々戦おうか!」
『おー!』
『やったらー!』
『シチュー!』
戦うことを決めたディロは、早速作戦を立てることにする。
とりあえず、相手が姿を表さないということは、それほど防御力、体力はないのだろうと考え、先ずは兎卵爆弾から逃げ回りながら、チビスライム達に本体を探させることにした。
「多分だけど、それほど遠くにいるわけじゃないと思うから、この周辺を少しづつ探していって」
『了解ー』
『伝えるねー』
『ふぁいあー』
「よし! 『ストーンウォール』」
ディロは、再びやってきた兎卵爆弾を『ストーンウォール』で封殺しつつ、森の中を駆け始める。
迫り来る幾つもの兎卵爆弾。
四匹の近衛兎の中で、唯一の超遠距離攻撃をもつ追跡兎は、四匹の中で最も臆病な兎だった。
四匹の中で一番能力値は低いが、気配を殺し、姿を隠し、遠くを見渡す目を持ち、かすかな音を拾う耳をもち。と、多彩な能力を有して、対象に発見されることなく、頭以外を吹き飛ばして、狩ってきたのだ。
そして、そんな追跡兎のもつ二つの力は、追跡兎を追跡兎たり得るものにしていた。
【追跡者ノ刻印弾】
口から打ち出された殺傷能力0の弾丸は、対象に追跡兎のみが認識できる刻印を刻み込み、何処へ行こうとも、死ぬまで追跡兎に位置を特定されることになる。
そして
【死の収穫祭】
黒兎卵爆弾と呼ばれる、追跡兎の身体の周りから、刻印弾を受けたものを障害物に当たるか、刻印弾を受けたものに当たるまで追い続け、当たった瞬間に爆発し、爆発に巻き込まれると連鎖爆発を起こすという、黒い卵に、黒い兎の耳と足をはやした爆弾を生み出す能力である。
以上の二つを使い、時には軍隊をも壊滅させたことのある兎は、今回現れた兎達の中では最も厄介といえるだろう。
一方的に攻撃対象を発見し、その場に止まっているだけで相手を自動攻撃する爆弾を生み出す能力、さらに気配も姿も隠しているのだ。
倒すには、周囲ごと消し去るしかない。
広範囲攻撃を持っていないソロでは、【死線感知】も合わさって危険になったら直ぐに逃げられてしまう。
そして、ディロは広範囲攻撃を持っていない。
この時点で、勝負は決していたのである。
そう、ディロが戦うことを決めた時点で、MPが尽きなければ、ディロの勝利は確実だったのだ。
『見つけたー』
『隠れてるねー』
『気配を感じないよー』
『でも、【魔素感知】には引っ掛かってるよー』
『卵も出してるし確実だねー』
『ディロも向かってるよー』
追跡兎は、だんだんと先ほど刻印弾を撃ち込んだエモノが、自身のほうに迷いなく向かってくることに気がついた。
なぜ自身の居場所が発覚したのかわからないが、追跡兎は直ぐ様そこから逃げ出すことにしたが……
「キュイ!?」
『捕まえたー』
青い何かに絡めとられて、宙吊りのまま引き上げられた。
逆さまのまま宙吊りにされた追跡兎は、もがきながら刻印弾を撃ちだし、兎卵爆弾を生み出すが、届かない。
刻印弾は、木の上にいる彼らには届かない。兎卵爆弾は、直ぐ様刻印弾を撃ち込まれたものに突撃していく。
『捕まえたの? なら、適当にダメージ与えて!』
『『『『『『『はぁーいー!』』』』』』』
自身のマスターの言葉に、スライム三匹が動き出す。
それは、いつもスライム達が敵を倒す時に使っている方法だった。
ディロに攻撃指令を出されたスライム達は、とりあえずいつも通りでいて、この場で最も効果的であろう行動を取った。
そして、これが勝利に繋がった。
先ずは、刻印弾を撃ちだす口を包み込み、無理やり閉じさせ撃てないようにする。
「ッ!?」
捕まった時点で追跡兎の末路は決まっていた。
口も鼻も塞がれた状態で、アシッドスライムの身体から分泌される酸が、じわじわと毛皮を焼き、ポイズンスライムの毒によって、じわじわと身体を蝕まれていく。
スライム同士の攻撃は、【スライムマスター】の称号効果により無効化され、ただただ追跡兎を苦しめる。
口と鼻を塞がれているため、息も出来ずにジタバタと暴れる追跡兎。
しかし、ほぼほぼ流体のスライムの身体には、そんな行為は意味をなさず、いつしか動かずダランとなり、窒息と毒、酸によるスリップダメージにより、追跡兎のHPは0になった。
「………うわぁ………」
ちなみに、これを見ていたディロは、一つの戦い方は分かったけど、えげつないなぁ。と、思ったようである。
スライムって、以外とえげつないですよね
【魔素感知】スキルは、スライムなら確実に持っている能力で、空気中に漂う魔素の動きや分布を感じ取って、周囲の様子や、物の位置を特定するスキルです。
気配を消そうが、姿を隠そうが意味などないのです。
まぁ、これを誤魔化すスキルやら能力もありますが




