1━10.信じて放て
前回の続きです
なんか、予定していたより大分長くなってしまった。
草むらから、黒い兎の動向を伺うキリカとレイカの二人。
二人は、作戦を決めた。
先ずは、レイカが魔法をやたらめったら適当に放ちつつ、たまに当てに行くようにしながら走る。
そして、転移した兎を狙ってレイカが矢を放つという作戦にした。
「よし、行くわよ」
「うん」
レイカが気配を絶ちながら移動したのを見届けて、キリカも準備を始める。
MP継続回復薬を飲み、続いてスタミナ持続薬を飲み、魔力増強薬を飲み、一つの魔法放つ。
「『フレア・ラピッド』!」
キリカが構えた杖の先から、幾つもの炎の弾丸が放たれた。
「キュイ!?」
「『ブラックカーテン』」
炎の弾丸に怯んだ襲撃兎に、間髪入れずに視界を阻害する魔法をかけるキリカ。
襲撃兎は、爛々とした目でキリカを見つめる。
こんなもので自分を阻害したつもりかと
こんなもので自分の動きを鈍らせたつもりかと
「キュイ!」
「さぁ来なさい!」
キリカが踵を返して逃げ出したのを見て、嘲笑する襲撃兎。
結局逃げるのかと
そして、直ぐ様自身の能力で、キリカの頭に移動した襲撃兎が、そのままキリカの頭を吹き飛ばそうとした時……
「!?」
自身に迫る死の気配に気付き、直ぐ様身をひねってその場から回避すると、さっきまで襲撃兎のいた場所を矢が通りすぎた。
襲撃兎は、もう一人いたのかと内心歯軋りした。
「『フレア・ラピッド』!」
「キュイ!」
「ほらほら! そんなんじゃ私を倒せないわよ!」
キリカの挑発に、さらに怒り心頭になる襲撃兎。
しかし、自身の能力でキリカを攻撃しようとすると、直ぐ様矢が飛んでくる。
しかし、矢を放った人物を探そうとすると、魔法が飛んでくる。
そう、完全に襲撃兎は二人に翻弄されていた。
そんな中、キリカとレイカは能力の考察をしていた。
『どう? 何か分かった?』
『とりあえず、矢が当たる直前に気づくのをなんとかしたいね。多分だけど、自分がやられるのが分かるスキルがあるんじゃないかな? 矢の一撃に耐えられるなら、そのままキリカちゃんを攻撃しそうだし、防御力と体力は全く無いと思う』
レイカの考察通り、【ヴォーパル・アセイラント】は、自身に迫る死の気配に気づく能力。【死線感知】の能力を持っていた。
しかし、この能力は未来予知ではなく、三秒後その場にいたら死ぬというのが分かるだけのスキルだ。
『成る程ね。それなら、隙を作って、アレで攻撃すればいいわね』
『うん。後、移動するスキルは、ほんの短い間だけどクールタイムがいるみたい』
『そうね、連続使用てきるなら直ぐに私を倒すだろうしね』
『後、一回キリカちゃんの足下に出現した時があったよね?』
そう、襲撃兎は一度キリカの正面に現れた時があった。
『そうね。でもそれが?』
『つまり、目で見た相手の死角に瞬間移動する能力じゃないかな?』
今度のレイカの考察も正しかった。
襲撃兎の最大の能力は、目で見た相手の死角に一瞬で移動する能力。
【死角瞬身】
襲撃兎はこの能力と、【気配消失】、強力な脚力でもって相手の首を狩ってきたのだ。
『成る程ね。それじゃあ、私が隙を作るから、レイカは止めをさして』
『うん。分かった』
何の疑問も言わずに、レイカはキリカに賛同した。
理解などないが、ただ信じていた。自身の片割れを
そして、二人の作戦が開始された。
◇
■ある双子の片割れ■
放っておくと、色んなトラブルに巻き込まれたり、巻き起こしたりして、なんだかんだあって解決して有名になる。
それが、私にとっての桐火ちゃんだ。
ある時には、誘拐されて三日後
意気投合した誘拐犯さん達と、家に帰って来た。
土下座する誘拐犯さん達に対して、お父さんは事情話してほしいとにこやかに尋ねた。
そしたら、誘拐犯さん達は騙されて今すぐお金が必要だったのだと、土下座したまま言った。
数日後、お父さんが全部解決させたと黒い笑顔で言って、誘拐犯さん達はお父さんの会社で働くことになった。
今では、いいおじさん達になった。
またある時は、銀行強盗に巻き込まれて数時間後
警察の人達が取り囲む銀行から、泣きじゃくる銀行強盗さんと一緒に出てきた。
何をしたの? と、私が聞いたら、話を聞いただけと言われた。
またある時は、一人の女の子に傾倒した生徒会を瓦解させる計画の音頭をとった。
ちなみに私は、内側から生徒会をボロボロにした。
私もずっとイライラしてたので、生徒会メンバーを騙して内心笑うのは楽しかった。ちなみに、やり方とか演技はお父さんに教わった。
そんな感じで、性格は全く違うのに双子だからか気が合う私たちは、仲良く暮らしてきた。
そんなある日、桐火ちゃんが『Freedom Frontier』というゲームをやろうと誘ってきた。
私は二つ返事で了承して、ゲームを始めた。
だけど、カタカナにしているとはいえ、そのまま自分の名前を使うのはどうかな? と、私は思うんだよね桐火ちゃん。
ちなみに私は、自分の燐火という名前を、少し変えてレイカにした。
ゲームでは、弓道部に入っていたので弓士にして、弓矢を使うことにした。
そして、ゲーム内では色んな人に出会った。
今のパーティーメンバーの、霧羽くん、ロンターくん、蒼百合ちゃん。
クランマスターのグレイマンさん。
霧羽くんの友達の千夜さん。
沢山の人に出会ったけれど、私が素でいられるのは、演技無しでいられるのはキリカちゃんと二人の時だけ。
本当に信用できるのはキリカちゃんだけ
だから………
今は、ただ信じて放つ
◇
襲撃兎は勝利を確信していた。
突然立ち止まった人間は、逃げるのを止めたのだと不適に笑ったが、襲撃兎には愚作にしか見えない。
おそらく、死角に移動した自分をもう一人が攻撃する予定なのだろうが、無駄である。どうせ、回避できるのだから。
「さぁ、そろそろ止めよ!」
「キュイ!」
「『サークル・バースト』!」
途端に、自身の居場所に死の気配を感じ、対象の頭上に転移する。
すると、エモノの周囲で爆発が起こった。
襲撃兎は、それを見ながらこのまま倒そうと考えたが、間を置いてやってきた死の気配に、クールタイムの終わった能力で、エモノの頭の後ろに転移し━━━
━━━直ぐ様やってきた死の気配とともに、理解する間もなく意識が消え、光の粒子になって消えた。
レイカが放った止めの一撃により、襲撃兎は理解する間もなく倒された。
放たれた矢は、ただの矢ではない。
《黄昏の灰》に所属する一人のプレイヤーが作ったモノ。
触れられないモノを、触れられるように加工するスキルを持ったプレイヤーにより作られた、光の矢。
弓から放たれたそれは、光の速度で真っ直ぐ飛んでいき、一瞬の後には消える矢。しかし、存在する間は直線上にある全てのモノを貫き進むという。
今回にうってつけの矢であった。
かくして、襲撃兎は、お互いを信頼しあう双子によって敗北したのだった。
PKの下りでレイカが怖がっていましたが、実は、相手の隙を伺ってなんとか倒せないか、キリカと相談していました。
桐火は元気に突っ走る女の子で、お母さん似です。
燐火は普通に可愛い女の子だが、実は腹黒で、お父さん似です。
余談ですが、二人のお母さんは、好きだったお父さんの性格が思ってたのとは違うと気付いた時には、外堀を埋められて逃げられない状況になってて、結婚。という感じです




