1━9.【襲撃近衛兎】
はい、襲撃兎との戦いの前です
「さぁー! じゃんじゃん狩るわよー!」
「キリカちゃん。皆置いてきちゃったけど、いいの?」
「いいの、いいのっ! ここのモンスターぐらい、私がいれば楽勝よ!」
時は、兎達が出現する少し前に遡る。
“ガナ森林”へとやって来て、レベル上げをしようとした霧羽達のパーティーだったが、レイカを連れてどんどん先へと進んでいくキリカについていけず、霧羽、ロンター、蒼百合ははぐれてしまったのだった。
しかし、それを気にするキリカではなく、ここのモンスターぐらいなら、二人で楽々倒せるだろうとそのままずんずん進んでいる。
そして、レイカはそんなキリカを心配しつつも、歩みを止めずについていく。
元々、後先考えずに進むキリカを心配してついていくレイカというのが、この双子の日常であるが、なんだかんだいい結果に終わるので、霧羽達とはぐれてしまった今の状況も、二人してなんとかなるだろうと思ってしまっている。
結局の所、二人は双子であり、何処かで思考が似ているのだった。
「えっと、兎さんを狙うんだよね?」
「そうよ! 幸運兎っていって、普通より多く経験値を落とすの!」
「でも、可愛い兎さんなんだよね?」
「そ、それは忘れるの!」
レイカの鋭い指摘に、あたふたしながらも誤魔化すキリカ。
そう、二人の狙いは幸運兎である。
ちなみに、エンカウント率が低いことを、キリカは完全に忘れている。
「どう? 見える範囲にいる?」
「うーん。いないみたい」
弓士というか、遠距離物理職に必須のスキル、【鷹の目】を使って辺りを見渡すレイカだが、周囲にはモンスターの姿を見ることは出来なかった。
続いて、【気配察知】を発動させたが、此方にもなんの反応もなく、レイカは首を傾げた。
「モンスターが………いない?」
「そうなの? それなら、反応があるまで歩くのよ!」
レイカの言葉を聞いて、キリカは直ぐに歩き出した。
一方のレイカは、結構な察知範囲をもつハズの自分の【気配察知】スキルに、なんの反応もないのがきがかりになっていた。
「キリカちゃん。なんか変だよ、戻ったほうがいいかも……」
「何言ってるのよ。せっかく来たんだから、兎見つけるまで戻らないわよ!」
レイカが周囲の状況に嫌な予感を感じて、キリカに戻らないか相談するが、それを聞かずにずんずん進んでいくキリカ。
レイカは、そんなキリカにため息をつきつつも、仕方がないとついて行く。
そんな時……
森のそこかしこから、悲鳴が聞こえ始めた。
「何っ!?」
「わ、分かんない! 何かあったのかな?」
二人が、突然聞こえてきた悲鳴に周囲を警戒し始める。
周りを見て、とりあえずの脅威がないことを確認すると、キリカはフレンドトークを霧羽達パーティーと繋げる。
『キリカ、レイカ無事か!?』
『大丈夫ですか!?』
『二人とも大丈夫~?』
フレンドトークを繋ぐと、三人から心配する声が聞こえてきた。
蒼百合は、相変わらずの調子だったが
『こっちは二人とも無事。でも、何があったの?』
『分からん! 突然色んな場所から悲鳴が聞こえてきて………ッ!? んなっ!?』
「キリカちゃん!!!」
フレンドトークの途中で、霧羽の声が切羽詰まったものに変わって切れ、キリカに向かってレイカが飛びかかり、押し倒した。
「なに!?」
「こっち!」
「キュイ!」
直ぐに起き上がったレイカが、キリカの手を引っ張ってその場から逃げ出す。
「キリカちゃん! 煙幕とか出せる!?」
「良く分からないけど! 『ファイアボール』乱れ撃ち!」
レイカの言葉に、キリカが直ぐ様周りに『ファイアボール』をやたらめったら適当に撃ち始める。
すると、地面に着弾した火の玉が爆発して、周囲に土煙を出す。
「キリカちゃん! 【気配希釈】使って!」
「分かった!」
土煙の煙幕をはりながら移動し続けた二人は、ちょうどいい草むらに飛び込んで、【気配希釈】を発動させて息を潜める。
レイカが、草の間から外の様子を見始めたのを見て、キリカも同じように外を見始める。
「何があったの?」
キリカが、声を潜めてレイカに尋ねる。
レイカは、顔に緊張感を浮かべながら答えた
「黒い兎さんが、突然キリカちゃんの背後に現れて、襲おうとしたの」
「それで突然押し倒したの」
「うん。多分だけど、霧羽くんや、クランマスターさんが言ってた、ユニーク個体ってモンスターだと思う」
「成る程ね。つまり、この悲鳴はユニーク個体の仕業なの」
「うん。それに、一体だけじゃないみたい」
レイカの言葉に、キリカはため息を吐きながら、ラッキーなのかアンラッキーなのか分からないわね。と、呟いた。
そして、二人はフレンドトークの最後の霧羽の言葉に、もしかしたら霧羽も襲われた可能性があると考えた。
「それにしても、転移能力ってめちゃくちゃね」
「ただの転移じゃないかも……」
「なんで?」
「それなら、他のユニーク個体とか、強いモンスターでも覚えてそうだから」
「そうね。転移に条件があるなら、倒せるかもしれないわね」
「逃げないんだ」
「逃げないわよ。あ、レイカは逃げてもいいわよ?」
「キリカちゃんだけ置いてはいけないよ。分かってるでしょ?」
「えぇ。それじゃあ、なんとかしましょうか!」
草むらから周りをキョロキョロと見渡す黒い兎を見ながら、二人は勝利への作戦を考える。
こうして、双子と襲撃兎の戦いが幕を開けた。




