1━7.兎狩り
主人公視点ではありません
“ガナ森林”
騎士王国ファルノートの西部に広がる、広葉樹の森林地帯で、“ハクア古代大森林”の入り口というのが、一般的な“ガナ森林”の説明だ。
北部に広がる“プラット草原”と同じく、生息しているモンスターのレベルは低く、ファルノートに所属した初心者プレイヤー達の、最初のレベル上げフィールドの一つである。
“プラット草原”とは違い、視界を遮る木々や草花を利用した奇襲を行ってくるモンスター。さらに、突然モンスターとのエンカウントが起こるフィールドでもある。
初心者達にとって、ここは奇襲や突然のエンカウントに対応する練習用のフィールドと言ってもいいだろう。
また、薬草や木の実等、採取系のアイテムも多くあり、生産職プレイヤーもここを訪れる者は多い。
ただ、行きすぎると推奨レベルが異常に高い、“ハクア古代大森林”に入ってしまうので、注意が必要である。
ちなみに、広葉樹の中にヤシの木のような木や、シダ植物が混じり始めたら“ハクア古代大森林”が近い証拠なので、初心者プレイヤーならば、これを見つけたら引き返すのが得策だろう。
さて、“ガナ森林”に出てくるモンスターを紹介しよう。
スライム。
物理にはそれなりに強いが、素早さもなく、体力は少なく、魔法に対して滅法弱いので、簡単に倒せる。
ゴブリン。
単体や、集団として出現し、武器を所持している個体もいる。
しかし、物理、魔法面どちらもそこまで防御力がないので、初心者でも普通に戦えば勝てる。
コボルト。
ゴブリンと似ているが、常に二体以上で行動し、武器を所持している。
ゴブリンよりは厄介だが、ゴブリン戦に慣れれば初心者でも普通に勝てるだろう。
グレイウルフ。
灰色の狼で、常に十体以上の群れで行動しており、素早い動きと連携が強いモンスターだ。
魔法面が弱いので、物理職と魔法職が協力すれば勝てる。
フォレストボア。
立派な角が特徴的な大きな猪で、常に一体で森を走り回っており、事故を起こすモンスター。他のモンスターとの戦闘中に、突然現れてプレイヤー、モンスター問わずはねて逃げていくモンスターである。
物理面に強いため、物理職だと倒すのは難しい。
幸運兎。
幸運を呼ぶといわれる兎で、希に出現する。白、青、赤、緑等々、様々な色の個体がいるが、総じて逃げ足が速く、普通のモンスターより経験値が多い。
“プラット草原”より、この“ガナ森林”に多くの初心者プレイヤーが来るのは、だいたいが上の幸運兎を狙ってくるのである。
しかし、そんな初心者プレイヤーを嘲笑うが如く、そのバケモノ達は“ガナ森林”に現れた。
◇
“ガナ森林”にやって来た初心者パーティーの一つ。
剣士一人、騎士一人、戦士一人、僧侶一人、魔法使い一人の五人パーティーが、幸運兎を求めて森林を散歩していた。
「『ファイアボール』!」
「ギャボ!?」
「よっし!」
「ナイス!」
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
(ふぅ。安定して倒せてるな。それに、このパーティーの雰囲気も良くていいし)
魔法使いの青年は、息を深く吐きながら緊張を解く、他のパーティーメンバー達は、はしゃいで喜んでいる。
それを見ながら、ほほを緩ませる青年。青年は、このパーティーのブレーンであり、冷静沈着で今までも上手くパーティーメンバー達のアシストをしてきた。
「この調子で、どんどん行こう!」
「だな!」
剣士と戦士の少年は、ゲームが好きな友人同士で、明るく元気がいいのが特徴だ。ちなみに、このパーティーのムードメイカーでもある。
「そうですね、いい感じで連携もできてますし、まだ続けられそうです」
「MPもまだ結構あるから、私も賛成かな」
騎士は珍しい女騎士で、僧侶の少女とは幼馴染同士でとても仲がいいらしい。
当初は、剣士と戦士の少年が、女騎士と僧侶の少女とパーティーを組んでいた所に、ソロでプレイしていた魔法使いの青年が入り、このパーティーが出来たのだ。
「アズールさん! MPは大丈夫ですか?」
「あぁ、まだ戦えるよ」
「よっしゃ! ガンガン行こうぜ!」
剣士の少年の問いに、アズールと呼ばれた魔法使いの青年が応えると、戦士の少年が意気揚々と歩き出した。
五人の狙いは幸運兎。剣士と戦士の少年二人は、やる気満々で周りをキョロキョロしている。
女騎士と僧侶の二人は、話しながら捜索している。
その中で、魔法使いの男は会えたらラッキーだな的な思考で【気配察知】を使って、周囲の気配を探っていた。
「お! いた! いたぞ!」
「ほんとだ!」
「黒いですね」
「可愛い~」
パーティーメンバー達の言葉に、アズールが仲間達の指差すほうを覗き込むと、そこには何もいなかった。
「なんだ? いないじゃないか━━」
次の瞬間
戦士の頭の後方に突如出現した黒い兎が、戦士の頭を蹴り飛ばした。
声を上げる暇もなく、戦士の頭は身体と別れて吹き飛び、次の瞬間には光の粒子になって消えた。
「ッ!? 全員戦闘体勢を取れ!」
魔法使いの言葉に、一瞬戸惑う残りのメンバー達
その一瞬が命取りだった。
今度は、女騎士の頭が吹き飛んだ
「いやぁぁぁ!?」
「くそっ! 『ファイアショット』!」
「━━ぁ」
「なっ!?」
アズールが放った炎の弾丸を、また消えて回避した黒い兎は、僧侶の少女の背後に現れて、そのまま吹き飛ばした。
アズールは、今までの黒い兎の動きから、即座に剣士と背中合わせになるように移動する。
「アズールさん! どうなってるんだ!?」
剣士の少年は混乱する頭で、背後のアズールに疑問を投げ掛ける。
「多分だが、対象の背後に一瞬で移動する能力を持ったユニーク個体だ」
「なっ! そんなむちゃくちゃな!」
「だからユニーク個体なんだろう」
アズールの考察は、正しく………そして間違っていた。
「ッ!?」
頭に走った衝撃とともに、視界が落ちていく。
(ばかな、俺の背後に移動したら、知らせてくれるハズッ……)
アズールは、自分の考察通りなら、背中合わせでなんとか対処できると思っていたのだ。しかし、その考察は甘かった。
黒い兎が持っていた能力は、そんな能力より凶悪だった。
(何故だ……いったい何故……まさか! このユニーク個体の能力はっ!)
アズールの最後の考察は、正しかった。しかし、遅すぎた。
最後の考察の正しさを証明する前に……
神殿へと強制的に転移させられた。
兎さんは強いんですよ。まぁ、今回のは初心者には荷が重いです。




