表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄と妹は仲が悪い  作者: ナツメ
62/87

番外編:妹とある夏の日

燃えるような恋がしたい?

水を掛けたらなくなるってことか?


とある暑い夏の日。

太陽の下に出れば、汗が滝のように流れ落ち、室内でもエアコンを切れば、一瞬で汗が噴き出るほどの猛暑が続いていた。

夏の暑さに強い俺でも、今年の夏は大人しくしているのが吉であると、休日にも関わらず早々に外出を諦めた。

バイトもなく、特段これと言ってやることもなかったので、、エアコンの効いたリビングで一日中ゲームをしていると、突然腹部に痛みが走った。

「……流石に冷房に当たり過ぎたかな」

ゲームを中断し、窓の先の蝉しぐれの音を置きざりにして、トイレへと駆け込んだ俺は、溜め息を吐きながら便座へと腰を下ろす。

腹を摩りながら痛みと格闘していると、トイレのドア先から声が聞こえた。

「ただいまーっ! あっつーい! もう、やだー!」

どうやら妹が部活から帰って来たらしい。

気だるげと苛立ちが織り交じったような声が玄関から響き渡る。

そりゃ屋外プールの水が風呂になるくらいの猛暑日だ。

屋外の部活動を行う妹でなくても、この暑さには誰もが嫌悪感を抱かざるを得ない。

俺はトイレのドア越しから「おかえり」と言おうと思ったが、痺れるような腹痛に声が出なかった。

しばらくして、「……あれ、兄ちゃん? いないの?」とリビングの方へ歩いていく妹の声。

どうやら暑さで苛立っているせいか、いつもより声量が大きく、トイレにいる俺にも十分妹の声が聞こえて来た。

「ゲーム……は途中だし。コンビニでも行ったのかな? あー、それにしてもエアコン涼しーっ!」

なんとなく、リビングのエアコンの前で両手を広げている妹の姿が、容易に想像できた。

「ふぅ。それにしても、制服が汗で肌に張り付いて気持ち悪いーっ! もう、いいや! 脱ごう! 全部!」

……全部?

「あー、もういいや! 兄ちゃんもいないし、ブラも外そう! そんでパンツも脱ごう! 全裸! オールパーフェクト!」

妹の笑い声がリビングから聞こえてくる。

ああ、うん。暑いと何故か苛立って、テンションが上がるよな、分かる分かる。

……。………って、全裸だって?

「兄ちゃん帰ってくるまで、もうしばらく全裸で過ごそうかなーっ」

それはまずい。

……いや、まずくはないか。

所詮、妹の裸なんて見たところで何ともないし。

ただ一つ問題だとすれば、俺が外出中だと勘違いした妹が、何かしでかさないかということだけだ。

思春期、全裸、誰もいない――ともなれば、人間、一つくらいアンタッチャブルな行動をしでかすというものだ。

「とにかく、このままトイレにいるのはきついな」

腹痛はいつの間にか治っている。

それに、冷房がないトイレの密室はかなり高温で、先ほどから汗が止まらなくなっている。

このままトイレで隠れていると、俺が熱射病で倒れかねない。

「……声を聞く限りでは、まだリビングか」

こっそりとトイレのドアを開けて、そのまま隣の洗面所に移動する。

途中、玄関からリビングまで続く廊下に、妹の衣類が落ちていたのは見なかったことにする。

……脱ぎたてのくるまったパンツって、なんだか虚しさがあるな。

洗面所のドアを静かに閉めた俺は、蛇口から水分補給をする。

さて、ここからどうするか。

ここから玄関も近いことだし、一旦外出して帰って来たと嘘アピールをして、妹が服を着るよう促すか?

いや、妹の服は全部廊下に脱ぎ捨てられていたし、万が一鉢合わせする可能性も高い。

「どうするか……」

洗面所のドアに背中を預けながら思考していると、不意にリビングから妹の声が聞こえた。

「……そろそろ、兄ちゃんが帰ってくる前にシャワー浴びよ! やっぱこのままだと風邪ひいちゃうかもしんないし」

妹の足音がこちらに近づいてくる。

やばい。

正確には、冷静さを取り戻せば、何一つの落ち度も失うものもないはずなのに、なぜか悪いことをしている気持ちになる。

このまま鉢合わせして、なんて言えばいい?


――お帰り。今日も暑いな。

いや、ダメだ。今更そんな普通のことを言いつくろっても無駄だ。


――お前のパンツ、結構子供っぽいのな。

最悪だ。実の兄にパンツのダメ出しをされたら、年頃の女子としては死にたくなる。


――リビングでは、おたのしみでしたね。

おお、死んでしまうとは情けない……ことになりかねない。

 

ダメだ、思考がまとまらない。

耳元ではすでに妹の足音は洗面所の前まで来ていた。

ごくりと、喉が鳴った。


「……。あ、着替え持ってこなきゃ」


パタパタとこのかが、洗面所から二階に上がる音が聞こえる。

ふう、と安堵の息を漏らす。

別にこのかの裸を覗いていたわけでもないのに、何だろうこの背徳感。

「いや、安心している場合じゃないか」

このかが二階の自室で着替えを取りに行っている隙に、玄関から外に一時避難しよう。

それで、このかがシャワーを浴びている最中に帰って来たと言えば、あいつも服を着ているだろうし問題ないはずだ。

そうと決まれば、洗面所から出ようと、ドアに預けていた背中を離れさせようとした瞬間。


「――と、そうだ! せっかくだし、お風呂に湯舟溜めておこーっ!」


俺の意思とは関係なく、洗面所のドアが開いて俺の背中が離れる。

支えを失い、重力に抗うこともしない俺の上半身は、ゆっくりと倒れた。


妹の。このかの。足元へ。


全裸の。年頃の。足と足の間に。


俺の頭は落ちた。


「……え?」

「……は?」

上と下からの二つの声。

俺の視線は、そのまま真っすぐ、このかの股の間へと否応なく注がれる。


悩むことなく、考えることもなく、思案するまでもなく。

率直に、言葉が出た。


「――お前。まだ生えてな――」


昼間にも関わらず、その日。

俺の視界に星が散った。









しばらく番外編が続くかも。

あと、コミケお疲れ様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ