第二話:妹と夕飯
好きか嫌いかと言われたら、それなりにと答える
俺の妹、このかは食べ物の好き嫌いが多い。
ピーマンやわさびなど、子供が嫌う食べ物は例に漏れることなく嫌いだ。
その中でもとりわけ苦手としているのが、ニンジンである。
その日の夕飯はカレーだった。
今日は両親が仕事で帰宅が遅いということもあり、俺が夕食を作った。
普段から家事をしているわけでも、料理が得意というわけでもない俺が
作れる料理なんて、せいぜいチャーハンかカレーくらいだ。
カレーはルーのインパクトが強いため、よっぽど変な材料を入れなければ
不味く作る方が難しく、またカレーが嫌いという人間はいないと言われるほど、外れのない料理である。
もちろん俺も好きだし、聞いたことはないが妹も好きな部類には入るだろう。
よって今晩の夕食はカレーにし、部活から帰ってきた妹と食卓を囲んだわけなのだが。
「……もぐもぐ」
無言でカレーを口に運ぶ妹の皿には、やはりというべきか、ニンジンが避けられていた。
一足先にカレーを食べ終えた俺は、じっと妹の皿を見つめていると、
俺の視線に気付いたこのかが不満げに口を開いた。
「……なに? 人が食べてるとこ、見ないでよ。きもい」
「ニンジン、まだ嫌いなのか?」
「悪い? いいじゃん、好き嫌いくらいあったって。兄ちゃんだって、ホルモンとか内臓系のお肉、食べられないじゃん」
「別に悪いとは言ってない。ただ、残すくらいなら俺が食べてやる」
そう言って俺がスプーンを妹の皿に伸ばすと、さっと皿ごと避けられてしまった。
「何、きもっ。これくらい食べられるし? むしろ最後にとっておいてあるだけだし? 普通に食べられるから」
「あっそ」
親切心を無碍にされた俺は、唇を尖らせてテレビを付けて意識をそちらに向けた。
しばらくバラエティ番組を見ていると、「……ごちそうさま」と妹のつぶやきが聞こえ、
流し台へ皿とコップを片付ける音が聞こえた。
そのまま妹は二階にある自室に向かうため、リビングを出て行ってしまった。
俺はバラエティ番組がCMに入ったのを見計らい、視線を自分の皿に戻した。
「……はあ」
溜め息を一つ漏らした俺は。
皿に盛られたニンジンをスプーンで掬い、口に運んだ。