第一話:妹と兄
俺には二つ下の中学三年生の妹がいる。
これは仲の悪い兄と妹の話。
俺には二つ下の中学三年生の妹がいる。
名前はこのか。
烏の濡れ羽色の髪にキリッとした二重瞼。背は平均より少し小さいくらいの
極々普通の中学生だ。
ルックスは悪くない、むしろ整っている方だとは思う。
テニス部所属ということもあり、無駄な脂肪が付いていないほっそりとしたモデル体型だが、
女性らしさを強調させるはずの二つの脂肪にも恵まれていないのは、コンプレックスだろう。
兄妹がいる奴には共感してもらえるだろうが。
上と下、男と女に限らず。兄妹の仲がいいというのはあまりない。
どちらかと言うと、仲が悪いのがほとんとだろう。
特に年頃の女の子が父親や男兄弟を嫌うのは、近親相姦を起こさないように、
遺伝子が働きかけているというのを聞いたことがある。
実際、俺と妹は類に漏れず、仲が悪い。
会話を全くしない冷戦状態というほどの仲の悪さではないが、
小言や不満をぶつけ合うほどには、仲が悪い。
いつから仲が悪くなったと聞かれると確かな時期は覚えていない。
気がついたら仲が悪かった。
というより、記憶を辿っても仲の良かったエピソードが見当たらないので、
きっと昔から仲が悪かったのだろう。
これは、そんな仲の悪い俺と妹の日常話だ。
「ちょっと兄ちゃん!」
リビングのソファーでうつ伏せになって、漫画を読んでいた俺の頭上から、
生意気な声が降りかかる。
首を回して視線を声の主を認めると、やはりというべきか、まるで虫けらを見るような目で俺を見下ろす制服姿の妹が立っていた。
「おう、お帰り」
「お帰りじゃない! 私の洗濯物、お兄ちゃんと分けて洗ったでしょ!」
「あん? それがどうした?」
思春期の女子は男家族の服と一緒に洗濯するのを嫌う。
だからわざわざ俺と妹の衣類を分けて洗っている。
実際、今洗濯機の中で回っているのは俺の衣類だ。
まさか、自分の衣類を優先して洗えとか、そんな卵が先か鶏が先かのくだらない文句を言うつもりなのだろうか。
そう思って、面倒くさそうに俺が頭を頬を掻くと、このかは苦々しく舌打ちをして、
「水がもったいないんだから、一緒に洗ってよね!」
「……は?」
「ったく。どうせ大した洗濯物じゃないくせに、わざわざ分けて洗うことないのに!
今度からは出来るだけ私の服と一緒に洗うこと! 分かった!?」
「……ああ」
俺の返事を認めたこのかは、「ふんっ」と踵を返してリビングから出て行ってしまった。
ぼんやりと妹の出て行った扉を見つめ、ぽつりと呟いた。
「めんどくせぇやつ」
……ほらな?
仲、悪いだろ?