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162-3、魔海の底でもう一度会えたなら…………。俺が大魔導師様と大喧嘩すること。

 

「ツーちゃん!!!」




「――――――――遅いわ!!!!!!!」




 力場丸ごと叩き割らんばかりの剣幕に、俺は怯え縮こまった。

 次いで彼女の甲高い罵声はマシンガンの如く俺へと降り注いだ。


「貴様ァ!!! よくもよくもよくもこの私をこんっっっっっっっなにも待たせてくれおったなァ!!! この私が…………この大魔導師、偉大なるツヴェルグァートハート・ハンナ・エル・デル・マリヤーガ・シュタルフェア様が恥を忍んで涙を飲んで断腸の思いで直々にお願いしてやったと言うのに…………!!! どうせ貴様のことだ!!! フワフワポワポワメソメソグズグズ、ワンダの如くウロウロスゴスゴとよだれ垂らしてまごついて、ずぅ――――――――っっっと手をこまねいて呆けていただけなのだろうなぁ!? ワンダだってもっと脳味噌の上等なヤツが五万十万百万いや、一億一兆一京とおるわ!!! 何とか言ってみよ!!! え!? 本当に貴様がボケチンのオタンコナスのアンポンタンの腰抜けの甲斐性無しでないというのならなぁ!? えぇ!? 

 そ――――の――――う――――え――――!!!

 あんっっっなにもあんなにもあんなにもこの私が、唯一無二絶対最強の超一流オブ一流のこの大大大魔導師ツヴェルグ様が、心を尽くして尽くして砕きまくって、あの勘違い女のヴェルグめにバレぬよう、こん――――っなにも親切懇切丁寧に誘導してやったというのに…………我が下まで貴様のようなド素人を辿り着かせるのがどれだけ大変か、特にド素人の貴様には思いもよらぬであろうがなぁ…………最っっっ後の最後の段になって、よくもよくもよくもまぁこの私を、この並ぶ者無き絶対的圧倒的究極的魔導師存在の私を、「潰してみよう♪」などと!!! あぁぁあ今思い出しても腹が立つ!!! あんなにもわかりやすく!!! 貴様のために勉強したオースタンの「もーるす信号」とやらを送ってやっていたというのに…………!!! 怒り漲るあまり、つい力が溢れて己で復活してしもうたわ!!! あぁぁああぁぁぁあああぁ下らぬ!!! 下らぬ、下らぬ、下らぬ―――――――――ッッッ!!!」


 彼女の憤怒は、さらに雨嵐と吹き荒んだ。


「大体!!! 貴様の魔術はちっっっともなっておらんのだ!!! 多少扉の力には慣れたようだが、そもそもの基本がマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダダァッ!!!!!!!! 貴様には圧倒的に致命的に決定的に絶対的に集中力が足りないのだ!!!!! 少しうまくいけばすぐに気を抜く!!! 少し失敗すればすぐに萎れる!!! …………子供か!!!!! 怖いよ~! 何もできないよ~! とでも泣けば、ママがやってきて助けてくれると未だに信じておるのだろうなぁ、貴様というヤツは!!!

 甘ったれるな、26歳!!! 貴様がロリコンだろうがマザコンだろうが構わんが、己の手と足と目と頭と!!! 何より!!! ――――魂だ!!!!!

 魂を誇るのだ!!! 心か細き者に魔術は支えられぬ!!! 一体貴様はいつになればわかるのだ!? 青二才なりに経験を積んで泳げてなお、何故にいつまでもママを呼ぶ!? どいつもこいつも…………馬鹿共が!!!

 胸を張れ、それが自由の姿勢だ!!! 全てはそこより編まれるのだ!!! わかるか、この甘えん坊の赤ちゃんワンダめが!!!!!!」


 小さな愛らしい指で強く額を差され、琥珀色のギラつく眼差しに険しく気圧されて、俺は喉に言葉をつっかえさせる。


 みるみるうちに琥珀色の眼差しがまた、激しく怒りに燃え上がる。

 俺は見た目だけは可憐な少女の口から再び罵詈雑言の弾幕がバラまかれそうになったまさにその瞬間、ようやく己の胸の内をぶちまけた。




「うるせぇ!!!!!! ババァ――――――――――――!!!!!!」




「何だと―――――――――――――!?」



「黙って聞いてりゃピーチクパーチク好き勝手言いやがって!!! 遅いだのトロいだのグズだののろまだの!!!」

「そこまで言っておらぬ!!!」

「どうしようも無かったのぐらい予想できるだろ!? ツーちゃんに出来ないことは基本誰にもできないし、そもそもそんなに色々準備したり考えたりしている余裕も暇も無かったの!!!

 どこまで知ってんだか知らねぇけど、今、戦争の真っ最中なんだよ!!! グダグダギトギトドロドロとんでもねぇことになってて、それでなくたって、魔海の最奥なんて普通来られるわけねぇだろ!!! 自分で言ったことも忘れやがって…………偉そうにボケ散らかしてんじゃねぇぞ、この癇癪ババア!!!

 っつーか、魔海の水底に来いって実際、ほとんど死んでるのと同じじゃねぇのか!? そんな場所に呼びつけといて、親切に道案内もクソもねぇだろ!!! 相手が素人だってわかってんなら猶のことだ!!! ヴェルグにバレねぇようにってのはわかるけど、わかりにくいにも程があるんだよ!!! アンタ、何千万年も人間と一緒に生きてきて、まだ人の気持ちがわからないのか!? アホか!! 大魔導師様はアホだったんですかー!?

 あと何だ、「モールス信号」って!? んなもん誰がわかるかってんだよ!!! むしろアンタはどこで覚えた!? 船乗り気取りかよ!! 無駄な気ばっかり回しやがって…………アホンダラのクルクルパーのオタンコナスはアンタだ!!!」


 俺は短く息継ぎし、今にも火を噴きかけているマシンガンの銃口へ向けてトドメの一撃をぶちまけた。


「何より!!!!! まず俺に言うべきことがあるだろう!!!!! 魂だの自由だの御大層なこと抜かす前に、ちゃんと言え!!!!!

 ――――――――照れてんじゃねぇ!!!!!」


 少女の栗色の髪が逆立ち、白い人形のような頬が爆発寸前のトマトみたいに熟れる。彼女は唇をわなわなと震わせ、肩をいからせ、歯ぎしりした。


「…………っ! ……………………、……………………ぅ」

「聞こえない!!!!! ちゃんとハッキリ目を見て言うんだ!!!!!」

「――――――――~~~~っ……………」


 固く握り締められた拳が、さらに強く締め上げられる。両の瞼はそれよりもずっと固く、閉じられている。

 やがて彼女はカッと琥珀色の瞳を見開くと、俺の胸倉を掴んで子供じみた大声で言った。



「あ――――り――――が――――と――――う――――――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!!!!」




 俺は鼻息を荒げるツーちゃんを見下ろし、冷静に呟いた。


「…………「ございました」は?」

「図に乗るな、このクソワンダが!!!!!」


 非力な腕が俺を突き飛ばし、同時に辺りに満ちていた黄色い光が静まっていく。

 後には蛍のいない果てしない水辺と、魂の歌だけが残っていた。


 ツーちゃんがパチンと指を弾くと、人魂のような炎が行灯となって俺達を照らし出す。

 ツーちゃんは出会った時と同じ、赤いワンピースを着ていた。相変わらずの裸足である。喋ったり動いたりしなければ、やっぱりとても愛らしい。


 幼い少女の姿であるのが、懐かしい反面、不思議でもあった。

 話が本当なら、今の彼女は本来の姿と力を解放されていて、こんな格好である理由は無いはずだ。

 見る人次第で彼女の姿は異なるそうが、どうにも俺には違いがわからなかった。


 ツーちゃんは「ふん」と勢いよく顔を背けると、一転、落ち着いた横顔で言った。


「行くぞ。…………くだらん馬鹿共を叩きのめしにな」

「…………ああ、行こう」


 俺は自称大魔導師が正面に大きく輝かせた虹色の光の輪の内へ、一歩大きく飛び込んだ。

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