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扉の魔導師<BLUE BLOOD RED EYES>  作者: Cessna
【第12章】玉座に吠える
303/411

140-3、拡散する廃墟とメリーゴーランド。俺が新たな境地へと至ること。

 ある夜、突如として部屋にやってきた深紅の瞳の少女・フレイアに誘われて、俺(水無瀬孝、26歳ニート)は魔法の国サンラインへと旅立った。

 「蒼の主」ことリーザロットの館に招かれ、正式に「勇者」としての役目を引き受けた俺は、自警団の少女ナタリーらとの出会いを経て、サンラインの歴史を左右する重要儀式「奉告祭」に参加する。

 そこで俺達は五大貴族の一人、及び異教徒「太母の護手」を手引きとした、敵国・ジューダムから襲撃を受け、危機感を募らせる。

 その後、リーザロットの悲願であり、「勇者」の使命でもある戦の和平を実現するため、俺達は少数精鋭で、都市・テッサロスタの奪還を目指して遠征を行った。

 旅はつつがなく進むかに見えたが、その途上で俺達はまたもやジューダムからの刺客と遭遇、ついにはジューダムの王…………俺のかつての親友、ヤガミと対峙する事態にまで陥った。

 魔導師・グレンの助けにより、何とか奪還の望みを繋ぐも、ジューダムの支援を行う「太母の護手」の指導者を倒して、目標達成まであと一歩まで迫ったという時、再びヤガミが俺達の前に立ちはだかった。

 大混戦の中、俺とフレイアは急遽時空の扉を潜り抜け、オースタン…………俺の故郷、地球へと逃れた。

 そこで待っていた真の「勇者」こと俺の妹・水無瀬朱音と、もう一人のヤガミ……ジューダム王の肉体を連れてサンラインへと戻ってきた俺は、最終決戦に挑むため、中立国・スレーンへ同盟を持ちかけに向かう。

 スレーンの頭領・シスイとの決闘に勝利し、晴れて同盟を結んだ俺達は、いよいよサンラインへと帰国する。

 浮浪者じみた風体の男は、片足を引きずりながらゆっくりとこちらへ歩んできた。

 伸び放題の髪に覆われて顔は見えない。クラウスとヤガミが剣の柄に手を添える。男は意にも介さず、じりじりと迫ってくる。

 俺は陽炎のように歪み始めた周囲の景色に身を強張らせた。


 何だ? 何が起ころうとしている?


「止まれ! 何者だ!?」


 クラウスが険しい口調で呼びかけるも、男はなお歩みを止めない。

 ヤガミの目が据わっていく。


 明らかに人ではない。異様な気配…………魔力の気配と呼ぶには、あまりに異質な悪寒が全身を駆け抜けた。

 恐怖が肺を急激に圧迫する。

 魔力の味が全くしない。何か巨大な手が頭から俺の全てを押さえつけているようだ。


 老人が、何かぼそりと呟いた。

 どこかで耳にしたことのあるような言葉。

 同時にクラウスの詠唱が空へ上る。無数の星が瞬くのと機を重ねて、ヤガミが前へと踏み出した。

 フレイアそっくりの斬り込みで、老人へとかかっていく。



 ――――――――…………急に、景色がメリーゴーランドのように回転し始めた。


「!?」


 よろめいた俺の身体がぐにゃりと溶けたガムみたいに歪む。

 クラウスが何か叫んだ。ヤガミの振り抜かれた剣が老人を斬り捨てたかに見えたが、老人は血の一滴すら零さずに、手品の如くボロの服だけ残して消えた。


 景色が回る。

 ユニコーンのような生き物が素早く目の前を横切り、景色はアニメーションの如く走り出す。


「どこへ行った!?」


 ヤガミの声がする。姿は追えない。

 俺の耳元では、何者かの場違いに呑気な声が囁かれていた。


「君は、豚になる、豚になる…………。

 否、否…………。

 グゥブになる…………」


 ぐわんとメリーゴーランドが速度を増して回る。

 四つ足の感覚がじわりと這い上ってくる。

 気づけばメリーゴーランドと全く同じ速度で、俺はとっとこ駈けていた。


 いや、今回はヤバい。

 抗えない。次元が違う。

 扉の力も何も、そもそも魔力も気脈もサッパリ感じられない。


 回る回るメリーゴーランド。

 景色が目についてくる。遠くのレーンで、ヤガミとクラウスがなぜか互いに剣を向けあっていた。


 ピーン! と、俺の頭の中で何かが弾ける。


 マズい。

 頭が。

 あっ…………。



 ……………………――――――――。

 メリーゴーランドがゆっくり止まって、俺達は街の広間に放り出された。


「ブヒー」


 …………俺は可愛い子ブタ。

 いや、子グゥブ。

 まだちっちゃいけど、竜ともトカゲとも違う、どっしりとしたお尻の感じがなんとも誇らしい。

 ひづめだってちゃんとある。

 歩くと石畳に当たってカチャカチャ音を立てる。


 誰に何をされたかサッパリわからないけど、意識はしっかりと残っている地獄。

 哀れな俺をやっと発見したクラウスが悲痛な声を上げた。


「って、ああっ!? コウ様がいつの間にかグゥブに!?」

「何だと!?」


 振り向いたヤガミ達に、俺は元気いっぱいに挨拶した。もうヤケクソだ。


「ブヒッ!!」

「一体なぜ…………? 何の魔術の発動も感じられなかったのに…………。よもや、ご自分で!? 何か意図あって変化なされたのですか!?」

「フガーッ!」


 んなわけあるかい!

 ヤガミが辺りを見回しながら、声を投げてきた。


「ったく、次から次へと…………。俺は確かに、あのジイさんに斬りかかったはずだ。なのにどうしてクラウスと戦っていた? コウは一体何でブタなった? 何者なんだ、あれは!?」

「ブタ…………? まぁいい。ともかくも、今は何もわからない。魔物かどうかすら判断がつかなかった」

「ンゴゴーッ!」

「コウ、何喋ってるかわかんねぇぞ! 早く元に戻れ! っつぅかコレ、本当にコウなのか?」

「ピギィーッ!」

「コウ様の魔力は知っているだろう。大体、こんな珍妙な振る舞いをするグゥブなんて、コウ様の他にいるわけないじゃないですか!」


 珍妙とは何だ! お前達の周りを必死で駆け巡って、匂いを嗅いでいるだけだろうが!

 いつまたよくわからない化物に入れ替わっているか、こっちは気が気じゃないんだ。

 認めたくないことだが、こういう姿の時の方が魔力がよくわかるのだ。


「フンッ、スンッ…………フン、フン、フンッ!!」


 ヤガミがさも嫌そうに足をもつれさせる。クラウスは寂れ果てた街を眺めながら、やはりちょっと嫌そうに入念に確認する俺を跨ぎ越した。


 ふむ。

 ひとまず調べた限りでは、どうやら2人とも本物らしいが。


「気が済んだか、ブタ野郎?」

「ブゥ」


 会話する俺とヤガミから、クラウスが耐え難いものを見るように目を逸らす。


 それにしても、これでは埒が明かない。どれだけ地団太を踏んでも、ドン引きの眼差しを浴びるばかりだ。

 あーあ。これがフレイアやリーザロットだったら、きっととっても心配してくれたのにな。


 とにかく、早くこの力場を攻略しなくては俺の沽券に関わる。

 何だかお腹も減ってきたし。

 ここはやはり、俺が扉の力を駆使して突破口を開くしかないのか。

 と、勇んで街へ乗り出そうとした俺を、誰かがヒョイと抱き上げた。


「プキャッ!?」


 小さなおててとあんよを一生懸命バタつかせる俺を、誰も見ていない。

 ヤガミとクラウスが呆然として見上げているのは、俺を胸に抱え上げた女性…………頭に当たる豊かな胸の感触でそうだとわかる…………であった。


「蒼姫、様…………?」


 クラウスが呟く。

 女性は肩にまで流れる豊かな黒髪をはらりと掻き上げ、優しく、しかしどこか果てしなく冷たく、話した。


「…………私について来てください」


 俺は身体をねじり、女性の顔を見ようと努める。だがしっかりと抱きすくめられた小さな俺は、彼女の顔を確認することができない。声と魔力の感じは、間違いなくリーザロットなのだけど。

 何か…………何かが、違う。


「リズ…………なのか?」


 ヤガミが問う。

 クラウスは即座に彼を睨みつけたが、何も言わなかった。親愛と戸惑いとが空色の瞳に入り乱れている。

 女性は軽く笑って、彼らに返した。


「そんなに警戒しないでください。私は彼女の欠片。…………ここに住んでいるの。もう長いこと。あの子自身は、もうすっかり忘れているけれど」


 トレンデ、あの夕日と影の国で出会ったリーザロットのことが頭によぎる。

 彼女の体温や肌の湿り気、ベッドの軋み、埃の匂い。生々しい記憶がいっぺんに蘇ってきて、俺は気恥ずかしくなった。


 この人も、あの人と同じ霊体の欠片か。

 だとすれば、ある意味危険といえば、危険なのだろうが…………。


 クラウスとヤガミが視線を交わしあう。

 二人はちらと俺と目を合わせ、リーザロットに近寄ってきた。


「…………わかりました。タリスカ様のもとへ、ご案内いただけませんか?」


 クラウスの言葉に、リーザロットが頷いた。


「ええ。私も「久しぶりに」あの人に会いたいですから。…………さぁ、こちらへ」


 歩き出すリーザロットについて、ヤガミ達が街の路地へ入っていく。

 俺は頭にふにょんとした柔い心地を感じながら、おとなしく前を見ていた。


 焼き払われた家々の間に張られたロープに、ボロ布と化した洗濯物がいまだに掛かっている。

 家の前に捨てられた子供のおもちゃの上を、虫人間が這っていた。

 ゾッとする程個性の無い眼差しが、じっとこちらを見ている…………。

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