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扉の魔導師<BLUE BLOOD RED EYES>  作者: Cessna
蒼天の決闘
283/411

131-1、宣戦布告。いざ戦の空へ。俺がようやく腹を括ること。

 ある夜、突如として部屋にやってきた深紅の瞳の少女・フレイアに誘われて、俺(水無瀬孝、26歳ニート)は魔法の国サンラインへと旅立った。

 「蒼の主」ことリーザロットの館に招かれ、正式に「勇者」としての役目を引き受けた俺は、自警団の少女ナタリーらとの出会い等を経て、サンラインの歴史を左右する重要儀式「奉告祭」に参加する。

 そこで俺達は五大貴族の一人、及び異教徒「太母の護手」を手引きとした、敵国・ジューダムから襲撃を受け、危機感を募らせる。

 その後、リーザロットの悲願であり、「勇者」の使命でもある戦の和平を実現するため、俺達は少数精鋭で、都市・テッサロスタの奪還を目指して遠征を行った。

 旅はつつがなく進むかに見えたが、その途上で俺達はまたもやジューダムからの刺客と遭遇、ついにはジューダムの王…………俺のかつての親友、ヤガミと対峙する事態にまで陥った。

 魔導師・グレンの助けにより、何とか奪還の望みを繋ぐも、ジューダムの支援を行う「太母の護手」の指導者を倒して、目標達成まであと一歩まで迫ったという時、再びヤガミが俺達の前に立ちはだかった。

 大混戦の中、俺とフレイアは急遽時空の扉を潜り抜け、オースタン…………俺の故郷、地球へと逃れた。

 そこで待っていた真の「勇者」こと俺の妹・水無瀬朱音と、もう一人のヤガミ……ジューダム王の肉体を連れてサンラインへと戻ってきた俺は、最終決戦に挑むため、中立国・スレーンへ同盟を持ちかけに向かうのだった。

 朝礼の時刻、俺達は揃って誓いの祠に姿を現した。


 頭領のシスイ、そして家臣らが一同に目を見張る。

 それも当然だ。

 竜と化した俺と、それに跨ったヤガミ。武装したフレイアとジン、そしてリーザロットにタリスカ。その上、一団を引き連れているのは他でもない、彼らの寵姫であるはずのアオイだったのだから。


 アオイは白無垢じみた華麗な装束に身を包み、天高らかに声を響かせた。


「兄上! 決闘を申し込む!」


 家臣たちが俄かにざわつき、困惑の視線を交わす。

 シスイのすぐ側に控えていた、シドウという年長の男性が人だかりを割って前へ出てきた。


「アオイ様! 何の真似ですか?」


 毅然として動じないシドウに、アオイもまた怯まなかった。


「シドウ! 聞こえなかったのであれば、もう一度言うてやろう!

「決闘」じゃ! これよりこのミナセが、「竜の証」を示す!」

「竜の証…………?」


 シドウが浅黒い顔を顰める。

 彼の後ろでは家臣たちが、「「決闘」とはなんだ?」「確か古い習わしで…………」「あの竜…………まさか人なのか?」などといった会話をひそひそと続けていた。

 最奥に立つシスイは、何かを噛み殺したような表情で俺達を見ていた。


 シドウがもう一度、アオイに尋ねた。


「何故「決闘」をお望みで? ご説明頂かなくては、頭領のみならず、我々も納得できませぬ」


 アオイは細い腰に手を当て、家臣らを見渡して言った。


「わらわはこのミナセに「竜の証」を見た! 竜王様の御意思はここにこそあり! わらわはそれを届けるために、ここへ参じた!」

「竜王様の御意思、でございますか」

「ああ、そうじゃ。…………この戦、我らのみにては道を踏み違う。我らは強く、失うことを恐れぬ。じゃが、今はその時ではない。…………竜王様は、そう告げられた」


 凄まじい口から出まかせである。これにはヤガミも舌を巻いているに違いない。

 本当はそんな証もお告げもなく、こじつけただけだ。

 シドウは黒光りする鉄球じみた瞳でアオイをひたと見据え、言葉を継いだ。


「アオイ様。悪ふざけをなさるには少々、間が悪くございますよ」

「冗談などではない! わらわは本気じゃ! 退け、シドウ!」

「…………」


 シドウが目を瞑り、それからまた静かに開く。

 俺とヤガミを見つめるその目は、皺一つ寄せていないというのにゾッとするほど険しかった。

 彼は誰にともなく、低く呟いた。


「…………承知いたしました。では、その「竜の証」。とくと拝見させて頂きましょう」


 シドウは振り返るなり、家臣達に言った。


「皆の衆、括目せよ! 決闘者の資格たる「竜の証」、いざ見届けん!」


 ざわつきが俄かに収まり、人々がシドウの下へと集まってくる。もうこの人が頭領でいいんじゃないかな? そういうわけにもいかないものなのかな?

 次いでシドウは、未だ動かずにいるシスイを呼ばわった。


「頭領」

「…………わかった」


 シスイがゆっくりと歩んできて、シドウの隣に並ぶ。

 彼の黒く凪いだ眼差しを真っ向から受けて、俺は少し緊張した。

 オパールのイヤリングが鋭い日差しを浴びて尖っている。風に煽られて虹色がゆらりと揺れた時、全身がひりつくような不思議な感じを覚えた。


 空が青く晴れている。

 どうしようもなく晴れている。

 昨日山裾を遥かに覆っていた雲海は、今朝はもうどこにもない。

 見渡す限り広がる、岩と風と緑の壮麗な山脈。

 冷たく切り立った群青を背負い、シスイは話した。


「アオイ。今更怖くなったのか? どのような選択をしようと、失うものは必ずある。わからないとは言わせないぞ」


 アオイは微かに目を細め、大人ぶらずに答えた。


「…………わかっておる。じゃが、誰かが暴れねば立ち行かぬ。

 誰も死なせとうない。何も壊しとうない。いずれも当たり前で正しく、そして不可能じゃ。

 じゃが、黙って従ってはいかん。無理矢理に納得するのだけは、絶対にいかんのじゃ。皆が皆そのようにしては、失われゆくものは浮かばれぬ。誰か、最後の最後の最後まで手を尽くし、みっともなく愚かしく意地汚く抗う者がおって、ようやく心は無理を飲み込む。

 兄上。おぬしがやれぬと言うのなら、わらわがそれをやる。このミナセとヤガミが、証を示す」

「…………俺がいい加減に道を選んだと言いたいのか?」

「いや。ただ、根性が足らんと言うておる」

「…………」


 シスイが微かに瞳の黒を霞ませる。

 お怒りはごもっともとしか言いようがないが、これはアオイの勝ちだった。

 シスイは誰にも聞こえる声で言った。


「いいだろう。コウさんが本当に「竜の証」を顕現できたなら、受けて立つ。

 …………俺にも里を守る覚悟がある。本気でやらせてもらおう」


 本気。

 テッサロスタへの道中で彼が見せた、人間離れした竜捌きの数々が頭によぎる。

 「決闘」って、ああいうのを駆使してマジで戦うってことだよな?

 シスイは弓の腕も確かだ。

 今更になって、全く勝負にならないのではと血の気が引いていく。下手をすれば、俺かヤガミか、あるいはどちらもが命を落とす。


 ヤガミは知らぬが仏ってやつだろう。

 ただ小さく頷き、俺と目を合わせてくる。

 事前の計画通りに行こうと、そういう意味なのはわかっているが…………。

 やっぱりこれ、無謀以外の何物でもない計画だったんじゃ?


 アオイが俺とヤガミの近くへと歩んでくる。

 彼女は俺達に、短く囁いた。


「では始める。準備は良いな?」

「失敗は許されない。…………わかってますよ」


 ヤガミの冷静さは力場を通して淡々と染みてくる。俺とは対照的に、土壇場でいよいよ肝が据わるタイプなのだ。時によっては、本当の危険さえ平気で冒す。(だから俺は余計に不安が募るわけだが)

 俺はアオイを見返して、小声で聞いた。


「竜の証…………白竜召喚。万が一ダメだったら、どうするんだ?」


 アオイは誰の癖が移ったやら、肩を竦めて返してきた。


「できる、できないではない。「やる」のじゃ、ミナセ。…………そして勝つ。それだけじゃ」

「違いない」


 アオイとヤガミは同時に俺の手綱を強く掴み、さらに念を押した。


「ウッ! ちょ、痛っ…………」

「よいか、ミナセ。…………速攻じゃ。時間をかければかけるだけ不利になる」

「コウ、わかってるな。…………半径5メートル。それが勝負の間合いだ」


 この人達は狂っているのかなと不安になった時、側にもう一人、近付いてきた。


「コウ様」


 ああ、この愛しいハスキィボイスはと振り返ると、紅玉色の瞳が燃え盛るように爛々と輝いていた。

 彼女は明るく好戦的な笑みを浮かべ、胸の前で手を組んだ。


「今日で勝負が決まります。ご重圧、如何ばかりかとご心中お察しいたします。…………コウ様のことは、このフレイアが何としてでもお守りいたします。お力になれるよう、我が弟子共々、全力を尽くす所存です!

 どうか、ご武運を! コウ様なら必ずや、運命を勝ち取られるでしょう!」


 不安を吐露する相手が全方位誰一人としていない。

 諦めの境地に至った最後、リーザロットとタリスカがやって来た。

 リーザロットはフレイアと同じように胸の前で腕を組み、祈った。


「貴方に主の恵みが降りますように」


 優しく柔らかな眼差しは、次いでヤガミへと注がれた。


「…………あまりご無理をなさらぬよう」


 ヤガミは無言でいる。表情こそ窺えないが、力場を介して伝わってくる感情はこそばゆかった。


 タリスカは虚ろな眼窩の奥からじっと俺達を見つめ、一言、厳かに言った。


「戦だ」


 和んでいた空気が強いつむじ風に攫われ、痺れ上がる。

 ピンと張った糸をはじくように、アオイの詠唱が始まった。

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